2012.11.10(土)取材

ナポレオンも愛したオルゴール。
その美しさと精密さに驚き、そしてため息が出るばかりです。

京都・嵐山にある「京都嵐山オルゴール博物館」。洋館風な外観の、瀟洒なとても可愛らしい建物です。

京都嵐山の日本的な風景の中に瀟洒な洋館が現れます。これが京都嵐山オルゴール博物館です。

現在ここでは「ギド&ジャクリーヌ・リージュ メモリアル展」が開催されています(12月24日まで)。この企画展はジャクリーヌ夫妻の奥様が今年3月に亡くなられたため(ギド・リュージュ氏は1995年に他界されています)、その追悼の意味を込めたものです。
1796年に誕生したオルゴール。現在まで200年余りの歳月を超えて、今なお愛され続けていますが、1910年代に入ると蓄音機の隆盛によって、スイスやドイツ、アメリカのオルゴール・メーカーの多くは廃業しました。その中でスイスのリュージュ社は現在もオルゴールの製造を続けています。ギド・リュージュ氏はそのリュージュ社の3代目社長。そして、夫妻は有名なオルゴールのコレクターでもあったのです。
今回は博物館の佐野功さん(さの いさおさん)に館内を案内していただきながら、オルゴールとオートマタ(からくり人形)の歴史と背景についてお話いただきました。
この博物館の展示物をよく知るためには、説明員さんによるオルゴールの実演奏とガイドツアーへの参加をお勧めします(最終演奏17:00頃〜)。その丁寧な解説によって、それまで全くオルゴールに対する知識がなくてもとても理解が深まり、作品を見る目が変わります。

常設展示室に並ぶ各国のオルゴールと蓄音機の数々。出始めた当時、オルゴールは非常に高価で貴重なものでした。前面に螺鈿細工が施されたスイスのニコルフレール社のオルゴールはオルゴールとしてだけではなく、家具としての価値も非常に高かったそうです。

「オルゴールは大きく分けて、金属の円筒にピンを取り付けたシリンダーオルゴールと、平たい円盤にピンを取り付けたディスクオルゴールに分類されます。音の鳴る原理はどちらも同じ、櫛歯と呼ばれる長さの違う櫛状の金属板を押し上げて弾くことにより、演奏が行われます。」

シリンダーオルゴールは繊細な音色、ディスクオルゴールはダイナミックな音色が楽しめるというそれぞれの特色があります。

開設はそのような基本的なところから始まります。オルゴールは精密機械時計の生産で名を馳せるスイスの圧倒的な生産力によって支えられました。
ここで興味深い話をお聞きしました。そもそもスイスで精密機械時計の製造を始めたのはフランス人だそうです。ナントの勅令廃止の影響でジュラ山脈を越えて亡命してきたフランス人が始めたのだとか。そして厳しい冬の農閑期に農民たちが収入を得るために時計の部品づくりをして支え、今日の発展のもととなりました。シリンダーにはびっしりとたくさんのピンが植え込まれていますが、この仕事はしばしば根気強い農家の女性の手に委ねられました。また、低音の調律を、木の枝を口にくわえ、櫛の振動を確かめながら行った高度な技術を持った職人もいたというお話に驚きました。
そういった話を聞きながら、「オートマタ」のコーナーに移ります。オートマタ(Automata 、とは機械人形、自動人形のこと。おもに19世紀から20世紀にかけてヨーロッパで作られたものです。そもそもなぜフランスで「オートマタ」が発展したかと言うと、もともとフランスは人形作りが盛んな国でした。当時のフランス・パリと言えばモードの都。その人形たちに最新のモードを着させて販促ツールとしていたのです。販促ツールがチラシやパンフレットなどの印刷物にとって替わり、洋服を売るためのツールでなくなった時に人形は玩具としてその存在価値を変えました。そしてオートマタはその人形作りの技術を土台にして花開いた文化です。また、オートマタの服は人間が着るものと同じようにしっかり型を取って縫製までしているため、当時の服装文化の貴重な資料ともなっているそうです。

<ピエロ・エクリヴァン>ミッシェル・ベルトラン作。スイス。1970年頃。 ドビュッシーの「月の光に」に合わせて手紙を書きます。手紙を書く手首の動き、考え事をしている首の傾げ方など、まさに人間の動きと寸分違いません。目が合うと思わず声を上げてしまうほどです。
現在動かすことができるのはこちらのリメイク版。
初代の作品である下の写真の<ピエロ・エクリヴァン>グスタフ・ヴィシー作。1895年。こちらはもう動かすことはできませんが、展示を見ることはできます。
<マンドリンを弾く少女>ランベール作。フランス、1890年頃。中にはいているペチコートまで一切どこも手を抜かない完璧な装いをしており、当時のモードの流行をうかがうことのできる作品です。マンドリンを弾く際に手だけではなく腕の筋まで細かく表現された精巧な様子を是非ご覧ください。

常設展示室を出て企画展示室に向かうと、今回の特別出展作品であるギド夫妻の貴重なコレクションを見ることができます。中でも目玉は<ナポレオンの嗅ぎたばこ入れ>。ナポレオンがオーストリア戦の勝利を祝い、10人の将官に対してほうびとして与えるために作らせたそうです。中はオルゴールになっており、このオルゴールの特筆すべき点は、1枚のディスクで2曲の演奏ができることだとか。近くで見るとくしゃみで飛んでしまいそうな細かいパーツの結晶です。ちなみにナポレオンはほうびをあげることがとれも好きだったようです。

<ナポレオンの嗅ぎたばこ入れ>ピゲ&メイラン作。スイス。1809年。

「夫妻がコレクションしていた作品は非常に質のいいものばかりです」と佐野さん。本当に素晴らしいものを見きわめる目をもったご夫妻が大切にコレクションしていた様子がうかがえます。

夫妻のコレクションのオートマタの数々。
カフェ入り口にある
<シンギング・トゥー・ザ・ムーン>
ランベール作。フランス。1890年。
ピエロが月に愛をささやく歌を歌い、それに合わせて月が目玉と口を動かす幻想的な作品です。
カフェ内部に展示してあるからくり時計<ゴスラ>1859〜1866年ドイツ。新約聖書の12の場面、キリストの誕生から昇天までを表しています。

「大人になっても楽しむ気持ちと好奇心があればここは面白いものばかりですよ」と、にこやかに丁寧に取材にお付き合いいただいた佐野さん。カフェでくつろいだり、お気に入りの音楽を奏でるオルゴールを記念に買おうか、と眺めてみたり、たっぷりお楽しみいただける博物館です。

 
博物館・佐野功さんからのコメント
オルゴールは音楽、工芸、精密機械の技術等、オートマタは人形、服飾、小物作りの技等、それぞれの分野の一流の腕を持つ職人の業の結晶です。それらのどの分野に興味を持っておられる方にも満足をしていただけると思っています。百年以上の時を超えて来たオルゴールやオートマタからは一切の妥協を許さずに物作りに打ち込んだ職人たちの思いが感じられる事でしょう。実演もありますので是非一度ご来館下さい。

京都嵐山オルゴール博物館
http://www.orgel-hall.com/
 

[FIN]

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