2010.8.1(日)
スタッフUが、ひと足お先に観てきました。みなさんにも是非観ていただきたい映画です。
「セラフィーヌの庭」
フランス人女性画家セラフィーヌ・ルイ*(Séraphine Louis 1864-1942)。実はこの映画を観るまでこの画家について詳しく知りませんでした。
この映画は彼女の後半生を描いている映画、といえるでしょう。スクリーンに最初に登場する彼女はもう既に決して若くはありません。彼女が家政婦としての毎日を淡々と送る姿から描写が始まり、そして、神のお告げにより絵を描き始めるセラフィーヌを女優ヨランド・モロー(Yolande Moreau)が、画家セラフィーヌがまるで乗り移ったかのように演じます。
「悲しいときには自然の中で鳥や植物たちと会話すれば救われるのだ。これは本当だ。」と、悲しい顔をしているパトロンのウーデに向かって真顔で言う場面のセラフィーヌのこの言葉が、彼女の人生や作品をひとことで表現している言葉に聞こえてとても印象的です。

しかしセラフィーヌはいわゆる「聖女」的な人物ではありません。密造酒を作って楽しみ、恋もするし、生きるための術はそれなりに理解しています。そこが彼女の魅力でもあり、「フランスらしい」ところでもあるのではないでしょうか。
あまり金銭的に余裕がなかったことも理由だと思いますが、セラフィーヌは自然の産物から絵の具を作ります。「この強い赤はどうやって出すのだ」と問うウーデに、セラフィーヌはその秘密を明かそうとはしません。実はこの場面を見ていて私はある思い出がよみがえりました。高校時代に郷里の風景を描いていたとき、土蔵を描く際に、既製の絵の具だけでは何かが物足りなく、道にあった砂を絵の具に混ぜて描いた記憶があります。余談ではありますが、こういう何かしら個人の実体験と重なった時に、映画のストーリーはぐっと自分の身近なものになるのではないでしょうか。

神のお告げで絵を描き始めたセラフィーヌには、きっと彼女にしか見えない神様や、そして天使たちからいろんなメッセージをもらっていたに違いない、ずっとそんなことを考えながら、セラフィーヌの描く圧倒的な力を持つ作品への興奮と、ヨランダの演技を超えた存在感にただただもう引きずり込まれてあっという間に上映時間が終わりました。


セラフィーヌの小さな作品は東京の世田谷美術館で見ることができます。
フランスに行ってセラフィーヌの作品を探す旅、というのも楽しいかもしれません。セラフィーヌのように風に吹かれながら、木と対話しながら・・・。
(フランスでは、パリのマイヨール美術館、サンリスの芸術考古学博物館、リール近代美術館、グルノーブル美術館でセラフィーヌの作品を観ることができます。)
*セラフィーヌ・ルイ
パリ郊外サンリスに実在した素朴派の女性画家。フランスのオワーズ県アルシーにて、時計職人の家に生まれる。
1912年、家政婦として働いているところをドイツ人画商ヴィルヘルム・ウーデによって見出されるが、1930年代の世界大恐慌以来、精神に異常をきたし病院にて死去。その後ウーデに広められて有名になる。作品のモチーフのほとんどは、花、葉、果実などで色彩は強烈で力強く、幻想的である。

2時間06分
8月7日(土)より、岩波ホールほか全国順次公開
配給:アルシネテラン
© TS Productions/France 3 Cinéma/Climax Films/RTBF 2008

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