ジャン=リュック・モンテロッソ館長へのインタビュー パリ写真月間展覧会カレンダー ヨーロッパ写真館
ヨーロッパ写真館
 
今年11月、パリ市内の美術館やギャラリーは写真一色に染まります。
1980年に始まった「Mois de la Photo à Paris(パリ写真月間)」も今年で14回目。
選りすぐりの写真展がパリの随所で開かれるこの写真フェスティバルを目当てに、毎年多くの人々がパリを訪れます。
そこで、今月はその中心会場のひとつとなっている「ヨーロッパ写真館(MEP)」をご紹介します。
1950年代末から現在までの優れた写真コレクションを所蔵し、
さまざまなアプローチで写真芸術の普及に貢献している新しいタイプのミュゼです。
© Guillaume Bernard ?Maison Europénne de la Photographie, Paris
18世紀の歴史的建造物と現代写真との邂逅──写真へのさまざまなアプローチを提案する美の館
▲18世紀の邸宅の趣を残す螺旋階段。
© Guillaume Bernard
© Maison Européenne de la Photographie, Paris
 セーヌ右岸、14世紀には王宮が置かれ、近世には貴族や知識人の集まる高級住宅街となった「マレ地区」──。今なお古き良きパリの趣を色濃く残すこの地区に、1996年、「ヨーロッパ写真館」は開館しました。ファルシー通りで来館者を迎える石造りの重厚な建物は、もともとは1706年に建てられた税関吏エノー・ド・カントーブルの館。1914年以来、パリ市が所有していたこの歴史的建造物が、古典建築のファサードや、館の中央を貫く優美な螺旋階段はそのままに改装され、現代写真の研究センターへと生まれ変わったのです。
「Maison du regard(眼差しの館)」を標榜するこの美術館は、展示スペースのほか、図書館やビデオテーク、オーディトリアムを備え、ある眼差しで一瞬を切り取る「写真」という芸術へのさまざまなアプローチを提供する新しいタイプの文化施設です。写真といえば「プリント写真」を思い浮べがちですが、そのほか「印刷物」「映像」という媒体にも重点を置くことで、より多くの人々が写真に親しめる環境を提供しているのです。
▲エドワール・ブーバ『パリ、リュクサンブール公園、初雪』1956年
© Édouard BOUBAT/Collection Maison Européenne de la Photographie, Paris
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報道写真やモード写真、造形芸術との境界にある作品まで写真という芸術全体を俯瞰する充実のコレクション
▲ ベルナール・フォコン『飛ぶ紙』1980年
© Bernard FAUCON / Collection Maison Européenne de la Photographie, Paris
 1980年代初頭に収集が始められたMEPのコレクションは、現在、およそ2万点にものぼります。そのスタート地点となったのは、ロバート・フランク*1(Robert Frank)による写真史のターニング・ポイントとなった作品集『アメリカ人』(1958年)。以来、MEPでは、1950年代末から現在までの国際的な写真家の代表作を中心に現代写真コレクションの充実が図られています。
 報道写真やモード写真、さらには写真と造形芸術との境界線にいるアーティストの作品まで、「写真」という芸術全体を広く俯瞰することのできるものとなっているのが特徴。前述のロバート・フランク*1のほか、ベルナール・フォコン*2(Bernard Faucon)やマリオ・ジャコメッリ*3(Mario Giacomelli)、ラルフ・ギブソン*4(Ralph Gibson)、セバスチャン・サルガド*5(Sebastia Salgado)などの特に重要な写真家の作品はシリーズ全体で収集されているので、大規模な個展が開催されるのも楽しみのひとつです。
▲植田正治『砂丘のポートレート』1950年
© Shoji UEDA/Collection Maison Européenne de la Photographie,Paris
Photographie acquise grâce à la société Dai Nippon Printing Co., Ltd.
また、大日本印刷から寄贈を受けた植田正治*6、東松照明*7、森山大道*8、荒木経惟*9、森村泰昌*10、田原桂一*11をはじめとする日本の現代写真400点以上からなる重要なコレクションも含まれます。
▲ 東松照明『長崎15』(作品集「長崎」より)1963年
© Shomei TOMATSU/Collection Maison Européenne de la Photographie, Paris
Photographie acquise grâce à la société Dai Nippon Printing Co.
 およそ1200m2の展示スペースを利用して行われる展覧会は、MEPの最大の見どころ。所蔵品を入れ替えての展示のほか、随時、意欲的な企画展が開催されています。今回の「Mois de la Photo à Paris(パリ写真月間)」でも、『VUをめぐって:1928-1940年の写真誌』をはじめとする話題の展覧会がここ、ヨーロッパ写真館を舞台に開催されます。
