2010.11.1(月)
先月より引き続き、今月も神戸の街で見つけたフランスのアートをご紹介します。
今月は「神戸ファッション美術館」です。
先月掲載した神戸市立小磯記念資料館からゆっくり歩くと10分ほどの場所にある、神戸ファッション美術館。六甲アイランドの緑が続くなか、ゆったりとした敷地に壮大な美術館の姿が現れます。
この美術館では勿論季節ごとの企画展と常設展を楽しむことができますが、今月はMMFwebサイトでナポレオン(Napoléon Ier)ゆかりのパリのアンヴァリッド廃兵院を紹介しておりますので、ここでも、ナポレオンをご紹介します。



ライブラリーの手前からエレベーターに乗り、上階へ。常設展の入り口を入るとすぐナポレオン1世が現れます。大抵の方はまずここで驚きの声をあげています。ほぼ等身大と思われるナポレオンが目の前に突然現れるのですから、驚くのも当然ですね。(実は私はこれを観るのは2回目ですが、またしても感嘆の声をあげてしまいました。)
誰もが知る、フランスの英雄ナポレオン、この見事な「戴冠式の盛装したナポレオン」をなぜ作ったのか、そこには大変なエネルギーと労力が必要だったはずです。
なぜこのナポレオンの衣装の再現をしようということになったのか、学芸員の浜田さんにお伺いしました。


「絶対王政が終焉に向かい、西欧が近代化する最も象徴的な事件はフランス革命と言えると思います。政治的なことだけでなく、服飾においても市民階級の台頭、産業革命による工業製品化など画期的な事件の連続でした。フランス革命から始まった近代服飾は、その後ナポレオン時代に発達を遂げ、1804年の戴冠式の衣装、すなわちヨーロッパの伝統美と新デザインが折衷されて生まれてきたナポレオンスタイルは、ギリシャやローマ時代を彷彿させる汎ヨーロッパ的な豪華さとスケールを併せ持つものでした。その後の西欧王族の儀礼衣装の典型として現在まで使用されています。
当館は西欧衣装の収集に当たり、一番重要なターニングポイント、しかも全ての人が知っていて豪華である、と全てを満たすナポレオンの戴冠式衣装を選択しました。
衣装のほとんどは、現存しないので、当時の技術を再現しつつ、最新の技術を持って再現しようと試みたのです。1804年当時の衣装を製作した刺繍工房、宝飾工房が現在も営業しており、当時の資料も数多く残っていたので、再現に踏み切りました。」とのこと。1804年同時の工房が現在も営業している、という点には、やはりフランスの伝統や文化の奥行きを感じさせられます。

そしてこの衣装の再現で非常に苦労なさった点を質問したところ、「ナポレオンの時代の“ゴールド刺繍”と呼ばれる金糸を使用する技術が現在はもうほとんど廃れてしまっています。金のパスマントリー(房飾り・ナポレオンのチュニックの足の部分の房飾り)やシークイン(円盤状の金パーツ)などは、 当時は金に玉をハンマーで叩いて円盤状にしていたのです。この再現にあたって型で打ち抜くなど限りなく近い方法で挑戦しましたが、失われた技術を出来るだけ忠実に再現することを目指したので、沢山の時間、お金、研究者数が必要でした。また、ヨーロッパでは、日本のような天然染料が合成染料より素晴らしいという考えはなかったのか、本来天然染料で染めるべき真紅のマントも合成染料を使用したため、少々浅い感じに染めあがったりと、いろいろと苦心しました。」ともおっしゃっていました。
当時の資料も数多く残っていたとはいえ、制作に携わった方々のご苦労は想像以上のものだったことでしょう。

染料のお話がありましたが、それでもすばらしいボリュームの光沢感です。

これが全て手仕事による刺繍だということを考えると気の遠くなるような作業です。
神戸ファッション美術館常設展では、このナポレオンの戴冠式の衣装の再現以外にも多数、ファッションや染物に関する興味深い展示がされています。
例えば、ヴェルサイユに程近いパリ近郊の町、ジュイ=アン=ジョザス(Jouy-en-Josas)の工場で作られた木版・銅版を用いて生産された「トワル・ド・ジュイ(Toile de Jouy)」という生地。これはフランスの伝統的なプリント生地として広く知られており、マリー=アントワネット(Marie-Antoinette)やナポレオンもここを訪れたと言われています。壁にはその生地を使ったテーブルクロスが展示されています。日本国内にいてはなかなか見るチャンスのない貴重な展示物ですので、みなさん、ここを訪れた際には壁を是非お見逃しなくご覧下さい。


他にも「ローブ・ヴォラント」の復元や、「トワル」の展示など非常に貴重な展示を観ることができます。トワルとはオート・クチュールには欠かせない非常に重要なもの。オート・クチュールでは、非常に高価で貴重な材料で失敗はできません。そこで木綿地の型で何度も仮縫いを行ったそうです。ローブ・ア・ラ・フランセーズやその他さまざまな型のトワルが展示されています。ファッションの勉強をされている方には、ドレスや洋服の構造が非常に理解しやすい展示です。手袋をしてトワルに触れてみることもできます。






ローブ・ア・ラ・フランセーズ(女性)とラビ・ア・ラ・フランセーズ(男性)から始まってフランスのモードの変遷をはっきりと見てとることができる展示が続きます。そして、ココ・シャネル(Coco Chanel)のモードなどを経て、現代の私たちのスタイルに移っていくのです。
ここでご紹介した他にも常設展内にもまだまだ展示作品はありますし、企画展も開催されています。とにかく一度足を運ばれることをお勧めします。まさに「日本のなかのフランス」です。
「20世紀末の最高の技術で再現したこれらの戴冠式の衣装も18世紀のロココ衣装や、20世紀最初のオート・クチュールの刺しゅうなどには及ばないと思っていましたが、ジックリ見れば見る程、最高の技術が使われていることがわかります。沢山の職人の技、研究所の執念がこのような素晴らしいドレスを作れたと思います。」

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