2011.11.1(火)

時を越えてペイネの優しさに包まれました。
軽井沢タリアセン、ペイネ美術館。

避暑地として有名な長野県の軽井沢。塩沢湖の周りを囲むように位置しているのが軽井沢・タリアセン。ウェールズ語で「輝ける額」という意味で、芸術の栄光をうたった19世紀吟遊詩人の名前でもあります。その敷地内では、作家・有島武郎や堀辰雄の別荘(移築されたもの)、そして国の登録有形文化財である明治44年に建てられた旧軽井沢郵便局(移築されたもの)など、歴史的に非常に価値のある建物を見ることができます。通常はこの敷地内、一番奥にある「夏の家」がペイネ美術館になっているのですが、11月28日までは、開館25周年記念「愛と平和の恋人たち」展のために、ペイネの作品は敷地内入ってすぐ右手にある旧朝吹山荘「睡鳩荘(すいきゅうそう)」に展示されています。ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(William Merrell Vories、1880 - 1964米国生まれ、日本で数多くの西洋建築を手懸けた建築家。建築家でありながら、ヴォーリズ合名会社(のちの近江兄弟社)の創立者の一人としてメンソレータム(現メンターム)を広く日本に普及させた実業家。)の設計による建物は、軽井沢別荘建築の代表の一つです。今回はペイネ美術館事務局長の青山達夫(あおやま たつお)さんに睡鳩荘とペイネの作品をご案内いただきます。


塩沢湖のほとりに立つ睡鳩荘。

「朝吹」と聞いてピンとこられる方も多いと思いますが、この建物はフランス文学者の朝吹登水子(あさぶき とみこ、1917 - 2005)さんの別荘だったものです。フランソワーズ・サガン「悲しみよこんにちは」の翻訳がベストセラーとなり、以後サガンの翻訳を数多く手がけたことでそのお名前をご存知の方も多いのではないでしょうか。実業家として名を成した祖父の代からの、朝吹家の豊かで社交的な生活を垣間見ることのできる建築物です。これも移築されたものですが、まるで初めからそこに存在していたかのように塩沢湖のほとりにたたずんでいます。


睡鳩荘1階のサロン。赤いじゅうたんは、当時のフランス大使館勤務の外交官が、フランスへ帰国する際に朝吹家にプレゼントしたもの。手前は石膏による「ペイネの恋人たち」。

朝吹家の肖像。左から2番目が朝吹登水子さんです。

レイモン・ペイネ(Raymond Peynet、1908 - 1999年)はフランスのイラストレーター。山高帽をかぶった男の子と可愛らしい女の子が登場する「ペイネの恋人たち」で世界的に有名になり、可愛らしいイラストで、生涯にわたり一貫して愛をモチーフに描き続けました。しかし作品のタイトルを一つ一つ見ていくと、愛らしい意外なお色気を表現している作品もあり、フランスらしいユーモアを垣間見ることができるのも特徴といえます。今回の睡鳩荘の特別展では、3月の東日本大震災に心を痛めた、ペイネの娘さんであり、このペイネ美術館の名誉館長でもあるアニー・ペイネさんが特別に貸し出した15点の作品をメインにした展示が開催されています。そこにはアニーさんからの「私にとって第二の家族である日本の、苦難の中にいらっしゃる方々に、心より深くお見舞い申し上げます。友情をこめて」というメッセージがありました。


たばこ(kimシガレット)の広告。(水彩)

<キャンデイをくださるの?いいえ、ミニスカートです>
大人のジョークもペイネの作品の特徴の一つ。(水彩)

ペイネ夫妻は計5回来日されていて、このペイネ美術館が開館した1986年に5回目の来日をし、ご夫婦で記念式典に参列されました。
展示室にはレイモン・ペイネからのメッセージが記されています。
「人々の中には不幸な人、悲しい人がいますが、私のデッサンを通し、明るさ、優しさ、陽気さを少しでも与えると同時に、人生の汚れた醜い部分を少しでも忘れることができたら、と思っています。」
このメッセージを読み、そしてペイネの作品を見ていると、この言葉が実際に気持ちの中にとても素直に入り込んでいくのを感じます。常に「平和」「愛」を描き続けたペイネの作品の数々が、時を越えて世界中から愛される理由がここにあるのでしょう。


<世界の愛と平和>。(水彩)。

映画『幼稚園』のためのポスター。
(シルクスクリーン)。

なお展示会場の一番奥では、11月28日まで原画(1点)のオークションを行っています。
(売り上げは東日本大震災の復興に充てられます)。

ペイネ夫妻の写真も展示されています。この写真以外にも会場のあちこちに夫妻の思い出の写真がそっと置いてありますのでお見逃しないように。

睡鳩荘を出て、本来のペイネ美術館の場所に向かってみます。昭和8年にA・レーモンドが自身の別荘兼アトリエとして建てたものを移築したもので、日本の建築史上に残る名建築と言われています。
『アントニン・レーモンド「夏の家」特別公開』として建物を中心に、建築資料を展示(〜2011年11月28日まで。別途200円)しています。


「夏の家」

「夏の家」の前にたたずむ「ふたりの恋人たち」のブロンズ像。

今回の特別展は11月28日までです。12月になると、本格的な冬の到来のために、週3日の開館のみとなるそうですので、まだご覧になっていない方はお急ぎください!

 
ご案内していただいたペイネ美術館事務局長、青山達夫さんからのメッセージ:

愛と平和のフランス人画家、レイモン・ペイネの日本における唯一の美術館です。軽井沢、塩沢湖畔に佇む小さな美術館は、開館25周年を迎えています。自然の風光を楽しみつつ、ペイネの可愛くユーモラスな世界をご堪能して頂ければと存じます。
 
 
軽井沢タリアセン/ペイネ美術館のHPはこちら
http://www.karuizawataliesin.com/index.html
 

[FIN]

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