2013.12月 取材

京都の「和」の空間にモダンアートが融合。
パリ・デザインウィーク 2013、ミラノサローネ2013の帰国展を訪れました。

京都、御所の西隣にある有斐斎(ゆうひさい) 弘道館(こうどうかん)。江戸中期の京都を代表する儒者である皆川淇園(みながわきえん、1734-1807)が1806年に創立した学問所として知られています。弘道館は淇園がその晩年に開いた私塾で、門弟三千人と言われたほどです。
その弘道館は、たくさんのボランティアや支援者の協力を得て、マンションへの建替の危機を逃れ、現在では茶会や講座、展覧会などを通して京都の文化について知っていただくための場所として使われています。

弘道館の入り口。四季折々の緑が美しい、趣ある建物です。

2013年はこの弘道館で12月3日から11日まで「SALON de IPEC 2013 in Kyoto 日本デザインの今」と題して、主にパリ・デザインウィーク出展者の作品が展示されました(日本インテリアプランナー協会主催)。
今回はその出展者8名の作品をそれぞれ取り上げながら、インテリアにおけるデザインの潮流をさぐってみます。
まずインテリアデザイナーの安藤眞吾さん。<タタミスツール>は2011年ミラノサローネにも出展されましたが、今年のパリ・デザインウィーク出展での反響を踏まえて作り直したのが今回の出展作品です。
「以前フランスでは『タタミゼ』という言葉が流行したように、とても日本の文化をリスペクトしています。畳を身近な素材として受入れてくれていますね」とのことでした。

安藤眞吾氏と<タタミスツール>

次はフラワーデザイナーの澤田芳美さんによる<刻々>というタイトルの作品です。時間の流れ、人生、命、生命がテーマ。「この作品では、命が刻々と変化する様子、枯れていく様子を表現しています」とのこと。また、「フランスの方がとても尊敬している日本の侘び、寂び、禅の精神を表現しています」ともおっしゃっていました。作品全体は極めて日本的な表現でありながら、フランスが発祥のプリザーブドフラワーを用いることで西洋も融合されている作品です。

澤田芳美氏と<刻々>

3番目はランドスケープ・デザイナーの曽和治好さん。<ガーデンナノ>というこの作品は、「机の上における庭」を作りたかった、という曽和さんのコンセプトがとても伝わる作品です。まさに「デスクトップガーデン」、「持ち運べる庭」。海外では「スーツケースに入れて庭を持って来てくれてありがとう」と喜ばれるとか。音声や振動の大きさによって青色LEDが使用されているライトの部分の動きも変わるため、「まるで水が流れているようだ」と表現されることが多いそうです。贈り物として喜ばれそうな作品です。

曽和治好氏と<ガーデンナノ>

次はインテリアデザイナーの玉井恵理子さん。作品は<爽爽さわさわ>。その迫力に驚きましたが、小さな風にも和紙が揺らぐ様子は作品名の通り「さわさわ」と音がするようです。1年のうち約半分を海外で過ごす、という玉井さんは「旅先で得たインスピレーションをモノづくりにおいてとても大切にしている」とのこと。その中で自分が表現したいものは日本のものであることを認識されたそうです。この作品では「清らかで災いを避けることができるものを表現」しています。

玉井恵理子さんと<爽爽さわさわ>

次の登場は建築家・アーキテクトタイタンの河原司氏です。作品名は<Budsバッツ>。奥のフロアランプは「天」を表現し、手前のテーブルランプは「地」を表現。どちらも一切釘や金具を使わない日本の建築技術を応用しています。木栓を新芽に見立て、柱は幹、棚板は枝葉を表現しています。光が入ることで棚板には海、草原、森、山などの自然のモチーフが表現されます。「自然を家の中に持って来よう、というコンセプトで作りました」とのことです。

アーキテクトタイタン・河原司氏と<Buds>

そして草木義博氏の登場です。草木氏は建築デザイナーであり、パリ・デザインウィーク出展実行委員長でもあり、この帰国展の開催の音頭も取っていらっしゃる方です(詳細記事はこちらをお読みください)。今回の帰国展ではパリ・デザインウィークでも好評だった<紙の間、影の匂>を出展。ミラノサローネにも8回出展されており、ヨーロッパと日本のデザインに関するとらえ方に関して、肌で感じていらっしゃいます。「この作品は和紙のグラデーションで成り立っています。一方向から光が当たるとまさに光がグラデーションを作り出すのです。そこで<影の匂>と表現しました。作品の中でどのように和を表現するか、は常にテーマですね」とのことでした。

草木善博氏と<紙の間、影の匂>

そして次はインテリアデザイナーのデザインクラブ・小川千賀子さんです。今回の作品のタイトルは<掛け軸>。「床の間に掛ける掛け軸一つでその空間の格を上げる日本人の精神は素晴らしい文化だと思います。今回はその床の間という空間で、“光が当たってこそ見える影”を表現したいと思いました」手前の花が生けてある黒い箱の中にはプロジェクターが入っており、ここから床の間に光を当てています。現代の表現方法によって、伝統的な床の間が前衛的なスペースとなって生まれ変わりました。

小川千賀子さんと<掛け軸>

そして最後は建築家の北川良明氏と<灯>です。現代の技術と和の融合がテーマですが、この作品はぜひ食卓に飾ってもらいたいと思って作りました、とのこと。「このライトは人の声に反応するセンサーが中に入っています。そのため食卓を囲んでみんなが会話するとそれに反応してさまざまに光ります。フランスでにぎやかな食卓を見て、ぜひそのような場にこの和紙のライトを置いてもらいたい、と思って作ったものです。何かインターナショナルなものを作りたい、という気持ちもあったものですから」とのことでした。

北川良明氏と<灯>

最後に弘道館の館長をされている濱崎加奈子さんにお話をお聞きしました。濱崎さんは東京や京都の大学で教鞭を執るかたわら、このような伝統文化を残す活動をされていらっしゃいます。「この弘道館がマンションに建て替えられる、という話が持ち上がった時は、何とかしてそれを止めて、京都の文化を守らなくてはならない、と思いました。多くの方の協力もあって弘道館はこのように文化の拠点として継続することができました。さまざまな講座やイベントを開催していますので、ぜひみなさまも足をお運びください」とのこと。歴史と伝統が色濃く残る京都でも、このような問題と立ち向かい、濱崎さんのようにそれを守るために精力的に活動している方がいらっしゃるということを知りました。

 

MMMでは、2014月よりこの帰国展出展者の方の一部作品を商品化し、3Fアートスペースで展示・販売する予定です。ご期待ください。

有斐斎 弘道館の詳細はこちらから
http://kodo-kan.com/
日本インテリアプランナー協会・関西インテリアプランナー協会に関する情報はこちらから
http://www.kipa.or.jp/

 

[FIN]

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