中2階には、主に19世紀の医療器具が陳列されています。心電図を計測する機器、シャルコー医師によって診療技術が飛躍的に発展した神経疾患に使用する機器、原始的な胃カメラ、初期のレントゲン機器、ヘルニア用の矯正器具、歯科矯正器具など、現代医療の源泉をたどることができます。
また、アレクサンダー・フレミングが発見したペニシリンの見本は、今日の抗生物質による治療の一般化や医薬品の開発、発展の歴史を考える上で貴重な資料になっています。
美術愛好家に特に見ていただきたいのは、ガシェ医師の薬箱。ガシェ医師とは、ヴァン・ゴッホが描いた肖像画で有名な医師です。彼はホメオパシー(病症と同様の症状を起こす薬を用いて病気を治療しようとする方法)を使って患者を治療していました。ホメオパシーはドイツの医師サミュエル・ハーネマンが19世紀初めに確立した同種療法で、砂糖玉に転写された植物や鉱物などのエネルギーが体内の自然治癒力を高めるという考え方の治療法です。フランスではいまなお、ホメオパシーは主要な自然療法のひとつとして市民権を得ており、ガシェ医師の薬箱には当時のレメディが入った小瓶が収められています。
このように、古代エジプト時代から19世紀終わりに至るまでの医療の歴史を俯瞰できる医学史博物館は、医療従事者にとって興味深いものであるのはもちろんのこと、一般の鑑賞者にとっても分かりやすく、楽しめる博物館です。ほかの医療系の博物館に比べて、リアルな病理の標本など見るのを躊躇するようなものは一切なく、いまの医療現場で使われている器具の原型などは親近感を持つことができ、歴史的人物を治療した器具や、器具の細部に施された装飾美などからは美術史的な意義を見出すことができるのです。展示空間も肖像画や彫像などがところどころに置かれ、板張り装飾の施されたクラシカルな雰囲気の展示室はとても美しく、ぜひとも一度は訪れていただきたい博物館です。
FIN
Update : 2016.1.5 文・写真 : 栗栖智美(Tomomi Kurisu)
パリ在住。東京芸術大学美術学部芸術学科、
フランス国立東洋言語文化研究所卒。通訳、コーディネーター。
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