チェコ共和国の首都プラハ中心部を流れる雄大なヴルタヴァ川。その川に架かる中世に建造されたカレル橋はプラハ城を望める最高のスポットとして、毎日人が絶えることのない場所です。そのカレル橋の北に位置するマーネス橋の旧市街側の袂には、ハプスブルク家のフランツ・ヨーゼフ皇帝(1830-1916)の時代、1884年に建築された芸術家の家ルドルフィヌムがあります。現在はチェコ・フィルハーモニーの本拠地でもありますが、建築家のひとりがチェコ国立プラハ美術工芸博物館を手掛けたヨゼフ・シュルツ(1840-1917)です。ルドルフィヌムと博物館は11月17日通りを隔て、隣同士に並び同じ親に生み出された建築物なのです。そして1918年のチェコ・スロバキア共和国建国に先駆けて、国民のナショナリズムが最も高まっていた時代に、誇り高い精神の下で建設された建物なのです。
1897〜99年にネオ・ルネッサンス様式により建設されたチェコ国立プラハ美術工芸博物館は、1885年にプラハ貿易商工会議所により設立されたチェコ国立プラハ美術工芸博物館のコレクションを展示する用途で建てられました。現在の建物が完成する前は、前述のルドルフィヌムが展示会場として使用されています。1900年には新しい博物館のオープニングが行われ、その後多くの協力者や寄贈者を得て、展示物の数は増え続けていきます。
しかし第二次世界大戦が始まると、当時多くのプラハ市内の建物がそうであったように、軍事目的でドイツ軍に占領され大半の展示物は別の場所に運びだされ、プラハ郊外に隠されました。その後第二次世界大戦が終結すると、チェコでは共産主義の時代となり、すべての建物や財産は国有化されていきます。この時代には国内のいくつかの美術館や博物館が機能的に統合されていきました。
再びチェコ国立プラハ美術工芸博物館としての独自の歩みが始まるのは、共産主義体制が崩壊した1989年です。新しい事業の一環として国から返還された個人の建物や教会などの改築・改修活動に積極的に参入することによって、多くの美術品に接触できる機会が設けられました。このことは、さらに多くの寄贈者を募ることにも繋がります。その例のひとつがプラハ郊外にあるカレルシュテイン城の宝物品のコレクションです。1995年にインジッヒ・ワルデス氏より寄贈された14世紀の貴重な展示物は、こうした活動なしには得られなかった重要な展示物のひとつです。
1989年以降は新しい芸術を紹介していく活動も始めます。主に1900年代初頭のキュビズム様式、アール・デコ様式や1990年代のポストモダン期の応用美術に注目します。また世界的に活躍するようになるチェコ・アーティストを積極的に取り上げます。建築家であり装飾デザイナーでもあるボジェク・シーペック(1949-)や写真家のヨゼフ・コウデルカ(1938-)など、その他外国で活躍するアーティストにも焦点を当てていき、新しい時代の博物館のあり方を確立していきます。
現在国内外を含めて、年に数回の移動展示会も行っています。昨年は日本でもボヘミアン・グラスの魅力を日本の方々に知っていただくために、サントリー美術館での展示が開催されます。2015年は名古屋と神戸でも展示開催予定があるようです。
現在、チェコ国立プラハ美術工芸博物館に展示されているコレクションは、開館以来収集されてきた膨大なコレクションのわずか5%だと館長のヘレナ・ケーニクスマルコヴァー氏は語ります。展示物の内容は、グラス、陶磁器、時計、布製品、家具、絵画、ポスター、写真、本など多岐に渡り、機能的で品質に優れ、かつ美しいという観点において、あくまでも人間の生活に密接にかかわったコレクションを提示することがチェコ国立プラハ美術工芸博物館の流儀でありコンセプトです。
展示スペースが限られている現在の博物館において、建物の改修と展示スペースの合理化は必須であり、そのため2015年より約2年間内部の修復工事と展示スペース拡大の作業に入ります。館長のヘレナ氏は2年後の展望について、以下のように述べました。「2年後にはより快適で安全に生まれ変わった建物で現在より多くのコレクションをご覧いただけます。私どもの歴史ある建物と一体化したコレクションを見ていただくことにより、そこから皆さまになんらかのエネルギーを感じていただき、素晴らしい経験をしていただけることを願っています。2年後の再開にぜひ期待していてください」。
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Update : 2015.1.5
文・特記なき写真 : クレメントゆみ子(Klement Yumiko)
チェコ共和国プラハ在住。コーディネーター、現地ガイド、ウェブライター
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