2013.7月 取材

日本にいながらにして出会えるボストン美術館の名品。
〜名古屋ボストン美術館〜

名古屋ボストン美術館外観。

愛知県名古屋市。JR名古屋駅からひと駅のJR金山駅で降りると南口のすぐ右手にそびえ立つ名古屋ボストン美術館。現在この名古屋ボストン美術館では「アートに生きた女たち」展が開催されています(9月29日まで)。
名古屋ボストン美術館は1999年にアメリカのボストン美術館の姉妹館としてこの地に開館しました。以来、さまざまな企画展の開催により、ボストン美術館の所蔵作品を日本で紹介しています。昨年は「ボストン美術館 日本美術の至宝」展の大成功により、日本で日本美術のブームを起こすきっかけにもなった、と言っても過言ではないでしょう。
本日は学芸員の比戸奈津子(ひどなつこ)さんに「アートに生きた女たち」展をご案内いただきながら、ボストン美術館の名品を見ていきます。

今回の企画展のシンボルともなっているマリー・ルイーズ・ヴィジェ=ルブランの<若い女の肖像>。作品の前でぜひその目力を実感してください。

まずは今回のこの企画展の主旨に関してお伺いしました。
「タイトルからお分かりかと思いますが、今回は女性作家の作品の展覧会です。でもそれは主題ではありますが、決してフェミニズムの追求なのではありません。時代を追って変化していく女性芸術家のテーマや描き方などは非常に興味深いものです。また、モリゾとマネの作品を並べて展示することによって、近しかった作家同士の関係性に触れてみる、またそれが作品にもたらした影響を感じてみるといったように、単なる女性作家の作品展示という点にとどまらない部分もぜひ楽しんでいただきたいと思います」と比戸さん。例えば夫の作品と妻の作品を同時に見比べることにより、共通するもの、または全く異なるものなど、対比させることによって作品に対する興味もさらに湧いてきます。

「芸術におけるパートナーシップ」の展示。夫婦・恋人またはそれ以外のさまざまなパートナー同士の作品をご覧ください。

「女性が作家として活躍できるようになったこと自体が新しい時代の到来を意味します」と比戸さん。女性作家が男性名を名乗って作家活動をしていたこともあった時代の後、女性作家が堂々と活躍できることは新しい時代の到来を意味しました。
その代表的な画家とも言えるエレン・デイ・へールの<自画像>はまさに新しい時代の到来を宣告しているかのような一枚。画家であることを示す力強い手、それを隠さない姿勢、そして挑むような目。「女性の来館者に絶大な人気の作品ですね」ということですがなるほど、納得の作品です。
女優として活躍、アルフォンス・ミュシャを一躍有名にしたサラ・ベルナールによる見事なブロンズの彫刻や、かなりの重労働であったステンドグラス製作の分野でも活躍した女性作家の作品など、絵画以外にもとても興味深い作品が並びます。

エレン・デイ・へール(アメリカ、1855-1940)
<自画像>
1885年 油彩・カンヴァス
サラ・ベルナール(フランス、1844-1923)
<幻想的なインク壷スフィンクスとしての自画像>
1880年 ブロンズ

そして豊かになった交通網を使って戸外へと出ることも可能となり行動が自由になることで、女性芸術家たちの作品のテーマも、「屋外・屋内」「静物画・肖像画」といったことにとどまらない自らの描きたいテーマを探して描く時代がやってきます。
女性が戸外で働く男たちを描いているエメ・ラムの<待機>、豊かな生活の中で自分の息子たちを大作に描いたマリー・ダンフォース・ページの<サム、ルイス、ウォード>など、テーマは広がっていき、関心を持った場所、描きたいものがある場所で女性たちは絵筆を持つようになります。

(写真右)エメ・ラム(アメリカ、1893-1989)
<待機>
1941年 油彩・カンヴァス
(写真右)マリー・ダンフォース・ページ
<サム、ルイス、ウォード>
1912年 油彩・カンヴァス

時代はさらに進み、工芸の分野でも女性が活躍するようになり、現在へと至ります。
「今回の展覧会のテーマはフェミニズムではないことは先ほど申し上げましたが、ボストン美術館の豊かな作品を通して、芸術やデザインの発展において女性芸術家の果たした役割がいかに大きかったのか再確認していただけるのではないかと思います。お客さまは、女性の作品だから見にいらっしゃるというわけではないと思いますが、時代考証と併せて見ていくと非常にいろんな意味で興味深い展覧会だと思っていただけるのではないでしょうか」と比戸さん。平日のこの日も、多くのお客さまが熱心に音声ガイドで1点ずつ作品の前で作品解説に耳を傾けて時間をかけて鑑賞している姿に出会いました。

来年は開館15周年を迎える名古屋ボストン美術館。記念の企画展も準備されているとのことで来年はさらに注目が集まることでしょう。
アメリカのボストン美術館は日本の浮世絵などを多数収めていることもあり、館長はじめ皆さんがとても日本に親しみと関心を持っていらっしゃいます。MMMのサイトにも館長の動画メッセージと美術館の紹介記事を寄せていただいております。併せてぜひお楽しみください。

©名古屋ボストン美術館

 
広報からのコメント
この展覧会では、ご鑑賞とともに、ルブランの肖像画やヘールの自画像の顔出しパネルやドレスアップコーナーをご用意。なりきり体験や記念撮影でお楽しみください。
お子さまにはワークシート「ナボンとうさぎのヒントブック」を差し上げます。当館のキャラクターのナボンくんとうさぎちゃんが作品を見るヒントを教えてくれ、ご家族皆さまでお楽しみいただけます。同時に5階図書コーナーではぬりえ体験ができ、親子でもお子さまだけでも参加OK。力作は館内にも展示します。ご来館をお待ちしております。

名古屋ボストン美術館
詳しくはこちらから→http://www.nagoya-boston.or.jp/index.html
 

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