セザンヌゆかりの地を歩く エックス市内に残るセザンヌの足跡マップ ジャズ・ド・ブッファンを訪ねて ローヴのアトリエを訪ねて
ローヴのアトリエを訪ねて
 
エックスの中心から徒歩で北へ約15分。セザンヌがその晩年、制作活動に
打ち込んだローヴのアトリエを訪ねました。ここからサント・ヴィクトワール山や
水浴画といった数々の傑作が生み出されたのです。簡素な部屋に一歩入ると、
まるでセザンヌが今にもキャンヴァスを抱え、帰ってくるかのような情景が広がっていました。
最晩年の傑作を生んだ舞台裏 ローヴのアトリエ
▲プロヴァンス風の佇まいを見せるローヴのアトリエ。
Photo Jean-Claude Carbone
 セザンヌは名画だけでなく、創作の舞台裏をも私たちに形見として残してくれました。最後の4年間を過ごした、画家念願のアトリエです。
 1901年11月、エックスの町の北の高台に土地を購入したセザンヌは、プロヴァンス風の古典的でシンプルなアトリエを建て、制作に必要なすべての品々を運びこみました。オリーブとイチジクの樹々が茂るこの地で、60代になりパリで認められるようになったセザンヌは、サント・ヴィクトワール山や静物、庭師ヴァリエなどの前にイーゼルを立て、死の直前まで描くことに精神を集中させたのです。
 階段を上がって2階に出ると、そこは北向きの大きなガラス窓からさす光で満たされていました。南の窓からはエックスの町が見えます。その49m2の部屋は立派な家具も装飾もなく、素朴で頑固な画家の人間性を物語るよう。壁にはフロックコートや、山高帽などがかけられ、棚や机にはセザンヌの静物画でおなじみのショウガ壷や水差し、ガラス瓶、石膏のアムール像、頭蓋骨などが並び、イスやイーゼル、パレットが無造作に置かれています。セザンヌの用具は、ほんの一部を除いてこのアトリエで保管されているとのこと。くたびれたリュックサックや上着のひとつひとつに、ここで生きた人間セザンヌの姿がくっきりと残されており、それは生々しいほど。
▲『庭師ヴァリエ』(1905〜1906)油彩 65.4x54.9cm
Le Jardinier Vallier Tate, Londres, Legs Frank Stoop 1933
©2005 Tate, Londres
▲セザンヌがまるで今もそこにいるかのようなアトリエ内部。
©Yoko Machida
 この空間を支配しているのは、外からの光と、グレーの壁。じつはこの壁は、セザンヌのこだわりの色。曇った日に描くのが好きだったセザンヌは曇りの日のようなグレーを基調に、雲の向こうにある青、太陽の輝きのゴールドを少々混ぜて壁を塗らせました。
 セザンヌが生きていた時、この部屋は恐ろしく散らかっていたといいます。-----床にはキャンヴァスが乱雑に置かれ、絵の具や絵筆、静物画のモチーフになりそうな昼食の残りなどが、すべての机を覆っていた-----などと、当時の友人の書簡が伝えています。
 このアトリエは、仕事のためだけに使っていた家で、寝室はありません。セザンヌは町のブールゴン通りのアパルトマンから、朝早くアトリエに向かい、天気さえ悪くなければ午後は戸外で制作しました。
 アトリエを出て、「ポール・セザンヌ通り」と名付けられた坂道を登り、ローヴの丘の一番上まで行ってみると、そこには、画家がこよなく愛したサント・ヴィクトワール山の姿がありました。石灰岩の白い山肌は、太陽の光線を吸収し、同時にはじき返しているような力強さ。ごつごつしたその凹凸が強いコントラストをみせます。
 1906年10月15日。アトリエから数百メートル先の小屋を描いている時、セザンヌは嵐に見舞われます。にもかかわらず、何時間も描き続けたために意識を失い、1週間後の夜、息をひきとったのです。享年67歳でした。
▲作品から抜け出したかのようなモチーフが並ぶ。
©Yoko Machida
▲アトリエではセザンヌが友人らと交わした書簡も展示されている。
©Yoko Machida
 ローヴの丘からアトリエへ戻ると、見学の時間は終わり、庭は静寂に包まれていました。思うように描けない時は、気落ちして庭に下り、物思いにふけっていたというセザンヌ……。信念をもって自らの理論を立証し、近代絵画の礎を築いたセザンヌの熱情は、制作の場であり、瞑想の場であり、隠れ処であったこの場所に、時間を超えて漂っているようです。
▲ローヴの丘から望むサント・ヴィクトワール山。セザンヌのキャンヴァスを切り取ったかのような風景が広がる。
©Yoko Machida
▲『サント・ヴィクトワール山』(1902-1906)油彩 65.1x81cm。
Montagne Sainte-Victoire Private Collection
町田陽子(Yoko MACHIDA/取材・文・写真)
Remerciements: Dominique Pelourgas, David Michard
 
 
ローヴのアトリエ
所在地
  9, avenue Paul Cezanne. Aix-en-Provence
Tel
  04-42-21-06-53
開館時間
 
6月1日〜9月30日:10:00-19:00
10月1日〜3月31日:10:00-12:00、14:00〜17:00
4月1日〜5月31日:10:00-12:00、14:00〜18:00
休館日
  1月1日、5月1日、12月25日
入館料
  5.50ユーロ(26歳以下2ユーロ、13歳以下無料)
ツアーは30分 要予約
チケット購入・予約に関しては、エックス・アン・プロヴァンス観光局にお問い合わせください。
開館時間
  9 :00-19 :00(木曜は9 :00‐23 :00)
交通
エックス・アン・プロヴァンス駅から徒歩15分
URL
http://www.atelier-cezanne.com/
「セザンヌゆかりの地」3カ所をめぐるツアー
ジャズ・ド・ブッファン、ローヴのアトリエ、ビベミュスの石切場の3カ所をめぐるガイド付きツアーも出ています。
 
セザンヌ2006
セザンヌ没後100周年の節目にあたる今年、セザンヌの故郷プロヴァンスでは、その功績を讃える大事業「セザンヌ2006」が開催中です。これを機に、ぜひプロヴァンスの地を訪ねてみてください。
「セザンヌ2006」主な展覧会・イベントカレンダー
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MMFで出会えるセザンヌ
「プロヴァンスのセザンヌ」展の公式カタログをはじめ、セザンヌ2006のイベントプログラムなどをB1Fインフォメーション・センターにて閲覧いただけます。
ブティックでは、セザンヌにちなんだミュージアムグッズをご用意しております。
 

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