2013.6月 取材

多くの観光客で賑わう浅草で
日本の美術工芸を伝えるアミューズミュージアム。

今も昔も多くの観光客で賑わう浅草・浅草寺。

台東区浅草。スカイツリーが完成してから1年が経ち、平日でも海外からのお客様を初め、多くの観光客で賑わう観光スポットとなっています。 その中心はやはり浅草寺。そして今回訪れた「布文化と浮世絵の美術館 アミューズミュージアム」はその本堂からすぐのところにあります。
今回はアミューズミュージアムの館長・辰巳清(たつみきよし)さんに、このミュージアムができたきっかけなどについて伺いました。

アミューズミュージアム外観。
目の前にはスカイツリーがそびえます。

アミューズと言えば、著名アーティストを多数抱える芸能プロダクションで、エンターテインメントを本業とする企業ですが、なぜミュージアムを作ろうと いうことになったのか、そのことについてまずお聞きしました。「アミューズはおっしゃる通り芸能プロダクションを主体とするエンタテインメント企業です。アーティストの育成のみならず、音楽、演劇、舞台や映画などの制作も行っていますが、お客様に楽しんで頂くビジネス、という意味では他の芸術芸能も美術館も同じで、楽しみながら学んで頂けるミュージアムを作ろうというアイデアから、このミュージアムの構想が決まったのです」、と辰巳さん。

辰巳さんのご案内によりまず2階の展示室へ。現在このミュージアムでは「布を愛した人たちの知恵と美とデザイン」展が開催されています(9月29日まで)。まずは常設展示の「奇跡のテキスタイルアート BORO」を見学しながらこのミュージアムの設立にまつわるお話をお聞きします。

まるで流行の先端を行くショップのような館内。「若い人たちが距離感を感じないような展示になるように心がけています」とのことです。

「ミュージアム設立のきっかけは、2009年春に、アミューズの大里会長が、同郷・青森の民俗学者・田中忠三郎(たなか ちゅうざぶろう、1933-2013)とたまたま出会ったことに始まります。田中氏は20代の頃から青森県を中心に、考古学と民俗学の研究をはじめ、およそ50年がかりで民俗学資料、特に庶民の衣類を中心に収集・保存する活動を行ったのですが、その資料のコレクションは約3万点に及ぶ膨大なもので、この展示室では、ボロ布のアート性に注目した展示を行っています。」

青森の農民が使用していた「ドンジャ(青森の方言で布団のこと)」。左が普段用で右が客人用。寒い冬、家族がみんな身体を丸めてドンジャの中で身体を温めながら寝たそうです。

昔、着物は最初訪問着として縫われ、傷むと部屋着、その次には部屋着となり、それでも使えなくなったものは裂いてまた織り、何代にも渡って大切に使用されていたそうです。

「冬寒く経済的にも厳しい条件の中で、布は貴重な財産でしたが、いかに庶民がモノを大切にし、家族を敬って生きていたのかが、布を通して伝わってきます」と辰巳さんがおっしゃるように、何度も何度も継ぎ足して何代にも渡って使用された布団などは、その迫力に圧倒されます。青森は寒冷地で綿花が栽培できなかったために、使用されているものはほとんどが麻布。田中氏の根気強い収集活動によりその端切れ一枚まで保管されています。

「腰巻」をはじめ、女性下着の研究コーナーもあります。
何度も補強の跡がある手袋。

「BORO」展の次は第2展示室へと向かいます。ここでは田中氏が収集した縄文土器も展示されています。このミュージアムの大きな特徴のひとつは「展示品に触ることができる」こと。先ほどの「BORO」の展示もそうですが、ここに展示されている縄文土器も触ることができるのです。触れてみると「縄文の縄というのはこういうことだったのか」と、想像の中にしかなかった縄文土器が確かな感覚となって伝わってきます。「生まれて初めて縄文土器を触りました」とコメントなさる来館者が多い、ということも納得です。

