2013.1月 取材

世界に誇るSEMコレクション―サロン文化美術館(郡山市)

現在、銀座のMMFで開催中の「風刺画家SEMが見た古き良き時代〜リトグラフで楽しむベル・エポックのパリ」展。SEM(セム・本名 ジョルジュ・グルサGeorges Goursat, 1863-1934)のリトグラフと各種資料を展示して皆様にお楽しみいただいております(2013年1月26日まで)。SEMの名前はパリのレストラン「マキシム」(銀座にある姉妹店でも)のメニューに彼の作品が今もなお使用されていることで有名です。
今回の企画にあたり、郡山市の「迎賓館グランプラス」内にある「サロン文化美術館」では国内最大数のSEM作品を見ることができると知り、貴重な資料を拝見するとともにお話を聞きに伺いました。 小雪舞い散る中、美術館の所蔵作品を収集されている川島利夫(かわしま・としお)館長自らがお出迎えしてくださいました。この美術館は完全予約制。見学は訪問日時を決めて館長がご案内してくださいます。

広大な敷地に建つ「迎賓館グランプラス」。結婚式などが執り行われる会場があり、サロン文化美術館もこの中にあります。
とても穏やかにそして美術への愛情を熱く語ってくださった川島館長。

美術館の中に入って、その作品数の多さにまず驚きました。壁には勿論のことガラスの展示ケースの中にも数え切れないほどの資料が展示されています。川島館長いわく「リトグラフは700点ほどあると思いますが、まだまだ整理できていない作品を数えたらどれくらいあるでしょうね。」とのこと。
まず館長が何度もフランスに行くようになったきっかけ、そしてSEMの作品収集を始められたきっかけをお聞きしました。「約25年前からプライベートでヨーロッパのあちこちに旅するようになりました。スペイン、ドイツ、イタリア、他にもいろいろな国に行きましたが、やはりフランスにどっぷりとのめりこんでしまいましたね。アール・ヌーヴォーなどの美しさも素晴らしいと思いましたが、このSEMの作品の素晴らしさと奥深さの虜になりました。彼はサロン文化を見つめ、描き、サロン文化を作った一人であると言って間違いないと思います。彼の作品を見ていると、サロン文化の美しさ、華やかさはやはりフランス独特の文化であると強く感じます。私もこの場所がサロンになって欲しい、という願いを込めてこの美術館にサロン文化美術館という名前をつけました。」美術館の名前にも館長の熱い思いが込められていることを知りました。

美術館内部の様子。
壁の作品以外にもガラスケースの中はSEM関係の資料で埋め尽くされています。

SEMを語る川島館長の語り口からは、本当に彼の作品をこよなく愛していらっしゃる気持ちが強く伝わってきます。
館長はフランス・ボルドーから車で30分ほどのSEMの生まれ故郷も、また、ボルドーから車で約1時間のSEM美術館も何度も訪問され、2人だけご存命だというSEMの親戚の方から作品や資料を行く度に譲り受けて来られるそうです。
「フランスにはもうSEMの作品も資料もない。なぜならば川島氏が全部日本に持って行ってしまったからさ」とよく冗談を言われるそうですが、ここに来るとそれが納得できるほどの所蔵点数です。

ボルドーから車で1時間ほどの場所にあるSEM美術館のポスターもありました。
現在パリのマキシムのメニューの表紙となっている作品のリトグラフ。

川島館長はそのような日仏の架け橋となる活動が認められ、フランスから芸術文化勲章(シュバリエ)を受けていらっしゃいます。フランスは大好きで何度も足を運ばれ、美術品の収集のために蚤の市や骨董市にも足しげく運ばれ、「フランス語はできないけれども売り手との会話を楽しむ」そうです。こうしたところで価値のあるものを手に入れるにはやはり「目利き」が何よりも重要だそうで、フランス語がわからなくとも、何度も見ているうちに「この売り手はガラクタをとにかく売ろうとしている」「この売り手の商品は間違いない」といったことを見抜けるようになる、とか。
「実はあまりお見せしていないのですが・・・」と館長が出してくださった1冊のスケッチブックがあります。1914年から1915年に戦場に赴いた際にSEMが自ら戦場で見たものを描いたものです。「これは作品としては非常に貴重なものですが、戦争を描いているので気持ちが悲しくなってしまうのではないかと思い、あまりお見せしていません。」という館長の言葉に優しい気持ちを感じました。

