「オルセー美術館展  パリのアール・ヌーヴォー―19世紀末の華麗な技と工芸―」その見どころと展覧会レポート

コミッショナー、遠藤望氏による注目の4作品

19世紀末パリの邸宅をテーマにした今回の展覧会は、「サロン」「ダイニング・ルーム」「書斎」、そして「貴婦人の部屋」という4つの空間を中心に、展示構成がなされています。各部屋に入られたら、是非、注目していただきたい作品とその魅力をお伝えいたします。

世紀末パリの優雅な暮らしを体感できる展覧会

コミッショナー、遠藤望氏による注目の4作品

「オルセー美術館展 パリのアール・ヌーヴォー」展覧会レポート

サロン

▲作者不詳《フロア・スタンド 葦と蜻蛉の装飾》
1900年頃 金属にパティネ(古色)加工 高さ177cm、幅52.5cm、奥行60cm
© Musée d'Orsay, Dist RMN - © Patrice Schmidt / distributed by DNPartcom

 19世紀末パリのブルジョワ社会において、自宅であるアパルトマンは重要な社交の舞台でした。なかでも「サロン」は、客人を迎え入れるためになくてはならない特別な空間でした。それは、「サロンを開く」という言葉が、定期的に客人を迎え、知的交流の場を提供することを意味していた17世紀、貴族社会の伝統を受け継ぐものだったのです。

●作者不詳《フロア・スタンド 葦と蜻蛉の装飾》
 人気女優サラ・ベルナール(Sarah Bernhardt)もよく似た作品を所有していた、当時流行のスタイルの照明器具です。アール・ヌーヴォーは、イタリア語で<花のスタイル(stile floreale)>ともいわれるように、植物文様や植物的な曲線が多く用いられたことが特徴です。この作品では、ゆるやかに束ねられた葦が、アール・ヌーヴォーらしい曲線を描き、その上に睡蓮を思わせる花形があしらわれています。ひときわ目を惹く蜻蛉(とんぼ)もまた、日本美術の影響を受けたアール・ヌーヴォーで好まれたモチーフです。類まれな完成度から、当時の下彫り工の優れた技術がうかがえる逸品です。

ダイニング・ルーム

 当時の邸宅において、「サロン」と並んで重要な構成要素であったのが、「ダイニング・ルーム」です。食事を含むおもてなしの空間で、家具やカーテン、食器類にいたるまで統一性をもって装飾することが要求されました。19世紀末の才覚ある女主人は、アール・ヌーヴォーの家具が置かれたダイニングで、アール・ヌーヴォーの食器にアール・ヌーヴォー風の料理を供し、アール・ヌーヴォー風のドレスで客人をもてなしたのです。

▲クリストフル社、ポール・フォロ《ティーセット》
1903年頃のモデル 金属に銀メッキ
トレイ:縦43cm、横61.5cm
© RMN (Musée d'Orsay) / Droits réservés / distributed by DNPartcom

●ポール・フォロ、
クリストフル社《ティーセット》

 1830年、パリに創業した金銀細工のメゾン「クリストフル(Christofle)」は、シルバーウェアの老舗として日本でもよく知られています。その刻印が捺されたこのティーセットは、19世紀末のパリで装飾芸術家として名を馳せたポール・フォロ(Paul Follot)による傑作で、モチーフは茴香(ういきょう・フェンネル)から取られています。装飾芸術家フォロは、茴香の重ねた襟のような茎と丸みを帯びた球根からインスピレーションを得て、幾何学的でモダンなデザインを生み出したのです。

書斎

▲ルイ・マジョレル、ドーム兄弟《テーブル・ランプ“睡蓮”》
1902-1904年頃のモデル 
ブロンズに金メッキおよび彫金、吹きガラスにエッチングおよびフラヴュール加工
高さ90.5cm、幅20.5cm、シェード部高さ20cm
©RMN (Musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by DNPartcom

 邸宅において、「サロン」と「ダイニング・ルーム」が客人へと開かれた公の場であるのに対し、「書斎」はプライベートな空間の代表でした。邸宅の主人が用いたこの部屋は、その家の財力を映し出す鏡ともみなされ、19世紀末には、本棚や椅子、絨毯、マホガニー製の書斎机など、この空間に置かれるものすべてが、アール・ヌーヴォーの影響を受けました。

●ルイ・マジョレル、ドーム兄弟
《テーブル・ランプ“睡蓮”》

 だいだい色のやわらかな光が印象的なテーブル・ランプ。しかし、この美しい色、光を通してはじめて見ることができるもので、消灯時には、青っぽい緑色をしています。コミッショナーの遠藤氏も、この作品がオルセー美術館から到着して梱包を解いたときには、その冷たい色味に驚かれたそうです。この作品を手がけたルイ・マジョレル(Louis Majorelle)とドーム兄弟(Daum Frères)は、明かりを灯した際にあたたかい色が浮かび上がる、その効果を計算していたのでしょう。

貴婦人の部屋

 邸宅の主人のプライベートな空間「書斎」に対し、女主人たちの趣味を反映させた空間が「婦人の私室(Boudoir)」でした。優美で女性的な室内装飾が流行した世紀末パリにあって、女主人たちは、「良き趣味」を牽引するという役割を期待されました。本展では、そんな女性たちの世界を「貴婦人の部屋(Univers féminine)」として、紹介しています。

▲ウジェーヌ・フイヤートル《ボンボン入れ“さくらんぼ”》
1901年 金に透かし彫りおよび彫金、七宝
(有線・省胎七宝、半透明釉)
高さ2.2cm、径4.8cm

●ウジェーヌ・フイヤートル《ボンボン入れ“さくらんぼ”》
 日本人にはあまりなじみのない「ボンボン入れ」ですが、当時の社交界の貴婦人たちにとっては、扇子と並ぶ大切なアイテムでした。観劇や音楽会といった席では、紳士にボンボンをすすめるのですが、その際に差し出すボンボン入れによって、持ち主のセンスが問われました。このボンボン入れは、若くしてルネ・ラリックの七宝細工の工房を指揮し、のちに自身の工房を開いたウジェーヌ・フイヤートル(Eugène Feuillâtre)の手によるものです。手のひらに収まってしまうほどの小品ながらきらきらと輝く七宝細工と、細やかな葉の彫金細工が素晴らしい傑作です。

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「オルセー美術館展  パリのアール・ヌーヴォー―19世紀末の華麗な技と工芸―」その見どころと展覧会レポート

  • 会期
    2009年9月12日(土)〜11月29日(日)
  • 会場
    世田谷美術館
  • 所在地
    東京都世田谷区砧公園1-2
  • Tel
    03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • URL
    美術館
    http://www.setagayaartmuseum.or.jp/
オルセー美術館展
  • 開館時間
    10:00-18:00
    *入館は閉館の30分前まで
  • 観覧料
    一般:1,300円
    65歳以上:1,100円
    大学・高校生:1,100円
    中学・小学生:600円

MMFで出会えるオルセー美術館展

  • MMFのB1Fインフォメーション・センターでは、「オルセー美術館展 パリのアール・ヌーヴォー-19世紀末の華麗な技と工芸-」のカタログを閲覧いただけます。
    また、MMFブティックでは入場券を販売中です。


 

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