2010.11.15(月)

龍馬が生きた幕末から、明治維新まで。
歴史を色濃く語る神戸・北野異人館「洋風長屋(仏蘭西館)」。

もうすぐ終了予定のNHK大河ドラマ「龍馬伝」。始まる前も、始まってからも何かと評判でしたね。(かく言う私も全放映を見守ったうちの一人ですが・・・。)
その龍馬伝の中では、幕末の日本と外国政府との交渉の場があり、時にフランス政府とのやり取りの場面も見受けられました。
本日11月15日は坂本龍馬が生まれ、そして生涯を閉じた日。今日は坂本龍馬が生きた時代を偲びながら、幕末から明治維新までのその歴史を色濃く残す神戸の街から、フランスのアートをお届けします。

北野町は阪神三宮駅から歩いて約15分の山手方面に位置します。駅からは両側に広がるお洒落なカフェやブティックなどを眺めながら、のんびりと上っていきましょう。
北野町は1980年に重要伝統的建造物群保存地区に指定された町。町内に入るとハイカラな館が両側に並びます。趣のある建物が続き、英国館などにも目移りしますが、ここはフランス国旗を目印に洋館長屋(仏蘭西館)に入ります。

フランスの国旗が目印です。

ここでまず神戸の歴史について触れましょう。1858年(安政5年)日米修好通商条約が締結されて1868年(慶応3年)に神戸港が開港されました。開港とともに約27haもの外国人居留地が港の近くに設けられ、外国人技師の手によって西洋商館の建設が始まりました。居留地の基本的な設計は、英国人技師と初代兵庫県知事伊藤博文の協議によって進められたそうです。
最初は100棟以上あった異人館も戦火や老朽化などで今では20棟しか残っていません。
その中の一つであるこの仏蘭西館は旧ボシー邸といい、明治37年に完成しました。連続する二軒が左右対称に配置された風変わりな建物は、外国人向けのアパートだったのだとか。一見して西洋風のその外装は、「下見板張オイルペンキ塗」といい、当時の代表的な洋館様式です。
中に入るとまさにそこは「仏蘭西」。館内装飾はフランスの美で埋め尽くされています。1階には「アール・ヌーヴォーの部屋」があり、フランスのアール・ヌーヴォーの代表的作家エミール・ガレ(Émile Gallé)、ドーム(Frères Daum)兄弟の作品、そしてルネ・ラリック(René Lalique)の作品がすぐ目の前に展示されています。

エミール・ガレの大皿。
同じくエミール・ガレのランプ。
ドーム兄弟の花瓶。
ルネ・ラリックの作品。
ラリックの花瓶は一つ一つの模様の間が「透けて」いるのです。
この曲線美、そして技巧。ため息が出ました。

ここは美術館ではありませんので、作品に関する美術史的解説はありません。しかし、「作品を至近距離で観察できる」楽しみを味わっていただけます。アール・ヌーヴォーの巨匠たちの作品がテーブルの上に自然光で置いてある姿を見る経験はなかなかありません。アール・ヌーヴォーの時代から100年近く経った今でもその輝きを失わないガラス工芸家たちの偉大な作品を、どうぞ身近で観察してみてください。「玄関にこういう花瓶欲しいわね」とおっしゃっているマダムたちの会話が弾んでいたりするのもこうして目の前に作品があるからなのでしょう。
(エミール・ガレ、アール・ヌーヴォーに関しては、次回の取材レポートでご紹介する予定です。)

そして木製の立派な階段を上る途中で、見覚えのあるモノグラム(モノグラム…2個以上の文字を1字状に図案化したもの。)が目の前に登場します。
何かと思ったらそれはルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)のトランクでした。

ルイ・ヴィトンが世界初の旅行鞄専門店をパリに創業したのが1854年。その後、偽造防止のために、イニシャルである「L」と「V」に、日本の家紋からヒントを得た花のモチーフを複雑に織り交ぜたモノグラムシリーズは1896年に登場したのだそうです。この仏蘭西館に保管されているモノグラムのトランクもその頃に作られたものと推測されているそうです。明治新政府樹立から約20年後のこの時代、このトランクも持ち主はどんな人で、どのような思いと荷物を詰めてこの遠い異国の地にやって来たのか、いろいろと思いは広がります。

2階にもエミール・ガレやドーム兄弟の作品がずらりと展示されています。手前の長椅子に座って「どれが一番好き?」と会話している若い男女の姿がありました。美術作品鑑賞の際には、作家や作風に関する知識も勿論必要ですが、「こうやってカジュアルに作品を鑑賞するのもありかも。」と二人を眺めながら考え、私もしばらく長椅子でぼんやり偉大なガラス工芸家たちの作品を眺めて時が経っていきました。

巨匠の作品がランダムに並びます。
まるで水墨画を思わせるガレの花器。
2階のフロアは外国人の暮らしが垣間見えるインテリアがそのまま保存されています。

そして2階の突き当たりのお部屋は子供部屋だったのでしょう。可愛らしい木馬や天蓋付きのベッド、レースをふんだんに使った白いドレスなど、(夢見る頃を遠く過ぎた私のような女性でも)思わず見入ってしまいました。

こうして、2階建ての洋館の中で凝縮したフランスの美をじっくりと楽しみましたが、この建物自体はこじんまりした大変見学しやすい大きさです。
年中無休で開館していますので、近隣の施設と併せて訪れてみてはいかがでしょうか。

 
北野神戸異人館
http://www.ijinkan.net/
 
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