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ジャン=ジャック・エンネル美術館マダムの連載の一部(10館)は書籍でもお楽しみいただけます。バックナンバーを読む
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その大きさが印象的な「赤の間」には、エジプト風の格子窓など、デュビュッフェが施した東洋風の装飾がいくつか残されています。このサロンには、エンネルをこれほど有名にした代表作《アルザス、彼女は待っている》(1871年)が展示されており、エンネルの公的なキャリアを辿ることができます。1871年のフランスの敗北と、国家の悲劇であるアルザスのドイツへの併合を表現するのに、エンネルは黒い服をまとい、頭にはフランス国旗の色(青、白、赤)のリボンをつけて喪に服するアルザス女性を描きました。この作品の回りには、サロンに出品された作品が展示されています。《ジョゼフ・トゥルノワ》(1865年)に描かれた子供のリアルなこと、大きなパネルに描かれたブルジョワ女性《マダムXXXの肖像、または傘をさす女性》(1874年)の優雅なこと──エンネルはなんと才能豊かな肖像画家であったのでしょう! 正面に掛けられたかの有名な《聖セバスティアヌス》(1888年)は、青白い身体が大きな苦痛を物語る傑作といえましょう。《眠り》(1880年)に描かれた女性の穏やかな寝顔や《読書する女性》(1889-1890年)の書物に熱中した表情も印象的。モデルになったのは、どんな女性であったのか、イマジネーションを掻き立てられるようです。そのほか、カルロ・ブガッティ(1856-1940年)の椅子と、友人ポール・デュボワの彫刻《勇敢な軍隊》など、エンネルの所蔵品も展示されています。

4階の格子窓の後ろの小さな部屋には、クロッキーから習作までさまざまな下絵が展示されています。そして、5階の部屋「灰色のアトリエ」で見学は終わります。ここにはエンネルが愛用していたパレットや机、大型の姿見、インク壺、地図、家具、そしてスケッチや未完成作などが置かれ、在りし日のアトリエの様子を彷彿とさせます。左手にある《ニンフたち》(1877年)はこのミュゼで最も大きな絵画作品で、ある邸宅の食堂に飾るための注文作でした。その上に掛けられた、歩く女性の姿で表現された《真実》(1898-1902年)は、今日では失われてしまった作品の第一バージョンです。《イディル》(1872年頃)はイーゼルに置かれとりわけ引き立っています。そしてアトリエの窓の下には、いくつかの小型の静物画が掛けられています。事務机の上に置かれた、燃えるような赤いドレスに赤い髪をした《ヘロデア》(1877年頃)は、挑発的に胸元をあらわにして、洗礼者ヨハネの頭を載せた皿を持っています。人気を博した小型の絵画は愛好家たちのために描かれたものです。

裸婦、アルザスやイタリアの風景といった頻繁にあつかったテーマ、肖像画、そしてとりわけいくつかの代表作によって、エンネルは栄誉と名声を手にしました。独自の世界を創造したエンネルは、19世紀後半で最も興味深い芸術家のひとりであると同時に、19世紀後半の絵画の動向に分類することが難しい画家でもあります。親密な雰囲気が充溢するこのすばらしい邸宅は、写実主義と理想主義の間を行き来したエンネルの偉大な仕事を紹介するのに理想的な空間といえるでしょう。

友情を込めて。

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Update : 2017.4.1

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