11月はフランスの人々が、死者を尊び、その魂に祈りを捧げる月です。なぜなら、11月1日はすべての聖人と殉教者を記念する祭日「諸聖人の日(Toussaint)」。翌2日は「死者の日(Fête des morts)で、日本のお盆のように、多くの人々がお墓参りをします。さらに、11月11日は、第一次世界大戦の終結記念日もあることから、11月は、死者の魂を悼み、戦争を考える月とされているのです。
そこで、今月の特集では、皇帝ナポレオン (Napoléon Ier)が眠ることでも有名なパリの廃兵院アンヴァリッドを紹介します。ルイ14世 (Louis XIV)によって造られたこの建造物は歴史的にも宗教的にも重要なモニュメント。アンヴァリッドの中には軍事に関するミュゼ、軍事博物館もあります。
© musée de l'Armée - Paris / Pascal Segrette
アンヴァリッドは17世紀、ルイ14世によって傷痍(しょうい)軍人を受け入れる目的で造られた建造物です。それまでフランスには廃兵院というものが存在せず、退役後の軍人の中には物乞いをしたり、強盗をはたらいたりする者もおり、国王にとってこの問題の解決は重要な課題でした。1670年にアンヴァリッドの設立が決定されると、翌1671年よりリベラル・ブリュアン(Libéral Bruant)の指揮のもと工事が始まります。15ヘクタールを使った巨大な施設の建設には、すべての工事を終えるのに35年の歳月がかかり、ドーム教会を含む全体の建物は1706年に完成しました。
傷痍軍人の受け入れは1674年から始まり、18世紀初頭には4,500人もの人々を収容しました。当時のアンヴァリッドは、病院、ホスピス、兵舎、礼拝堂と、複数の設備を持つほかに、マニュファクチュアとしても機能していました。これは在居していた退役軍人らが靴の修理やタピスリー、彩色のアトリエでの作業を日常活動として与えられていたためです。現在アンヴァリッドのほとんどは博物館となっていますが、建物の一部は今なお軍事病院として、設立当初からの使命を果たし続けています。
▲軍旗の掲げられた<兵士の教会> | ▲ドーム内のナポレオンの墓 © musée de l'Armée - Paris / Rmn |
1676年、当時の軍事大臣ルーヴォワ候 (Marquis de Louvois) は、ブリュアンの後任として、アルドゥアン=マンサール (Jules Hardouin-Mansart)をアンヴァリッドの教会の設計者として任命しました。国王と兵士が同時にミサに参加する際には、別々の入口が必要であったため、<兵士の教会>と<王家の教会>の2つが繋がったかたちで設計されました。中庭に面した<兵士の教会>は1679年に完成。美しい古典様式の代表的な建築で、アーチ天井には敵国から奪った軍旗が掲げられ、フランスの勝利が誇示されています。これらの軍旗は革命前まではノートル=ダムに飾られていましたが、1793年にアンヴァリッドへと移されました。隣接する<王家の教会>は1706年に完成したドーム教会で、内部にはシャルル・ド・ラ・フォス (Charles de la Fosse) による宗教画と、ブルボン王朝の君主制をテーマとした装飾が施されています。
現在、アンヴァリッドのドーム教会は、そのドームの真下にナポレオンの墓があることで有名です。ドーム内にこのフランスの英雄の棺が置かれたのは1861年のことでした。1840年に国民王ルイ=フィリップ (Louis-Philippe) の命令によってナポレオンの遺体はセント・ヘレナ島よりパリへとやって来ます。このドーム教会にはナポレオンの治世下にヴォーバン(Vauban)*やテュレンヌ(Turenne)将軍**の墓が置かれ、軍事霊廟となりました。そして、ナポレオン自身もこのドームの下に眠ることとなったのです。ヴィスコンティ(Visconti) によるナポレオンを称える埋葬施設がドーム内に完成した1861年、ナポレオンの遺体は5層になった棺の中に納められ、ドームの真下に安置されました。円を描いて棺を囲む床の大理石のモザイク装飾は、ローリエのモチーフとともに、ナポレオンが勝利した戦いの名を刻んでいます。また墓を囲む回廊には、民法典をはじめとしたナポレオンの残した功績を称えるレリーフ彫刻の装飾が施されています。
- *ヴォーバン(Vauban/1633-1707) フランスの軍人・経済学者。ルイ14世のもとで技術将校として才能を発揮し、築城術の大家としてフランス各地で城郭を築いた。
- **テュレンヌ (Turenne/1611-75)将軍 神聖ローマ帝国とフランスの中間で独立を保持していた小公領の次男でありながら、軍人としてフランスに奉仕。三十年戦争時に数々の武勲をたて、1643年には元帥の一人に任命された。
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