2012.9.1(土)取材

東京・五反田のランドマーク的存在、DNP五反田ビル。
ここでゴヤの作品に出会いました。

2006年から始まった「ルーヴル - DNPミュージアムラボ」。現在は第9回展が開催されています(10月28日まで)。今回の展示で絵画作品は4作品目となり、宮廷画家として活躍したスペインの画家、ゴヤ(フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス Francisco de Goya y Lucientes、1746-1828)の<《ルイス=マリア・デ・シストゥエ・イ・マルティネス(1788‐1842年)の肖像》、通称《エル・ニーニョ・アスル、青い服の子供》>(以下<青い服の子供>)が展示されています。

DNP五反田ビルの1階にあるルーヴル-DNPミュージアムラボの展示。

ゴヤといえばマドリッドのプラド美術館をすぐに思い浮かべる方が多いとは思いますが、ルーヴル美術館にも「スペイン絵画」の展示室があり、ゴヤの作品も肖像画7点、静物画が1点展示されています。その中の一つであるこの作品は、2009年にルーヴル美術館の所蔵となり、その後館外への貸し出しは今回の展示が初めてです。この作品は2歳8ヶ月の少年ルイス=マリア・デ・シストゥエ・イ・マルティネス(1788‐1842年)を描いたもの。後にスペイン独立戦争の英雄となる人物です。スペイン国王カルロス4世と王妃マリア・ルイサを名付け親に持つ彼でさえ、ゴヤに肖像画を描いてもらう順番がなかなか回って来なかったというくらい、当時のゴヤは宮廷画家として引っ張りだこでした。

フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス
《ルイス=マリア・デ・シストゥエ・イ・マルティネス》
1791年
油彩、カンヴァス
縦118cm、横86cm
パリ、ルーヴル美術館 (RF 2009-5)
© Photo DNP / Philippe Fuzeau

この作品はルイス=マリア・デ・シストゥエ亡き後、シストゥエ家が所有していましたが、その後アメリカの実業家ジョン・D・ロックフェラーJr. の手に渡り、そして、イヴ・サン=ローランとピエール・ベルジェのコレクションに入る、という華やかな背景をもっています。そしてイヴ・サン=ローランが亡くなった際にピエール・ベルジェからルーヴル美術館に寄贈され、今日こうしてDNP五反田ビルで出会うことができました。なかなか公開されなかったために「幻の作品」とも言われていました。昨年日本で「イヴ・サンローラン」という映画が公開された際に、それについての記事をこのコーナーでも掲載しました。それ以外にも「イヴ・サン=ローラン その波乱の人生」という映画も公開されていて(9月にこのDNP五反田ビルで上映会を開催)、どちらの映画にも、この <青い服の子供>がパリ・バビロン通りの二人のアパルトマンのサロンに飾られているシーンが登場しました。

2011年日本でも公開され
話題となった映画「イヴ・サンローラン」

さて、このルーヴル - DNPミュージアムラボでは、「本物の作品を最新のIT技術によりさまざまな鑑賞方法で楽しむ」ことができます。多様な切り口から、作品を「見て」「知って」「感じる」ことをテーマにしています。さっそく「展示室」に入ってみましょう。本物の作品が出迎えてくれます。予約制なのでじっくりと鑑賞できます。

「意外に大きい作品ですね」という声が多い、<青い服の子供>
1791年、118×86cm、油彩、カンヴァス

そして展示室には、「研究者の視点から作品を見てみる」というインタラクティブで、興味深い解説システムがありました。例えば、「熱・湿気・光・時間によって絵画はどのように劣化するか」というテーマに関して、絵画修復家の専門的な観点をキューブを積み重ねることによって私たちにもわかりやすく、体験しながら感じて理解することができます。

キューブを重ねていくことで「絵画を階層としてとらえる」ことができる仕組みです。
「熱」というキューブを置くと絵画の中に炎が立ち上がり、熱による絵画の損傷に関して見ることができます。

