2011.2.15(火)

フランスの世界遺産モン・サン=ミッシェルと観光友好都市の廿日市(はつかいち)市。
提携から1周年を迎えたこの街でフランスのアートに出会いました。

世界遺産として有名なフランスの西海岸にあるモン・サン=ミッシェル(Mont-Saint-Michel)。昨年そのモン・サン=ミッシェルと観光友好都市の締結から1周年を迎えた広島県の廿日市市。こちらには厳島神社があり、どちらも満潮時には建物が海に浮かぶように見えること、そしてその建築物の美しさで世界中に名前が知られています。

© ATOUT FRANCE/Jérôme Berquez

今回はその廿日市市にある「海の見える杜美術館」を取り上げます。

海の見える杜美術館は厳島神社の対岸の小高い山の上にそびえる広大な美術館。3月6日(日)まで観光友好都市提携1周年を記念した「フランスの光と香り展」を開催中です。
今回は学芸員の西川知宏さんにご案内いただきました。
まず美術館内に入って最初に目に飛び込むのは、まさにモン・サン=ミッシェルを描いた村居正之氏の《ノルマンディーの雨》。観光友好都市提携1周年記念のシンボル的作品です。村居氏は京都市に生まれ、池田遥邨に師事し、現在も活躍中の日本画家で今回の展覧会にはこの《ノルマンディーの雨》と《夏の空》という2枚のモン・サン=ミッシェルを描いた作品が展示されています。
村居氏は「作品から雰囲気・温度・光を感じてもらいたい」とおっしゃっているそうですが、この作品と対峙すると、まさに海水の温度や修道院の壁の冷たさ、といったものを思わず想像してしまいます。近くで作品を見ていただくとわかりますが、作品の仕上げ時に表面にプラチナを施したことで「銀の雨」が表現されており、角度を変えて鑑賞するとその雨の表情を多彩に楽しむことができます。

村居氏の作品は、他に、ラピスラズリを砕いて独特の「村居ブルー」と称されている鮮やかなブルーで表現した世界各国の風景画なども多数展示してあります。

そして2階に上がると、最初の部屋では、3月19日から始まる「きらめく装いの美 香水瓶の世界」展のプレ展示会場となっていて、パリ市立プティ・パレ美術館(Petit Palais)から貸し出されている香水瓶やポプリポット、そして香水瓶のラベル用のデザイン画やボトルのデザイン画など、まさにフランスの香りの歴史を見て楽しむ展示です。3月からの「きらめく装いの美 香水瓶の世界」展は、宝飾美術史家のマルティーヌ・シャザル氏が監修をされていると伺いました。

ポンパドール夫人により発注されたポプリポット(パリ市立プティ・パレ美術館蔵)
水晶や陶器で作られた非常に手の込んだ香水瓶(パリ市立プティ・パレ美術館蔵)
香水瓶をかたどった「栞」。販促用のプレミアムとして使われていたもの。(個人蔵)
香水メーカーの先駆けだったゲラン社(Guerlain)の昔の店内の様子などの貴重な写真も展示されています。(個人蔵)

香り関連の展示の次には、美術館所蔵の19世紀末から20世紀初頭にフランスで制作されたアルフォンス・ミュシャ(Alfons Maria Mucha, 1860-1939)やウジェーヌ・グラッセ(Eugène Grasset, 1845-1917)のポスターの展示が続きます。ミュシャは、アール・ヌーヴォーを代表するグラフィックデザイナーで、数多くのポスターを制作しました。彼が制作した《サラ・ベルナール 劇団地方巡業》のポスターはひときわ会場でも目を引きます。一世を風靡した舞台女優であるサラ・ベルナール(Sarah Bernhardt,1844-1923)が男装した姿が印象的。ミュシャはサラ・ベルナールの舞台宣伝のポスターデザインの試作によりその実力を見出され、彼女の指名を受けてポスターを作り続け、アール・ヌーヴォーの代表的作家としてその名を成してきました。