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*1 ロバート・フランク(1924-)
スイス・チューリッヒ生まれ、23歳でアメリカに移住。ハーパス・バザー誌、ライフ誌などで活躍の後、1958年に写真集『アメリカ人』を発表。現実のアメリカの姿を捉えて話題を呼び、現代アメリカ写真のルーツとなった。
*2  ベルナール・フォコン(1950-)
フランス・プロヴァンス生まれ。1976年から95年にかけて、マネキン人形などの人工的なオブジェを用いて構築した虚構の空間を題材に、詩的で形而上学的な独自の写真を発表し、多くのアーティストや小説家、ファッション・デザイナーなどに影響を与えた。
*3 マリオ・ジャコメッリ(1925-2000)
イタリア北東部の小村セニガリア生まれ。独学で写真を学び、主に自らの故郷の村を被写体に、旧式の改造カメラで、ネオレアリスム映画を思わせる作品世界を構築。コントラストの強いモノクロ写真で、空中撮影された田園風景や老人ホームの作品で知られる。
*4  ラルフ・ギブソン(1939-)
アメリカ・ロサンゼルス生まれ。ドロシア・ラングやロバート・フランクのアシスタントを務めた後、日常の断片を大胆なクローズアップやフレーミングで切り取ったモノクロ写真で高い評価を受ける。近年は、抽象的なカラー作品にも取り組んでいる。
*5 セバスチャン・サルガド(1944-)
ブラジルのミナス・ジェライス州アイモレス生まれ。60年代の軍事政権下にフランスへ亡命。ラテンアメリカやアフリカなどを舞台に労働者や難民、移民の姿をモノクロ写真で捉えた優れたフォト・ルポタージュで知られ、ユージン・スミス賞など世界各国の賞を受賞。
*6  植田正治(1913-2000)
鳥取県西伯郡境町(現・境港市)生まれ。『砂丘』シリーズにあるように、生涯、その生地である山陰地方の風景、そして鳥取砂丘を舞台に被写体をオブジェのように配置した写真を取り続ける。世界各国で高い評価を受け、1996年にはフランスから芸術文化賞を受賞。
*7 東松照明(1930-)
愛知県名古屋市生まれ。岩波写真文庫のスタッフとして活躍の後、フリーのカメラマンに。『占領』『NAGASAKI』など戦後日本の姿を捉えた数々の写真集を発表し、日本写真史に大きな足跡を残す。1972年、沖縄に移住。
*8  森山大道(1938-)
大阪府池田町(現・池田市)生まれ。写真家、岩宮武二、細江英公に学んだ後、1968年に独立。「カメラ毎日」「アサヒグラフ」などで活躍する一方で数々の舞台写真を手がけ、舞台写真の第一人者に。74年、東松照明、荒木経惟らとともに「WORKSHOP写真学校」の設立にも参加した。
*9 荒木経惟(1940-)
東京都台東区生まれ。大学卒業後、カメラマンとして電通に入社、72年にフリーに。日常にある裸体や猫、花、風景などを被写体にした、エロスと情愛を感じさせる作風で知られる。人物写真や都市写真、下町のスナップ写真なども手がけている。
*10  森村泰昌(1951-)
大阪府生まれ。京都市立芸術大学で、写真家アーネスト・サトウに師事。当初は、幻想的なオブジェのモノクロ写真などを発表していた。1985年、画家ゴッホに扮したセルフ・ポートレートを発表、高い評価を受ける。以降、古今東西の名画や映画女優をテーマにしたセルフ・ポートレートを制作し続けている。
*11  田原桂一(1951-)
京都生まれ。1972年に渡仏。以降、パリを拠点に活動し、1977年に「窓」シリーズでアルル国際写真フェスティバル大賞を受賞し、一躍世界的な脚光を浴びる。
愛好家や研究者も納得の蔵書を誇る図書館ビデオテックでは貴重な映像作品を自由に鑑賞
▲ヴァレリー・ブラン『無題(00 10 02 02)』(作品集「モロッコの花嫁」より)2000年
© Valérie BELIN / Collection Maison Européenne de la Photographie, Paris
 写真に関する資料を探している人も、気軽に写真集をめくりたい人も是非、のぞいてみたいのが、館内にある「ロメオ・マルティネス図書館」です。書籍2万2000冊、雑誌1400冊(うち多くがオリジナル版)からなる蔵書は、現代写真史の50年を網羅するもの。写真に関する出版物を集めた、他に類を見ないもので、愛好家はもちろん研究者にとっても貴重な蔵書として知られている内容です。また、パソコンの端末からはデジタル化した蔵書カタログにもアクセスできるうえに、さまざまなCD-Romを常時視聴する設備が整えられています。
 この図書館のもうひとつの魅力は800点以上の映像を自由に鑑賞できる「ビデオテーク」。写真家の人物像に迫るインタビューやドキュメンタリー映像のほか、ロバート・フランク*1やウィリアム・クライン*12(William Klein)、アラン・フレッシャー*13(Alain Fleischer)など、映画監督としても知られる写真家が制作した貴重な映像を、落ち着いた空間で楽しむことができるのです。
     
