つぎに、かつてはヴォルテールの寝室だった絵画室があり、ヴォルテールの絵画コレクションが展示されています。ここには、スイス人画家ジャン(1721-1786)による、ヴォルテールの生涯のさまざまな場面を描いた連作があります。ヴォルテールの偉大さを称えるために描かれました。《ヴォルテールの勝利》は、ヴォルテールがこの地方の画家A.デュプレシに注文したもので、反啓蒙主義に勝利するヴォルテールを描いています。ウードン(1741-1828)作の大理石の素晴らしい胸像(1778年)は、ヴォルテールが83歳のときのもので、実際のヴォルテールに非常に近い姿であるとされています。ガラスケースには型取りされた手の像も残されています。
サロンには、建築家で陶工でもあったレオナール・ラクル(1736-1791)による大きな作品が2点向かい合って置かれています。ひとつはストーブ(1777年)で、ドニ夫人が伯父に贈ったもので、伯父の胸像や寓意的なモチーフで装飾されています。もうひとつは《心臓の記念碑》(1779年)で、ヴォルテールの心臓の入った箱を納めるために作られました。ヴォルテールの心臓は、解剖したときにヴィレット侯爵が取り出すことになっていたのでした。また、ヴォルテールと有名人たちの関係がよく分かる作品が2点あります。ひとつはA.D.リシェフスカ=テルブッシュ(1721-1782)によるプロイセンの国王フリードリヒII世を描いた作品(1777年頃)。もうひとつは、ロシア帝国女帝エカテリーナII世の横顔をサテン地に刺繍したもので、P.ド・ラサールが1777年にヴォルテールに贈ったものです。
ヴォルテールの寝室は、かつてのゲームの部屋に再現され、ヴォルテールが愛用した家具とベッドが置かれています。暖炉の上にはモーリス・カンタン・ド・ラ・トゥール(1704-1788)がヴォルテールからの注文で描いた有名なヴォルテールの肖像画が掛けられています。はつらつと目を輝かせて微笑む若き日のヴォルテールを描き出した、素晴らしいパステルです。また、ベッドと向かい合うようにして、マリー・アンヌ・ロワール(1715-1769)による、素晴らしい青いドレスを着たシャトレ侯爵夫人の肖像があり、ベッドの上には《不幸なカラ家》を描いた版画があります。
ドニ夫人の居室は、館の右翼にあります。サンクトペテルブルクに保存されていた資料のおかげで、18世紀当時のように修復され、在りし日の姿を取り戻しました。壁には赤、緑、黄色のストライプの布が貼られており、音楽を愛した夫人の部屋らしく、美しいクラヴサンが置かれています。寝室の装飾も当時の状態を再現しており、アルコーヴにベッドと化粧台が置かれています。
館を出たら、ヴォルテール自らが植えた木々が木陰をつくる小道沿いに庭園を散歩し、アルプスの眺めを堪能してください。テラスの下方には20世紀初頭に造られたオレンジの温室があります。
お帰りになるときには、美しいチャペルの前をお通りください。「1761年ヴォルテールによって建立され、神に捧げられた」との銘がありますが、ヴォルテールの名前が神よりも大きく書かれていることにご注目ください。また、フェルネに埋葬されることを望んでいたヴォルテールは、教会の壁を背に、頭部が欠けたピラミッド形の墓も造らせていました。ヴォルテールがパリで亡くなったために、この計画が叶うことはありませんでしたが。
この館は、素晴らしい修復を経た洗練された建物の美を堪能できるのはもちろんのこと、ヴォルテールの濃密な人生にも触れることのできる空間です。そして、啓蒙の世紀を経て、フランス革命の遠因ともなった思想を生み出した、フランスが誇る偉大な思想家・哲学者の世界へと私たちを誘ってくれるのです。
友情を込めて。
Update : 2018.12.17
*情報はMMMwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は観光局ホームページ等でご確認いただくか、MMMにご来館の上おたずねください。