2012.7.17(火)取材

都心の一等地、港区白金台にたたずむ松岡美術館。
喧騒を忘れて美術に浸ることのできる場所です。

「シロガネーゼ」という流行語の発信地でもある港区・白金台。お洒落なショップやカフェが並ぶプラチナ通り(外苑西通り)を抜けて進んでいくと、緑豊かな中に松岡美術館が現れます。この美術館は松岡グループの創業者である松岡清次郎が、情熱を注ぎオークションなどに出向いて収集していった多岐に亘る分野の作品をコレクションしています。1975年に新橋の自社ビル内に「松岡美術館」を創設、2000年に自宅の跡地にこの美術館を移し、現在の姿が完成しました。
まず私たちを最初に出迎えてくれるのが1階エントランスにあるこのエミール・アントワーヌ・ブールデル(Emile Antoine Bourdelle 1861-1929)によるブロンズ像<ペネロープ>。その高さは240cmで、この美術館のまさにシンボル的な存在となっている作品です。

ブールデルによる<ペネロープ>1912年、ブロンズ

館内に入るとまず、中庭の緑が目に飛び込みます。訪れた日は、しとしとと雨が緑を濡らし、都心の騒音も忘れてしまうような、静醢で豊かなひとときを味わうことができました。また、鑑賞の合間に長いすに座ってゆっくり時間を過ごすことのできる空間も備えています。
2階は2つの企画展示室で構成されており、現在は「情熱と憂愁―パリに生きた外国人画家たち」という企画展が開催されています(9月23日まで)。学芸員の小林真由美(こばやし・まゆみ)さんにご案内いただきました。

自然光が入り、まるで自然の中で作品鑑賞をしているように明るいエントランス。

「毎年4月から9月にかけて、フランス、そしてパリをテーマにした企画展を開催するのが松岡美術館の定番となっているのです」と小林さん。
「今回の企画展示では、エコール・ド・パリからフォービスム、キュビスムに至るまで、フランス人作家の作品だけでなく、同時代にパリに生きた日本人作家の作品にまでテーマを広げたことにより、その時代の作家同士の人間関係のようなものにまで触れることができたように思います」とも説明くださいました。
作品を収集した松岡氏ならではの審美眼の賜物といえそうです。
松岡氏は外国人居留地だった築地の明石町近くで生まれ、子供の頃から英語に親しんでいたため、海外のオークションにも一人で出向いていたそうです。異国においても自分の審美眼を信じた松岡氏の、作品の選択に対する一本筋の通った信念のようなものを感じずにはいられません。

アルベール・マルケ(Albert Marquet, 1875−1947)の作品 左・<ツーロンの港>制作年不明
右・<アルジェの港> 1942年  油彩・カンヴァス
油彩・カンヴァス
ユトリロの母であるシュザンヌ・ヴァラドン(Suzanne Valadon,1865 - 1938)の作品
<コンピエーニュ近くの古びた製粉所(オワーズ県)> 1914年、油彩・カンヴァス
ゆったりと作品と対峙することができる企画展示室。

2階奥の展示室には、松岡邸の和室を再現した展示コーナーがあります。壁にはモディリアーニ(Amedeo Clemente Modigliani、1884−1920))による<若い女の胸像(マーサ嬢)>がかけられており、床の間にはエミール・アントワーヌ・ブールデル(Emile Antoine Bourdelle)のブロンズ像<捧げものを持つ聖母> が何気なく置いてあります。まさに「暮らしの中にアートを」を取り入れていた松岡氏の生活の様子が垣間見えるようです。

松岡邸の一部を再現。和室にフランス人作家の作品、が不思議にマッチしています。

そして松岡美術館を訪れたら1階の常設展示室も是非ご覧ください。展示室1は古代オリエント美術、展示室2は現代彫刻、展示室3は古代東洋彫刻、の展示室です。「古代東洋彫刻の展示室では、彫刻の前でずっと対峙されているお客様もいらっしゃいます」と、案内していただいた館長代理・松岡氏がおっしゃっていました。この展示室では、中国、ガンダーラ、インド、クメールに渡るまでの、数々の彫刻の存在感とその展示点数に圧倒されてしまいました。

その展示点数に圧倒される古代東洋彫刻の展示室。

松岡氏は生前、「人はどんなに偉くなっても、やがて忘れられる。そこへいくと、古代の第一級の美術品はずっと後世に残る。自分が集めたものを、未来の人々に鑑賞してもらう。これが私の夢ですよ」とおっしゃっていたそうです。その遺志は大好きだった自宅があった地で受け継がれています。美術館のパンフレットに「悠かな時を超えて、洋の東西を越えて、美しきものたちが集いました。ごゆっくりどうぞ」と添えられていました。このひと言がまさに松岡美術館を象徴しています。
是非「美しきものたち」との豊かな時間を松岡美術館で。

 
学芸員:小林 真由美さんからのコメント
エコール・ド・パリの画家たちは1920年代を中心に活躍しており、その殆んどが東ヨーロッパやロシア、日本出身の外国人です。彼らはヨーロッパ芸術の中心地であったパリに憧れて辿り着き、個性溢れる作品を残しました。異国の地で身を削るように自らの制作活動に没頭した彼らの生き方には、今を生きる私たちの学ぶべきことがあるのかもしれません。今展を通してパリに生きた画家たちのエスプリを感じて頂ければと思います。
 
 
松岡美術館の詳細はこちらから
http://www.matsuoka-museum.jp/
 

[FIN]

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