本展の展示はラーションが1882年に移り住んだフランスの村、グレ=シュル=ロワンで描かれた作品や、サロン出品作を中心に始まります。展示室を彩るのは、農村の四季の風景や農作業に従事する人々の姿。ラーションの描く自然の風景はバルビゾン派のようにのどかで詩的であり、またクールベのように写実的です。展示には多くの油彩作品が含まれますが、ラーションはとりわけ水彩画の卓越した才能を持っていました。自然の風景と、人々の日常の様子が水彩画独特の透明感とともに見事なハーモニーを奏でていることに注目です。
続く展示では、ラーションのスウェーデンでの軌跡をたどります。1889年にフランスからスウェーデンへと拠点を移したラーションは、母国で確固たる名声を手にします。ラーションのキャリアで最も重要な仕事のひとつとなったのが、ストックホルムの国立美術館の正面階段の壁画です。本展ではこの正面階段のために描かれた6つの巨大なフレスコ画のエスキス(習作)の展示を見ることができます。
また、スウェーデン出身の著名な作家、アウグスト・ストリンドベリ(August Strindberg)や、セルマ・ラーゲルレーヴ(Selma Lagerlöf)の肖像画も、自国でのラーションの活躍を物語る代表的な作品です。木炭によるモノクロに近い色調や、モデルの名前を下方に記すルネサンス風の画面構成に、ラーション独特の美意識が感じられます。
『わたしの家』は、1890年代に描かれたラーションの水彩画のシリーズ作品です。1899年に画集として出版され、大きな反響を呼びました。スンドボーンというスウェーデンの田舎の村にある家を舞台に、ラーションの家族の日常の光景が描かれています。妻の父親から譲り受けたこの家は、当初は決して広いものとはいえず、子どもたちの成長にともなって、改装・改築が施されていきました。そのため家の内装や家具が作品によって少しずつ変化しているのが見て取れます。またスウェーデンの伝統的な夏の風物詩「ザリガニ釣り」を描いた作品では、その画面構成にジャポニスムの影響がうかがえます。実際ラーションは日本美術のファンであり、浮世絵のコレクションを所有していました。
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展示の様子をご紹介します。>>
Update:2014.5.1 文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
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