そしてすぐ隣りのコーナーでは<青い服の子供>の背景を替えたり、少年の服装の色や持ち物などを替えたり、絵画の中の壁と地面の境界線の位置を替えたりすることができます。いろいろと試すうちに「やはり何も替えない、このままの<青い服の少年>がベスト」と思うかたも、「赤い服装のほうがもっとこの少年には似合う」と思うかたもそれぞれ。グループで観覧するといろいろと意見が分かれるコーナーのようです。「この時代にこの装置があったら、いろいろ画面で試してから描けばいいから、画家は何度もキャンバスで描き直ししなくてもよくて楽だったでしょうね。」とおっしゃっていた方もいました。

画面を触ると、子供の足元にいた子犬が違う動物や持ち物に変わります。他にもいろいろな変化を試してみることができます。
青い服が赤い服に…。

展示室を出ると「ホワイエ」というスペースがあります。ルーヴル美術館の「スペイン絵画の間」にまるで入り込んだかのよう。ここに現在展示してある装置は、2013年6月にはルーヴル美術館のこの展示室に実際に設置される予定です。高い位置に展示してあり、なかなか微細な描写まで見ることができなかった絵画でも、この装置で細部を見て、目の前の原画を見る、というとても贅沢な鑑賞方法で楽しむことができるようになります。

こちらが「ホワイエ」。ルーヴル美術館の「スペイン絵画の間」にいるかのようです。手前にあるのがルーヴル美術館の展示室に設置される予定の装置です。
イヴ・サン=ローランは絵画からインスピレーションを受けてデザインをしていました。このドレスは<青い服の子供>が発想のもとになったと言われています。

ルーヴルのスペイン絵画コレクションの歴史を紹介するデジタル年表も同時にルーヴル美術館に設置される予定です。五反田で鑑賞し、それをまたルーヴル美術館で鑑賞するという体験もできますね。これまでも既に五反田の鑑賞システムがルーヴル美術館の展示室に導入されていますので、これからルーヴル美術館を訪問される方はそのことを思い出しながら装置を探してみる、というのも面白いですね。

知りたい時代の部分に触れると解説が現れる「デジタル年表」。
同時に何人かで触って解説を読むことができます。

「シアター」では12分の映像を上映しています。現在の上映番組は「ゴヤの目 Les yeux de Goya」。観覧の中休みとしてもちょうどよい、座り心地のいい椅子で超高精彩な画像を楽しむことができる落ち着けるスペースです。
ルーヴル - DNPミュージアムラボの展示解説は、日本語は勿論のこと、英語・フランス語にも対応しています。観覧は無料です。お友達や家族を誘って訪れてみませんか。予約方法など詳細はhttp://www.museumlab.jp/でご覧ください。

「シアター」での迫力ある高精彩画面。
最後は「シストゥエ・マシン 解釈は自由」で観覧者の操作で着せ替えたシストゥエ君のプリントを観覧の記念にいただきましょう。
 
運営担当:飯田直子(DNP大日本印刷)さんのコメント
イベントの追加開催のご案内です!ご好評につき、文中ご紹介のありましたドキュメンタリー映画「イヴ・サン=ローラン その波乱の人生」と、ミュージアムラボ第9回展を一緒にお楽しみいただけるイベントを、9月15日(土)と22日(土)の二日間、追加開催いたします。パリ、ドーヴィル、マラケシュの3つの私邸を舞台にサン=ローランの肉声によって創作の秘密が明かされる映像作品と、亡くなるまで手元に置き愛蔵した少年の肖像画。2つの側面から、天才デザイナーの美意識が堪能できる贅沢なひとときです。ぜひお見逃しなく。お申し込み・詳細は次のHPをご覧ください。
http://www.museumlab.jp/activity/current/cinema_ysl06160630.html
 

[FIN]

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