ベルギーに隣接したフランス北部ノール県サルポトリーに、2016年9月、ガラス工芸だけを扱う美術館ができました。テキスタイルや鉄鉱業などの産業が衰退し、失業率が高いこの地方に県立美術館が創設されたのは、観光の目玉にし、地域を活性化したいという県の強い意向があるからです。パリの装飾芸術美術館のガラス専門の学芸員を芸術部長に抜擢した、フランス唯一のガラス工芸専門の美術館をご紹介しましょう。
穀倉地帯を車で走ると、突然、農村地帯にモダンな建物が現れます。建築事務所W・アルシテクチュール(W-Architecture)のラファエル・ヴォワンシェ(Raphael Voinchet)さんが設計した建物は、水平にのびた鉱物の結晶のような、幾何学的な長方形の集合体です。建物の外壁には、隣接するベルギーのエノー州で採掘され、堅固さで知られる「青い石」を使っています。アーティストが滞在できるレジデンス付きの工房もあります。
このサルポトリーの村には以前からガラス工芸美術館がありました。ガラスの原料となるケイ素と粘土質の土壌のこの村は、1802年からガラス産業で栄え、最盛期には800人の従業員を抱えていましたが、1937年に工場は閉鎖されてしまいました。再びこの地にガラスの村のイメージが戻ったのは、1958年にルイ・メリオー(Louis Meriaux/1924-1997)司祭が赴任してからのことでした。メリオーは民衆芸術に関心が高く、ガラス職人たちが趣味で作っていた「ブジエ」と呼ばれるランプを集めました。その後資金を集めて、ガラス会社の社長、アンベール(Imbert)氏の邸宅だった建物を買い取ったメリオーは、コレクションを管理するために非営利団体を作り、1967年に収集品を展示し始めました。1976年にはガラス工房を建て、引退したガラス職人が若い世代に伝統技術を伝える場を作り、若手の育成にも力を入れました。そして1982年、国際ガラスシンポジウムを開催するまでに至ったのです。
レジデンス制の工房には、日本を含む世界中からガラス工芸作家が研修に来ました。1994年に美術館と工房はノール県のものとなり、ミュズヴェールの工房では、かつてサルポトリーの家々の棟に置かれていた球形のガラス装飾を復活させようと、格安の値段で村の人々のために製造しています。
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Update : 2017.4.1 文・写真 : 羽生のり子(Noriko Hanyu)
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