アルフォンス・ミュシャ《サラ・ベルナール 劇団地方巡業》

カフェや劇場などの大衆文化が花開いたこの時代、こういったイベントや施設、そして商品を宣伝告知するポスターデザインも花開きました。
今回の展示で興味深かったのは、サラ・ベルナールのポスターが3種類、それぞれ違う作家による作品が展示されていることです。最初のミュシャから始まり、次はウジェーヌ・グラッセによるもの。彼はスイスの装飾芸術家で、ベル・エポックの時代にパリでさまざまなデザイン分野で活躍し、ミュシャ同様アール・ヌーヴォーの先駆者と言われています。
そしてジュール・シェレ(Jules Chéret,1836-1932)。タイトルの《ラ・ディアファン》とはさしずめ「透明女」でしょうか。
これほど多くの著名なデザイナーたちに描かれたサラ・ベルナールとは、いかにこの時代にフランスで人気のある女優だったかがうかがえます。クリエイターたちの創作意欲をかきたてる魅力あふれる女性だったのでしょう。

こちらはウジェーヌ・グラッセによるサラ・ベルナール。《ジャンヌ・ダルク》。
こちらはジュール・ジェレによるサラ・ベルナール。《ラ・ディアファン》。

そしてこの美術館のコレクションの基礎ともなった竹内栖鳳(たけうちせいほう1864−1942)についてもここで触れないわけにはいきません。彼は、近代日本画の先駆者で、その画歴は半世紀に及び、第1回の文化勲章を受けています。この美術館の常設展示では彼の作品も展示されています。その竹内栖鳳が、自分の作品が展示されている1900年のパリ万国博覧会を見るためにフランスへ渡り、そこから自宅へ送った絵葉書など、当時のフランスの絵葉書のコレクションを楽しめるコーナーも見ごたえがあります。

フランスから日本にいる家族へ宛てた、竹内栖鳳直筆の絵葉書も展示されています。
フランスの美しい絵葉書を、夢中でコレクションした竹内氏の様子が目に浮かぶような膨大な絵葉書のコレクションです。

また会場では1900年のパリ万博当時の様子を記録した貴重なフィルムの上映や当時の写真も数多く展示されており、入場者数4,700万人、ヨーロッパ人口の9人に1人が見たといわれるパリ万博が、いかに想像を絶する一大イベントであったかがわかります。フィルムには、万博のために設置された会場から会場をつなぐ「動く歩道」で移動する人々の様子も写っていますのでそれを是非お見逃しなく。

パリに「動く歩道」があったとは驚きました。
万博ならではのバラエティに富んだ地方色やお国柄が楽しめるポスターの数々。

最後に竹内栖鳳の作品《松上鸚鵡図》をご紹介します。一番左がその作品です。その右が竹内の師の作品、その右がさらにその師の作品、と三代にわたる師弟の作品が展示されている珍しい展示です。竹内氏のこの作品はフランスでの見聞を反映してか、オウムが描かれています。

竹内栖鳳が100年以上前に出会ったフランスが広島にありました。まさに「フランスの香り」が満載の展覧会です。

 
西川知宏学芸員からのコメント
「当館には、自然・人・文化の融和をテーマに設けられた美術館へのアプローチ「杜の遊歩道」があり、彫刻オブジェ、そして桜をはじめとした300種類に及ぶ樹木等、四季折々の美しい自然をお楽しみいただけます。またコレクションは、竹内栖鳳の代表作《羅馬之図》をはじめ、近代日本画を中心に、村松物語絵巻などの絵巻物、天皇直筆の書、浮世絵、中国版画、香水瓶や印籠といった様々な分野の作品があり、季節やテーマに沿って、順次展示公開しています。当館のもう一つの魅力が、美術鑑賞の余韻に浸りながら、世界遺産の島・宮島をはじめ風光明媚な瀬戸内の情景を一望するオープンデッキのカフェで、優雅なティータイムのひとときをお過ごしいただけることです。」
 
 
海の見える杜美術館
http://www.umam.jp/
「フランスの光と香り展」は3月6日(日)まで開催中です。
 
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