SEMのポートレート。藤田嗣治と写っているものも。

そんな館長のSEM作品への熱意が3冊の「SEM全集」に集約されました。出来上がるまでに3年半を費やした大作です。残念ながら販売は行っていませんが、見たい方には館内で見せていただけます。「日本にはSEMの資料があまりにも少ないから自分で作るしかないと思った」というエネルギッシュな館長です。

川島館長が自ら編集した「SEM全集」。
フランスから贈られた芸術文化勲章(シュバリエ)。
下絵と、完成した作品が並びます。下絵はほとんど残っていないため貴重なものだそうです。
(それぞれ左が下絵、右が完成した作品)

「フランスの何がそこまで館長を惹きつけるのでしょうか」という問いには「何と表現すればいいのか難しいですが、フランスの文化は中心にまっすぐで揺るぎない太く濃い精神が貫かれているように思います。他の国でも素晴らしいものがたくさんあります。しかしフランスは全ての分野において美しいもの、素晴らしいものばかりなのです。」と笑顔で語られた館長ですが、やはり3.11の大震災では作品の半数が壊れてずいぶんショックを受けられたようです。
「悲しかったですね。作品は二度と元通りにはなりませんから。」とおっしゃっていましたが、それでも見飽きないほどの作品数。1点1点作品の解説をしてくださる館長のコメントに驚いたり笑ったりしながらフランスの美の世界を満喫できる場所です。

美術館のクッションカバーもロビーのクッションカバーもよく見るとSEMの作品でした。
 
サロン文化美術館 館長 川島利夫氏からのご挨拶
 今から32年前ヨーロッパに旅行、建築物に興味を持ち始めるようになり、それからフランス、オーストラリア、ドイツ、イタリー、イギリスなどを旅をする度、フランスの文化的なものに魅せられ、特にベルエポック、アールヌーボーに感動したのが始まりでした。
 ヨーロッパの過去の伝統やしがらみを脱却して、新しい表現を試みた運動・・・。生命力に満ち溢れたダイナミックな活動・・・。その表現形式が自然や植物の生命の息吹を感じさせる流れるような流動曲線。特にベルエポック、アールヌーボーとして自ら繁栄しようとしすぎた為、人々にうとまれ自然に消滅していった30年の命・・・。
 これらの事柄に今でも感動し続けている私であります。
 そして1995年のある日、ベルエポックの代表的なレストラン「マキシム・ド・パリ」で食事をしている時に私の目に入ってきたのは、時事性に富み風刺的な独自の画風で上流階級の生活を描いた名匠「セム」でした。
初めて目にした彼の作品は決して感動を与えるものではありませんでしたが、一度通り過ぎ、なぜだか心の昂ぶりが抑えられず、もう一度・・・。
 その時より私の中に、不思議な感覚としてセムが存在し始めたのです。
 私はこの度、日本非公開のセムの作品を数多く収集することができました。「マキシム・ド・パリ」レストランのオーナーであるピエール・カルダン氏、セム美術館館長のジャンブリー氏、セムの親族であるモーレー夫人などのご協力を頂き、一挙公開が出来ることとなりました。
多くの皆様に100年前の華やいだパリの薫りと風刺画を満喫していただければ幸いであります。


サロン文化美術館の詳細はこちらから↓
TEL:024-937-1111(ご予約相談)
住所:〒963-0102 福島県郡山市安積町笹川雷堂10-3 迎賓館グランプラス内
営業時間:【2部制】@10:00〜12:00 / A13:00〜15:00
休館日:水曜日、年末年始
入場料:無料 (※完全予約制のため要予約)
 
 
お知らせ
サロン文化美術館・川島利夫館長の労作「SEM全集」を同氏のご厚意でMMFに寄贈いただきました。
B1Fのインフォメーション・センターでご覧いただけます。SEMの作品とその時代をご堪能ください。

 

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