矢じり、石器ナイフ、黒曜石石器、と分けて展示されている縄文土器。出ている土器は触れることができます。
同じ青森の中でも地方によって違う刺し子の模様。電気もない暗い中の夜なべ仕事でここまで正確な模様を作り出していたことには驚きます。刺し子が上手い女性はいい家に嫁ぐことができたようです。

第3展示室は黒澤明監督の映画「夢」に使用した衣裳とパネルの展示です。「映画の撮影に、本物の青森の農民の衣裳を使いたい」という黒澤監督の希望に、田中氏が全面的に協力してコレクションを貸し出したことが縁となり、以後監督がお亡くなりになるまで、二人の友情は続いたそうです。農民が祭りの際に着用した色鮮やかな前掛けが目を引きます。色鮮やかな部分は大正時代の当時、大変貴重だった色毛糸で編まれています。農村部では、まだ毛糸が充分に流通していないため、娘さんたちはやっと手に入った貴重な毛糸を、縦に何本にも裂いて木綿針で刺していったとか。若い女性たちが楽しそうに刺し子をしている姿が目に浮かびます。お祭りの際には自分が好きな男性に、お揃いの柄の前掛けをプレゼントする、ということもあったそうですが、当時は結婚はお互いの家が相手を決めるもの。せっかく前掛けをあげた男性から「残念ながら」ということで返された前掛けも多数あったようで、新品同様のまま保存されているのはそういった、捨てるに捨てられない「悲しい前掛け」だったようです。

黒澤明監督と田中忠三郎の親しい様子がうかがえるパネル。
色鮮やかな前掛けには恋愛秘話が…。

そして最後の第4展示室へ。「布のやさしさ・和の伝統文化・さしこ着物展〜布を愛した人たちの知恵と美とデザイン〜」が開催されています。田中氏の3万点の布のコレクションのうち、786点が国の重要有形民俗文化財に指定されていますが、ここではその重文から津軽刺し子着物31点が9月29日まで展示されています。藍染の着物に施された刺し子の図柄がそれぞれの着用していた人物の好みを見事に際立たせており、現在においてもかなり前衛的なデザインと言えるものがあります。「ファッションを勉強している若い学生さんが熱心に見ていらっしゃいます」と辰巳さん。来館者の3割を占める欧米からのお客様も興味深く鑑賞されていらっしゃるそうです。

藍染と刺し子の魅力をゆっくりと楽しむことができるスペースです。

このミュージアムのもう一つのテーマが「浮世絵」。ボストン美術館所蔵の門外不出「スポルディング・コレクション」の東海道五十三次をジークレー(デジタル・リトグラフ)により再現した展示が続きますが、その階段の奥にはUKIYOEシアターがあり、この高精細データを使用したデジタル映像作品を座って観ることができます。

東海道五十三次のジークレーを見ながら階段を上ります。
高精細シアター。

ちょうどこの日は浮世絵を大画面を使って解説するトークショー「浮世絵ナイト」の開催日。畳敷きの和風イベントスペースで約1時間、東海道五十三次の作品についてのトークショーを、お酒を片手に楽しむことができました。「アートもエンターテインメント」とおっしゃる辰巳館長の「みなさんを楽しませたい」という熱意が、そこかしこに感じられるミュージアムです。

 
辰巳館長からのコメント
私たちは「農民の野良着」というと、時代劇などのイメージから「暗くて汚くて可哀相な衣類」と思いこみがちですが、農民にとって野良は集団で作業する場所だったので、野良着とは現代で言うとビジネスマンのスーツのような感覚の、「仕事着ではあっても、おしゃれに手を抜けない衣類」であったようです。特に若い娘さんにとっては、野良着こそセンスの見せどころ。150年前の一般女子のリアルクローズを見においでください。

アミューズミュージアム

詳しくはこちらから→http://www.amusemuseum.com
 

[FIN]

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