2011.4.15(金)

「待望の日本公開!
映画『イヴ・サンローラン』」

20世紀ファッション界の頂点であり続けたモードの創始者イヴ・サンローラン。
そのオートクチュールの世界、そしてアートとのかかわり。
初の公式ドキュメンタリー映画『イヴ・サンローラン』待望の日本公開です。

この映画とは偶然に、しかも衝撃的に出会いました。今年1月パリ行きのエールフランス機の中で、フランス映画のプログラムに「Yves saint Laurent-Pierre Bergé L'amour fou」というタイトルを見つけたのです。「イヴ・サンローランとピエール・ベルジェの『狂気の愛』?」なんだろう?」と、興味本位でこの映画を見始めたのですが、その世界にどんどん引きずりこまれ、最初から最後まで一気に見てしまいました。

この映画の衝撃的な始まりは、サンローランの引退セレモニーの場面から始まります。サンローラン自らの言葉によるフランス語での長いスピーチ。そして50年間公私をともにしたピエール・ベルジェ(Pierre Bergé)によるサンローランの葬儀でのスピーチの場面へと移り、彼がサンローランを回想するかたちでストーリーは展開します。「ストーリー」と書きましたが、この映画はドキュメンタリー映画であり、フィクションはどこにもありません。ピエール・ベルジェがイヴ・サンローランを回想するシーンを、生前のサンローランの姿を交えながらカメラは淡々ととらえていきます。

イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent 1936−2008)はフランス領アルジェリア出身のファッションデザイナー。クリスチャン・ディオール(Christian Dior)のアシスタントを経て、ピエール・ベルジェの支援により自分のブランドを立ち上げます。そしてポール・ポワレ(Paul Poiret)、ココ・シャネル(Coco Chanel)、 クリスチャン・ディオールたちとともに世界を代表するトップデザイナーとして20世紀のファッション業界をリードし、2002年の引退までの40年間、活躍しました。

そしてピエール・ベルジェもフランス人。ふたりはある日ディオールの葬儀で出会い、そして瞬く間に恋に落ち、それからの50年間の人生を連れ添います。時にぶつかり合い、離れ、それでもそれほど長く一緒にいることができたのは「恋人として好きだったから」というのが当然の理由かとは思いますが、お互いの「美」を始めとする感覚的なものに対する価値観がとても近かったからなのだということをベルジェのさまざまな言葉で感じることができます。

それは、ふたりが一緒に暮らしていたパリの邸宅の中を埋め尽くした膨大な美術作品の選択にも現れていたのでしょう。映画の中のベルジェの言葉で、「最初に二人で買ったのはブランクーシの彫刻・・・」と言った表現が出てきますが、二人の生活の中で「美術」は大きな存在であったことがわかります。「審美眼」という共通の能力より、もっと感覚的な部分で二人はお互いに深く共鳴し、お互いの存在を尊重し、それによって得られた信頼感をよりどころとして、ずっとともに生きていったのではないでしょうか。

この映画は、「ファッション」「アート」「フランス」そして「恋愛」といったさまざまなキーワードで、しかも男女問わずその心に入り込んでいきます。
そして映画の中に出てくるアートのスケール感の大きいこと!今は亡き著名な画家たちも登場しますし、ルーヴル美術館、オルセー美術館、グラン・パレといった美術館や展覧会会場も映画の1シーンとして登場しますので是非お見逃しなく!

そして何よりも驚くのは、そのような美術作品がいくらサンローランといえども、個人の家の中に存在していたという点です。
サンローランは、好きなアートを鑑賞のために購入していた他にも、アートからたくさんのインスピレーションを受けて自らの作品を創り出していたと言われています。1965年に発表された写真の「モンドリアン・ルック」は彼の代表的作品のうちの一つです。余談ですが、若い頃このワンピースを見て、母に同じものを作って欲しいと言ったことを思い出しました。勿論その希望はかないませんでしたが。「これはとにかくよく売れた」と映画の中でも言われています。このワンピースが発表されてから45年ですが、おそらく45年どころか、このワンピースはこれから先何年経ってもその魅力を失わないのでしょうね。

そしてお互いがよきビジネスパートナーでもあった二人。サンローランは「創造者」であり、その「生み出す苦しさ」を紛らわすためにお酒やドラッグで心身をむしばみますが、一方ベルジェは「ビジネスマン」。そのようなサンローランからお酒やドラッグを取り上げ、年に2回きちんと作品を発表するように彼を叱咤激励します。
はにかみ屋で人見知りのサンローランと、対極にいるかのようなベルジェ。ベルジェは作家を目指していたということからもわかりますが、大変な教養人であることが画面を通してうかがえます。

作家の川島ルミ子氏は、ベルジェと現在も親交があります。飛行機の中で偶然この映画を見て、数日後にその感動をパリで川島氏に伝えたところ、「あら、その本は私が今、日本語に翻訳しているのよ」と言われ、その偶然にも驚きました。
川島氏は生前のサンローランとも親交がありました。毎年クリスマスにはサンローランが親しい友人にのみ自らがデザインしたポスターを贈ったそうですが、川島氏も贈られた一人。今回幸運にもそのポスター10枚をお貸しいただいて、4月20日(水)からMMFの3Fギャラリーに展示させていただくことになりました。

川島先生とパリでお会いした日に、ワインを飲んで少しほろ酔い気分で一人歩きながら、ふと気がつくと、そこはサンローランの葬儀が執り行われたサンロック教会の前でした・・・。

(C) Copyright 2010 LES FILMS DU LENDEMAIN - LES FILMS DE PIERRE - FRANCE 3 CINÉMA
映画『イヴ・サンローラン』
ファッションの神、イヴ・サンローランの終わりなき創造、その光と影に迫る初の公式ドキュメンタリー。4月23日(土)より、TOHOシネマズ六本木ヒルズ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開。

[FIN]

ページトップへ

このページについて

MMMスタッフが注目する日本のアート・イベントをレポート!日本で楽しめるアートスポットやフレッシュな情報をお届けしています!

過去の記事を読む

2016年の記事
2015年の記事
2014年の記事
2013年の記事
2012年の記事
2011年の記事
2010年の記事
トップページへ