2012.3.1(木)

白銀の金沢で、温かい気持ちになれる現代アートに出会いました。
金沢21世紀美術館「モニーク・フリードマン展」。

SANAA(妹島和世さんと西沢立衛さんによる日本の建築家ユニット。)のデザインによる透明な外観が雪と調和します。
美術館広場にあるオラファー・エリアソン作<カラー・アクティヴィティ・ハウス>
2010年 ©2010 Olafur Eliasson

もはや金沢というだけではなく北陸に行くなら是非訪れたい場所としてあげられる金沢21世紀美術館。東京とは別世界の白銀の世界となっている金沢ですが、取材に訪れたこの日も雪が降っている中を、たくさんの方が見学に訪れていました。ここで3月20日まで開催されているのが「モニーク・フリードマン展」。この展覧会のキュレーターでもある学芸員の吉岡恵美子(よしおかえみこ)さんにご案内いただき、モニーク・フリードマンの魅力についてご説明いただきました。

Photo:Raphael Frydman

モニーク・フリードマン(Monique Frydman)は1943年フランス・タルヌ県(ミディ=ピレネー地域圏の県)ナージュ生まれ。現在も世界を舞台に創作活動を行っています。これまで金沢21世紀美術館でフランス人アーティストの展覧会が開催された記憶がなかったためにこの件について訊ねてみると、「当館はフランス人アーティストの作品は多数所蔵していますが、このようにフランス人のアーティストを個展というかたちで紹介するのは今回が初めてのことです。」というお答えでした。今回の展覧会を開催するにあたっては在日フランス大使館、そして芸術アタシェのエレーヌ・ケルマシュター氏の多大なる協力があったそうです。<アブサント>という三枚の絵画から成る連作ももともと在日フランス大使館への寄託の作品でしたが、金沢21世紀美術館のこの展覧会に出品されています。モニーク・フリードマンの作品は在日フランス大使館の旧庁舎を舞台とした「ノーマンズランド」展(2009〜2010)にも出展されていましたのでそこで彼女の作品を記憶されている方もいらっしゃるかと思います。
彼女の作品はヨーロッパでは、マティス美術館(フランス)、エルメス財団ラ・ヴェリエール(ベルギー)での個展を初め、ポンピドゥ・センター(フランス、パリ)での展覧会などでの展示作品が高い評価を得ており、2009年にはレジオン・ドヌール勲章を受けるに至っています。今回の展覧会はアジアで初の個展でもあります。
吉岡さんに最初に紹介していただいた作品<ざわめき> 。巨大な「かまくら」のような円形の展示室の内側をよく見ると、壁一面習字に使用するような薄い紙が計800枚、一枚一枚貼ってあり、その紙が人の動きによって「ざわめき」ます。一人で歩けば一人分ざわめき、二人で歩けば二人分ざわめく、といったように人の動きで紙がざわめき、カタチを作っていきます。歩いている自分の背後で紙がざわめくので、自分が歩きながら振り返って見る、または他の人が歩いている後を眺めてみるとそのざわめきを見ることができる、という作品です。

<ざわめき>2010-2011
 

次は<赤の部屋>。赤く染められたターラタン(薄いウールの平織り生地。吸油性が高いため、版画や印刷などでも使用される)が壁一面を覆っています。しかし近づいてよく見ると、その一枚一枚が3層から成っており、それぞれの赤の染め具合も違うために、とても微妙なグラデーションを生み出していることに気づきます。「赤」とひと言で言っても「青みが強い赤」「黄色が強い赤」などさまざまな「赤」が存在することを目の前で確かめることができる作品です。

<赤の部屋>2010-2011

そして<アブサント>。その名前はフランス、スイス、チェコ、スペインを中心にヨーロッパ各国で作られていた薬草系リキュールの一つ。南仏に住んだ画家たちが好んで飲んだお酒としても知られています。なぜこのタイトルになったのか、は見た方のご想像次第ですが、この作品も自然光の中に展示してあるため、昼と夜とではその作品の色味が違うという意味では <モネの睡蓮>を連想されるお客様もいらっしゃるのではないでしょうか。

