セザンヌゆかりの地を歩く エックス市内に残るセザンヌの足跡マップ ジャズ・ド・ブッファンを訪ねて ローヴのアトリエを訪ねて
ジャズ・ド・ブッファンを訪ねて
 
セザンヌ一色に染まるエックス市内から足をのばし、画家の父の別荘だった
ジャズ・ド・ブッファンを訪れました。これまで未公開だったこの館はセザンヌ2006開催を機に、
2006年12月31日まで一般に公開されています。セザンヌが真の画家へのスタートを切った重要な地、
ジャズ・ド・ブッファン。セザンヌ・ファンだけでなく、今年、エックスを訪れる旅人必見のスポットです。
2人の男が情熱を傾けて成功させた10年の歳月をかけた一大プロジェクト
▲生命力あふれる樹々に抱かれるように佇むジャズ・ド・ブッファン。
©Yoko Machida
 高速道路A51とガリス通りが交差する一角。周辺には無機質なコンクリート建てのアパルトマンが立ち並び、ブドウ畑が広がっていた100年以上前のこの地を想像することは容易ではありません。
 エックスの町の中心から約1km。華やかな大通りや趣のある旧市街とはうってかわり、ここは世界中のどこにでもあるような風景に変貌していました。この屋敷の樹々だけが瑞々しい生命力を放ち、まるでセザンヌが生きた時間と空間を守ろうとしているかのようです。
 「ジャズ・ド・ブッファン」と刻まれた入り口の小さなプレートを確認して一歩中に入ると、そこには見覚えのある風景があり、一瞬にしてセザンヌの世界にひきこまれます。並木の向こうに見える瀟酒な館は、セザンヌが何点も作品に描き、今回、グラネ美術館の「プロヴァンスのセザンヌ」展にも出品されていた『赤い屋根の家』。
▲入り口にさりげなく掲げられたジャズ・ド・ブッファンのプレート。
©Yoko Machida
▲『赤い屋根の家(ジャズ・ド・ブッファン)』(1887〜1890)油彩 73x92cm
Maison au toit rouge(Jas de Bouffan)
Collection privée ©DR
 セザンヌの父ルイ=オーギュスト・セザンヌが、約14ヘクタールの敷地のジャズ・ド・ブッファンを85,000フランで購入したのは、1859年のこと。この10年前にエックスで初めての銀行を創設したルイ=オーギュストは、この年、19歳の一人息子ポールを実業家にするべく、大学の法学部に入学させます。けれど、息子は翌年退学、62年には父の銀行の手伝いをやめ、画家になることを夢見てパリに赴きました。しかし、その後、サロンは落選続き。セザンヌは挫折のたびに故郷プロヴァンスに戻り、少しずつエックスで描くことが多くなってゆくのです。
 失意の画家を温かく迎えた屋敷、ジャズ・ド・ブッファン。誰からも認められないどん底の時代に、ここでセザンヌは、屋敷、栗の木の小道、池と彫像、木立などを描き、油彩36点、水彩画17点の作品を残しました。この広い庭の片隅で、プロヴァンスの強くて温かい太陽を浴び、自然を描く喜びを感じながら絵筆を走らせていたセザンヌ。今も庭には、たくさんのプラタナス、古木のマグノリア、マロニエ、もみの木、八重咲きのムクゲなどの樹々が茂り、池ではカモが遊び、その水面には、きらめく陽光がこぼれおちます。
▲庭のプラタナスの大木が涼しげな木陰を作る。
©Yoko Machida
▲セザンヌが暮らした当時の面影をしのばせるジャズ・ド・ブッファンの玄関付近。
©Yoko Machida
 父の死から13年、母の死から2年経った1899年にこの屋敷は家族によって売却されますが、20歳から60歳までの長い期間にわたり、セザンヌはここで多くのモチーフを見出し、創作のインスピレーションを得たのです。
「画家になるためにパリに行ったが、結局、南フランスに戻ってきた。芸術の夢を見続けるためには、二度とここを去ってはいけない」(1895年モネへの手紙)
 皮肉にも、セザンヌが自分の芸術の入り口を発見し、真の“画家”となる一歩を踏み出したのは、パリではなく、生まれ故郷でした。緑がきらめき、蝉が歌うように鳴き、小鳥がさえずるこの屋敷で、苦悩していたセザンヌの心がなぐさめられ、創作意欲が刺激されていったことを実感しました。
 いま、この思い出の場所は2つのパートに分かれており、北側の庭園は自由に入ることができるパブリック・スペース、南側の庭園と屋敷の大広間は見学時間が決められ、有料となっています。
▲南側の庭園には、清らな水をたたえた池もある。
©Yoko Machida
町田陽子(Yoko MACHIDA/取材・文・写真) 
Remerciements: Dominique Pelourgas, David Michard
 
 
ジャズ・ド・ブッファン
所在地
  Route de Galice.Aix-en-Provence
Tel
  04-42-161-161
開館時間
  北の庭園は入場自由
南の庭園と大広間は12月31日まで公開 10:00〜12:30、14:00〜18:30
(11月、12月は17:00閉館)
入館料
  5.50ユーロ(26歳以下2ユーロ、13歳以下無料)ツアーは1時間 要予約
北の庭園は入場無料
チケット購入・予約に関しては、エックス・アン・プロヴァンス観光局にお問い合わせください。
開館時間
  9 :00-19 :00(木曜は9 :00‐23 :00)
交通
6番バスでCorsy下車
「セザンヌゆかりの地」3カ所をめぐるツアー
ジャズ・ド・ブッファン、ローヴのアトリエ、ビベミュスの石切場の3カ所をめぐるガイド付きツアーも出ています。
 
セザンヌ2006
セザンヌ没後100周年の節目にあたる今年、セザンヌの故郷プロヴァンスでは、その功績を讃える大事業「セザンヌ2006」が開催中です。これを機に、ぜひプロヴァンスの地を訪ねてみてください。
「セザンヌ2006」主な展覧会・イベントカレンダー
詳しくはこちら>>
MMFで出会えるセザンヌ
「プロヴァンスのセザンヌ」展の公式カタログをはじめ、セザンヌ2006のイベントプログラムなどをB1Fインフォメーション・センターにて閲覧いただけます。
ブティックでは、セザンヌにちなんだミュージアムグッズをご用意しております。
 

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