2010.9.13(月)
町田市立国際版画美術館
「版画」という言葉からどんなイメージか浮かぶか何人かの知人に聞いてみたところ、「コピー」、「絵画と比べて地味」、「白黒」、という返答が目立ちました。確かに一点物の作品とは違い大量生産でき、多くの版画が黒を基調としているためどことなく暗い印象を与えているかもしれません。
今回MMFスタッフが訪問先に選んだ町田市立国際版画美術館は、そんな版画がいかにユニークで多彩でヴァラエティー豊かであるかを教えてくれました。
新宿から小田急線急行で40分、新横浜駅からはJR横浜線で20分の町田駅より、徒歩で約15分のところに位置する町田市立国際版画美術館は、同じ敷地内にある緑豊かな芹ヶ谷公園とともに市民の憩いとしても親しまれています。


美術館ではこの時、夏季の常設展「素朴な美−フランスの民衆版画」(2010年9月26日(日)まで)を開催していました。民衆版画とは、フランス語ではimagerie(刷り物) populaire(民衆の)に由来し、大量に生産される大衆的な刷り物を意味します。世界各地で民衆版画は作られてきましたが、フランスがその代表的な生産国として知られています。フランス国内でも北東部に位置するロレーヌ地方のエピナル(Épinal)の町は民衆版画の聖地として有名で、版画美術館(Musée de l'Image) では、それらの民衆版画がまとめてみることが出来ます。
そしてわざわざフランスまで行かなくても、日本でエピナルをはじめとするフランスの版画がまとめて見ることができるのが、町田のこの国際版画美術館なのです。

常設展示室入り口にあるパネルには、版画の技法や専門用語がわかりやすくに解説され、資料を持ち帰ることもできます。
これらの版画は、字の読めない人々や子どもにも理解できるように、キリストや聖母像などといった対象物から宗教や歴史を学ぶために作られたもの、童話、ゲームカード、着せ替え遊びなど様々な用途に使われ、幅広く庶民に親しまれていました。
子ども用の版画は、日本で江戸から明治時代に多く生産された、おもちゃとして遊ぶ版画「おもちゃ絵」とよく似ているようです。


民衆版画は民間レベルの文化を物語り、かつての庶民の日常、教育から遊びまでを知る資料としては大変貴重なものといえます。いわゆる「芸術作品」としての版画とは異なり、日常に密着した、その素朴な味わい深さが最大の魅力なのです。

切り抜いて遊ぶあやつり人形は、とてもリアルに描かれており今にも動き出しそうです。


常設展を過ぎると、展示は企画展示室へと続きます。「こんな人、あんな人」と題された企画展(9月26日(日)まで開催)では、版画作品約130点を通じて版画に描かれたさまざまな「人」の表現を紹介しています。ブーシェ(François Boucher)からマティス(Henri Matisse)、ルオー(Georges Rouault)、レジェ(Fernand Léger)やアンリ・ミショー(Henri Michaux)まで、人物とその表現をテーマに、エッチングや、エングレーヴィング、ドライポイントなど版画のあらゆる技法を駆使して作られた作品が並びます。版画の技法、紙の種類、制作年代によって、表現や人物の表情のヴァリエーションが見どころとなっています。

ポスターのデザインになっている版画は、レジェによるもの。


ブーシェの版画はまるでパステル画のようです。
この美術館の魅力の一つともなるのが、美術館1階の版画工房です。木版画、銅版画、リトグラフ、シルクスクリーン、それぞれの版画のための機材と道具が備えられ、実際に版画作りを体験できる講座も開催しています。(※事前申込)


取材でお世話になった学芸員さんのお話によると、国際版画美術館の版画コレクションは、奈良時代から現代に至るまで、日本をはじめ世界中から集めた作品約2万5千点。数千点ものフランスの版画 を所蔵しており、今回展示されているものはそのごく一部に過ぎません。
年内は9月29日(水)から12月23日(木)まで、フランスの画家・版画家アンドレ=デュノワイエ・ド・スゴンザック(André Dunoyer de Segonzac)の銅版画集を紹介する常設展を開催し、2011年3月5日(土)から4月3日(日)までは、19世紀フランスのリトグラフを企画展示する予定です。定期的な展示替えを通して豊富な版画コレクションがお楽しみいただけます。

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