2011.3.1(火)
都心で「オートクチュール」の世界に触れました。
杉野学園衣裳博物館。
目黒の駅からすぐ、その名も「ドレメ通り」という通りがあります。名前の通り両脇には、杉野芳子氏(1892-1978)が設立した杉野学園の校舎を初めとした様々な学園の施設が並び、個性的なファッションを身にまとった若い生徒さんたちをたくさん見受けます。
その通りを進んで行くと洋館のたたずまいが一瞬タイムトップしたかのような杉野学園衣裳博物館が左側に現れます。
この学園の創設者である杉野氏はもともと教師でしたが、女性の自立を何よりも大切なことと考え、単身アメリカに渡り、独学で洋裁技術を身に付けた新進の女性でした。帰国後に日本で小さなお部屋で洋裁を教えているうちにその生徒さんたちが次々に巣立ち、日本全国で学校を開きました。いわゆる学校のフランチャイズ化と言えばいいでしょうか。
生徒さんたちをフランスに派遣して現地で勉強させ、そして本場のドレスを購入させ、それが今の杉野学園衣裳博物館の大切なコレクションの礎にもなったのです。フランスではさまざまなアーティストや文化人たちとも交流があり、藤田嗣治も杉野氏のドレスの収集に協力した一人で、杉野氏のご自宅には藤田嗣治から個人的に送られた絵画も何点かあり、深く交流していたそうです。
この杉野学園衣裳博物館では、「ウォルトとドゥーセ〜オートクチュールから見た女性の装い」展(3月19日まで)を開催しているため、学芸員の隅田登紀子さんに館内を案内していただきました。
ウォルト(Charles Frederick Worth 1826−1985)は、オートクチュールの創始者と言われている人物。イギリス人ですが若くしてフランスに渡り、苦労の末、一代で婦人服のメゾンを成しました。まだ労働条件が非常に厳しかったこの時代にお針子さんたちのために組合を作るなど、もともと法律家の家に生まれたためか、社会的な活動にも力を注いだ人でした。


そんな彼のデザインによるオートクチュールのドレスが1階展示室に入るとすぐそこに展示されています。
今回の展示は下の写真の①ウォルトの手による19世紀のドレスの展示→②そのドレスから作り出したトワル*の展示→③そのトワルを用いて現代にこのドレスを復元した展示、というようにとてもわかりやすく時系列的に並んでいます。
*トワル(Toile):はフランス語で「帆布」の意味を持ち、実際のイメージと照合するために仮の布でダミーに着せてみることを指すファッション用語。


ウォルトが創り出すドレスはクラシカルでダイナミックです。今回はこのウォルトのドレスの復元展示も目玉の一つですが、さすがにオリジナルのドレスは、レースのキメ細やかさなどが目を見張るような繊細なつくりです。もうウォルトの時代の繊細なレースを作れる職人は存在しないということですが、何とも寂しい話です。


片やドゥーセ(Jacque Doucet 1853-1929)は、その活躍した時代はウォルトよりやや後になります。


彼は、印象派の絵画や、建築などさまざまな美的なものに関心があり、そのドラマティックなドレスはサラ・ベルナールを初め女優からのご指名が多かったといいます。ウォルトとドゥーセのドレスのデザインは見事に対照的。
いつの時代もこのように必ずライバルが存在するのですね。
そして2階の展示室に上がると、そこには先ほどのウォルトのドレスを再現するために作成されたトワルが展示されています。高価な生地で失敗できないオートクチュールの世界で、何回も何回もトワルを使って完璧なドレスを作っていったのです。ここで展示されているトワルの見事な曲線!胸はふくよかに、そして腰はくびれ、見事なS字曲線を描いています。

「この時代はいくらコルセットを使用しているにしても、こんなにも女性の身体はメリハリがあって美しかったのでしょうか」と隅田さんに質問したところ、「当時の女性も現代と同じように、いやそれ以上に身体のあちこちの贅肉を寄せて上げて引っ張って相当な苦労をしていたようです」とのこと。当時の女性たちが身体の美しいラインを作り出すために、ドレスを着るときに相当な労力を必要としていたことがうかがえます。当時の貴族の女性が使用していたドレスは袖ぐりが驚くぐらいに狭い、ということもお聞きしました。その後はいよいよドレス復元の展示を見て回りました。



解説パネルを読むと、このドレスを復元するためにいかにたくさんの工程とパーツを用いたかがとてもよく理解できるのですが、その詳細は是非この展覧会場でじっくりとお読みください。
この博物館は大学・短大・専門学校を併設しており、学生さんたちに学習してもらう貴重な場となっています。そのため、服飾を学んでいる学生さんたちが学習できるように解説パネルの内容もとても詳細で内容が豊富です。





後半部分は19世紀の女性たちが使用していた扇子や、帽子を着用するようになった女性たちの写真、そしてファッションプレートなど、女性ならば思わずガラスケースに顔を近づけて見てしまうような、さまざまな19世紀の女性のファッションに関連する展示がされています。
「いつの時代もファッションにはお金がかかるものなのですね・・・」と隅田さんと嘆息しながら展示を見終わりました。
4月は展示準備のため閉館しますが、5月からまた非常に興味深い企画展が始まるようです。
楽しみですね。
「日本で最初の衣裳博物館です。創設者杉野芳子の日本の洋装教育の普及・確立といった大きく強い信念の下に建てられました。これから学ぶ人のため、今学んでいる人のため、そして一般の方に衣裳というものを実際に見て、そのデザインの創出の背景を知って欲しいと願い、今から約50年前に集められた衣裳が収蔵・展示されています。これらの衣裳、服飾資料、布見本、マネキンなど多岐にわたるコレクションには杉野芳子のモードに対する熱い思いが多くこめられています。」
ウォルトとドゥーセ〜オートクチュールから見た女性の装い」展は3月19日(土)まで

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