2011.10.1(土)

富士山を仰ぐ名勝日本平。
その麓に建つ静岡県立美術館を訪ねました。

今年で開館25周年目を迎えた静岡県立美術館。両側の緑を見ながら坂を歩いていくと、突然そこに壮大な姿が現れます。静岡市の日本一の山麓に開館したこの美術館は、ソーラーシステムで発電しているとのこと、電力問題に敏感になっているせいでしょうか、つい目が行ってしまいます。


開館25周年のシンボルマーク。

美術館の屋根の上には自家発電のためのソーラーシステムが見えます。

屋外彫刻も楽しめる美術館です。

広々とした館内。

今日は学芸員の南美幸(みなみ みゆき)さんに案内していただきながら、ロダンの人生と作品、そして静岡県立美術館での、彫刻を使った美術普及の活動などについて伺いました。

ロダン(フランソワ=オーギュスト=ルネ・ロダンFrançois-Auguste-René Rodin, 1840 - 1917)は、パリ生まれ、19世紀を代表する彫刻家です。高等教育を受けられず、それを少なからずコンプレックスとしながら文字も秘書に書いてもらっていたようです。「彼の特筆すべき点をまずひと言で述べるなら何ですか」と南さんにお聞きしたところ、「それぞれ独立した弟子たちが、まったく彼と作風が違っても、すべて彫刻界で名を成したこと、がまずは挙げられるのではないでしょうか」とのこと。確かに、弟子であったブールデル(アントワーヌ・ブールデル Antoine Bourdelle 1861-1929)、マイヨール(アリスティド・マイヨールAristide Maillol, 1861 - 1944)、ポンポン(フランソワ・ポンポン François Pompon, 1855 - 1933)など、歴史に名を残す彫刻家たちがロダンのもとで修行しており、その後彼のもとを離れて独自の作風を築き上げていきました。映画や本のテーマとして取り上げられたことで、カミーユ・クローデル(Camille Claudel 1864- 1943)が彼の弟子の一人であったことは広く知られています。


ロダン館の入り口。美術館の一番奥にあります。

ロダン館の天井。自然光の中で作品を鑑賞できます。

静岡県立美術館「ロダン館」では32点のロダンの彫刻を展示しています。入り口から入っていくと正面にまず見えるのが《地獄の門》。この作品はロダン40歳の時の作品で彼の出世作であり、代表作でもあります。ブロンズ作品は世界に7体あります。ロダン館の1階にはフランスの工房で型を取り(型を取り終わるまで2年かかったそうです)、静岡に向けて船に作品が載せられるまでを丁寧に写真で追った解説パネルが展示してあります。「こんなに巨大な彫刻をどうやって制作するのだろう」という素朴な疑問を持っていましたが、それに対する回答が写真と解説できちんと用意されていましたので、これにより理解がすいぶん深まりました。


《地獄の門》の前で。
その大きさにやはり圧倒されます。 

《地獄の門》の前にあるさまざまな言語に訳されたダンテの『神曲』。

《地獄の門》の部分。

上部中心に位置しているのが後に《考える人》となった部分。

また見逃していけないのは《<地獄の門>第三試作》です。2階からは見えませんが、《地獄の門》とまさに対峙して1階に展示してあります。ロダンは、ダンテの長編詩である『神曲・地獄篇』などを参考にして数多くの素描を制作しました。悩みや苦しみを抱える人々の表情が生々しく描かれ、ロダン独自の「地獄」がそこにあります。後に《考える人》となった部分が中心に存在するこの作品は、試作から本作へ、そして《考える人》の誕生、といったロダンの制作の過程を理解できる貴重な作品と言えるでしょう。

《<地獄の門>第3試作》。

そして《考える人》。やはりここまで巨大なブロンズ像を目の前にすると、その迫力に気圧され、しばし無言になります。この作品の原型は高さ63cmだそうですが、あまりにも人気を博したために、ロダンはより小さな高さ38cmの小型像も作っており、これによって入手および展示が容易になったために世界中に《考える人》が広まっていったのです。静岡県立美術館ではこの小型版《考える人》も所蔵していますが、ロダン館に常設展示してある作品は183cmの高さです。


《考える人》。ロダンの作品の中でもっとも知名度が高い作品と言えるでしょう。

《考える人》のバックポーズ。見事な背筋です。

毎月2回開催される「ロダン館デッサンの日」のこの日は館内のあちらこちらでロダンの作品を描く方を見かけました。好きな作品の前で皆さん集中してデッサンに取り組んでいらっしゃいました。

こちらは別の展示室で小型の彫刻をデッサンするグループ。

1階展示室の一番奥にあるので見逃されてしまいそうですが、ロダンに関する写真のデータベースは是非ご覧ください。ちょうどロダンが生まれた1840年とほぼ同じくして写真技術が発明されました。ロダンはこの技術をうまく活用し、自分の作品や自身のポートレートなどをプロのカメラマンに撮らせ、上手にPRに使った人だと言われています。ここでは、ロダンに関連する写真が約7,000点、パリのロダン美術館と同じDBを自分で検索しながら楽しめるスペースになっており、ロダンを知る上で大変貴重な資料となっています。


写真データベースでは、ロダンの結婚式の写真などプライベートな記録も見ることができます。

ロダン館の手前には比較的小さい彫刻を集めた展示室があります。静岡県立美術館では、視覚に障がいがある方を対象とした「タッチ・ツアー(彫刻を触って鑑賞するプログラム)(予約申し込み制)」を行っています。その内容についてうかがったところ、実際に展示してある作品に触れるプログラムだそうです。まず「顔」をテーマにした彫刻では、その構造→特徴→形について考え、その表情から内面を探ります。次に「身体」をテーマとした彫刻に触れ、その年齢→特徴→動きを想像し、どのようなポーズをとったらその彫刻のような身体の形になるのかを考えます。そして最後には抽象的な彫刻に触れ、先入観を取り除いて自由に想像してみるのだそうです。「視覚は裏切るのですよ。」とおっしゃった南さんの言葉が非常に印象的でした。

「ヨーロッパのように、自然に街中に彫刻が置いてあるというわけではないので、日本で絵画と同じように彫刻に親しんでもらうのはなかなか難しいですね。」ともおっしゃる南さん。「タッチ・ツアー」や「ロダン館デッサン会」など、彫刻作品に触れてもらう機会を積極的に提案している印象を受けました。作品の前でデッサンをしているお客様の姿や、広々とした展示室の様子など、ヨーロッパの美術館で作品鑑賞をしているような気分になれる美術館です。

 
学芸員・南美幸(みなみ みゆき)さんからのメッセージ
広々とした空間で、ゆったりと彫刻鑑賞。日常を忘れ、贅沢なひとときをお過ごしください。
 
 
 

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