<アブサント>1989 以前は在日フランス大使館の壁を飾っていました。

そして作品と自然との調和が見事としか言いようのない、<カレイドスコープ>。当日は雪が降り、外は灰色の空でしたが、その中でもこの作品は地面の解けた雪水に反射したり、またお互いの面同士が反射したり、まさにその名の通り万華鏡のような色の変化を見せてくれています。美術館の内側からこの作品を見ると万華鏡の周りにパトリック・ブラン(1953年パリで生まれの植物学者)による<緑の橋>とが、生物によるデザインと人工的なデザインでありながら見事な一体感を生み出しています。この<緑の橋>は金沢の気候に適した国内外の100種類の植物から成っている壁面芸術です。東京でも彼の作品を見ることができますが、この<緑の橋>は日本で見ることができるブランの最大規模の作品だということです。

<カレイドスコープ>2010-2011
ここでは空を見上げて<雲を測る男>を見ることもお忘れなく。ベストポジションです。

そして最後はモニーク・フリードマンの作品の変遷を眺めることができる展示室となっています。<ナージュの婦人たち>は彼女の作品の中では珍しい重い色調で表現されているのでその理由が気になり、吉岡さんにお聞きしました。ナージュとはフランスのとある村の名前で、ユダヤ人であるモニークとその家族が第二次世界大戦中にかくまってもらっていた村の名前だそうです。この作品ではカンヴァスの下に置いたロープの跡をパステルで浮かび上がらせるという新しい表現技法を採り入れていますが、そういった自分の生い立ちや過去に対する内面的なものをこの作品の中に深く刻んだのでしょうか。フランス・トゥールーズの大学で古典的な美術教育を受け、近代の巨匠たちが残した偉大なる作品の系譜を踏まえつつ自信の表現を切りひらいていったモニークですが、この展示室では彼女が敬愛して止まなかったフランスの画家ピエール=ボナール(Pierre Bonnard, 1867- 1947ナビ派に分類される19世紀〜20世紀のフランスの画家)からインスピレーションを受けた作品など、モニークの画家としてのエッセンスを感じることができる構成になっています。

<ナージュの婦人たち>1994
<季節―ボナールとともに>2010

モニークと時間をともにした吉岡さん。モニークとの思い出についてお聞きしたところ、「実はモニークはプライベートで2年前に金沢21世紀美術館を訪問していたということを後で知りました。彼女はこの美術館の展示室に入る自然光の感じなどをよく覚えていました。なので、この展覧会の企画が決定して彼女と展示構成について話した時もお互いの構想にあまりブレが生じることなく最後まで進むことができました。」とのことでした。
世界大戦、学生運動と、ひと事では言えない体験をしてきたモニーク・フリードマン。しかしながらその作品は優しく、まるで印象派の作品を見ているかのような気持ちさえ感じました。そしてモニークと時間を共有したからこその吉岡さんの作品に対する解説を聞くことで、作品への距離がぐっと近くなったことを感じました。
金沢21世紀美術館は有料の展示室以外でもアートライブラリーやキッズスタジオ(授乳室まであります)など無料でお子様連れでも楽しめるスペースがたくさんあります。この日も近隣の子供たちや学生たちが大勢訪れていました。SANAAによる近代的な建築物も真っ白な雪と一体化してモノトーンの美しさが際立っていました。まだ雪の残るこの季節ですが、「モニーク・フリードマン展」は気持ちが温かくなる展覧会でした。

無料で使用できるスペースには広々としたキッズスタジオや、SANAAのデザインエッセンスが感じられるウサギ型のイスなど、訪れた人の笑顔が想像できる仕掛けをあちこちで見かけます。
 
学芸員:吉岡恵美子さんからのコメント:
フリードマンの作品は、展示されている空間や、見る者の体に柔らかく浸透しながら、「場」そのものを軽やかに変容させる力に満ちています。この季節ならではの、雪が舞う冷たく澄んだ北陸の空気の中、または初春の陽のきらめきの下で、繊細な色と光を放つフリードマン作品をぜひ体感して頂きたいと思います。
4月28日からは企画展「工芸未来派」や当館収蔵品を独自の切り口で紹介するコレクション展が始まりますし、5月3日からは「Aloha Amigo! フェデリコ・エレロ×関口和之」と題した長期プロジェクト型展覧会も始動します。展覧会以外でも様々なプログラムが目白押しです。WEB等で情報をご確認の上、ぜひご来館ください。
 
 
金沢21世紀美術館
http://www.kanazawa21.jp/
 

[FIN]

ページトップへ

このページについて

MMMスタッフが注目する日本のアート・イベントをレポート!日本で楽しめるアートスポットやフレッシュな情報をお届けしています!

過去の記事を読む

2016年の記事
2015年の記事
2014年の記事
2013年の記事
2012年の記事
2011年の記事
2010年の記事
トップページへ