 その他、オーディトリアムでは展覧会と連動した映像プログラムや講演会を開催し、美術館や図書館に写真の保存・修復に関するプログラムを提案する専門機関ARCPも併設するヨーロッパ写真館。パリ中のアートスポットが写真一色に染まる「Mois de la Photo à Paris(パリ写真月間)」の開催を機に、その多彩な活動を通じて、さまざまな視点から写真芸術を紹介する「眼差しの館」を訪ねてみませんか。
▲地下には、雰囲気のよいカフェテリアもある。
© Guillaume Bernard
© Maison Européenne de la Photographie, Paris
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*12 ウィリアム・クライン(1928-)
アメリカ・ニューヨーク生まれ。画家としてキャリアをスタートし、1956年、写真集『ニューヨーク』を発表。ボケやブレといったタブーを破る大胆な手法でニューヨークの日常を映し出し、フランスのナダール新人賞受賞。60年代後半からは、映画製作にも乗り出す。
*13  アラン・フレッシャー
フランス・パリ生まれ。写真家、アーティストとして活躍する一方、映画監督としても知られ、フランスの現代アーティスト、クリスチャン・ボンダルスキーを追ったドキュメンタリー『ボンダルスキーを探して』(1993)などを発表している。
Update: 2006.11
ヨーロッパ写真館
所在地
 
5/7 rue de Fourcy
75004 Paris
Tel
 
+33(0)1 44 78 75 00
Fax
 
+33(0)1 44 78 75 15
開館時間
 
水曜〜金曜日:11:00-20:00
休館日
 
月曜・火曜・祝日
入館料
 
一般:6ユーロ
割引:3ユーロ(学生・教師・シニアなど)
※毎週水曜日の17:00-20:00は無料。
※8歳以下の子供、身障者は無料。
URL
 
http://www.mep-fr.org
アクセス
 
地下鉄ポン・マリー(Pont Marie)駅、またはサン・ポール(Saint-Paul)駅下車。
MMFで出会えるヨーロッパ写真館
本サイトでは、ヨーロッパ写真館の館長で、「Mois de la Photo à Paris(パリ写真月間)」のコミッショナーを務める、ジャン=リュック・モンテロッソ氏のインタビューを掲載しています。
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