2012.10.15(月)取材

パリの友好都市、横浜市。
横浜駅直結のそごう美術館で現在「マリー=アントワネット物語」展
開催中です。

横浜駅を行きかう人で常ににぎわうそごう横浜店。その6階にある「そごう美術館」で現在マリー=アントワネット物語」展が開催されており、連日多くの来館者でたいへんな賑わいをみせています(11月18日まで)。

マリー=アントワネットと言えばやはりバラ。入り口のパネルはブリザーブドフラワーとアーティフィシャルフラワーで作られたバラで飾られています。

訪れたこの日も平日の昼間にもかかわらず、多くのお客様が、1点1点食い入るように展示作品を見つめていらっしゃいました。

王家の紋章の門をくぐって展覧会場へと入ります。
この展覧会のために「ベルサイユのばら」の作家池田理代子氏が描きおろしたマリー=アントワネット。

今回の展覧会に関して、そごう美術館主任学芸員の森谷美保(もりや みほ)さんにお話を伺いました。
展示会場に入ると、まずマリー=アントワネットの幼少の頃、そして母マリア=テレジアと兄であるヨーゼフ2世の肖像画が出迎えてくれます。今回の企画展の展示構成についてお伺いしたところ、「マリー=アントワネットの生涯に関して、時代を追って見ることができる内容になっているので、彼女の生涯について理屈抜きで理解しやすいものとなっていると思います」と森谷さん。

<オーストリア皇女マリア・アントニア
(マリー=アントワネット)>
C.Fフリッチェ(1719-1774)
ビュラン、1770年頃
29×19.8cm
ロイヤルブルーとピンク。マリー=アントワネットが好んだこの2色がバックパネルに使用されています。

森谷さんがおっしゃるように、マリー=アントワネットの結婚、出産、凋落、処刑による最期まで、その数奇な人生を展示作品が自然にナビゲートしてくれます。120点の展示作品の中でも今回森谷さんが特に印象深い作品はどれかお聞きしたところ、「絵画作品も勿論歴史的に非常に貴重なものばかりですが、ルイ16世の驚くほどの手先の器用さが見て取れる工芸品を初めとして、マリー=アントワネットが実際に使用していたものなどはとても興味深いものが多いですね」とのこと。
確かにルイ16世の手による小さな作品は思わず息を止めて観てしまいます。錠前作りが趣味だった、というのは有名な話ですが、マリー=アントワネットの時計のネジ、そして自らが使うナイフまで作っていたことには驚きました。熱心に作業をするルイ16世の姿が目に浮かぶような作品です。

<マリー=アントワネットの時計のねじ>
ルイ16世
1770-1789年頃 金、ラピスラズリ
3×3cm ジャン・ド・ベアルヌ伯爵蔵
<ナイフ>
ルイ16世
1792−1793 鋼鉄、角
3×10×0.5cm
ジャン・ド・ベアルヌ伯爵蔵
<マリー=アントワネットの時計>
作者不詳、金・琥珀・七宝・ダイヤモンド・真珠、1770年頃、17×3×0.2cm
ジャン・ド・ベアルヌ伯爵蔵
フランスへ発つ際に母マリア=テレジアから贈られたもの。幽閉時まで持ち続けました。
<マリー=アントワネットの扇>
作者不詳、18世紀第3四半世紀
紙に彩色、真珠母 25.5×45cm
ジャン・ド・ベアルヌ伯爵蔵
「出エジプト記」からの有名な場面が描かれています。

また、展示会場でなんと言っても人気があるのは肖像画から緻密に再現したドレスの数々。熱心に細部までご覧になるお客様が絶えません。このドレスの数々は、マリー=アントワネットが生きていた時代からドレスを制作し続けているパリのカラコ・カヌズ工房が、膨大な労力と時間をかけてこの展覧会のために再現したもの。どのドレスもまるで肖像画から抜け出したかのようです。

(左)<引き裾の宮廷衣装(復元)>
(右)<シュミーズドレス(復元)>
どちらもエリザベート・ルイーズ・ヴィジェ・ルブラン(1755-1842)が描いたマリー=アントワネットの肖像画に基づいて忠実に再現されたもの。どちらもこの展示会場ではマネキンへの着用に数時間を要したそうです。

この時代は「馬車にさえ乗ることができなかった」巨大なカツラが流行し、マリー=アントワネットも軍艦が乗っているカツラなどをお抱えデザイナーのローズ・ベルタンたちに依頼して制作させていましたが、レプリカを見るとその巨大さにあらためて驚きます。展示会場では実際にカツラを着けてみることができますので是非試してみることをおすすめします。「古今東西、女性はお洒落のためには不自由を厭わない」とはいつの時代にも言われることですが、このカツラを着けると手で押さえない限り頭を自由に動かすことさえできないのに、当時の女性たちがこのようなカツラを着けてどのように振舞っていたのかはちょっと想像がつきませんでした。

このカツラは自由に付けてみることができますので是非トライすることをお勧めします。その重さを実感できます。
当時のファッションプレートより。

そのような奔放な生活を送っていたマリー=アントワネットに降りかかったのが、有名な「首飾り事件」です。さまざまな登場人物が絡み合う事件ですが、マリー=アントワネットは何も知らずに次第にその渦中に巻き込まれていきました。贅沢三昧な生活を送っている貴族、とりわけマリー=アントワネットに対して貧しい一般民衆たちの不満がふくらんでいた時でもあったため、マリー=アントワネットへの憎しみが、その後一気に爆発します。
そして最後には断頭台に上るマリー=アントワネット。<コンシェルジュリを出るマリー=アントワネット>では断頭台に向かうマリー=アントワネットの表情と、それを取り巻く兵士たち、処刑執行人と思われる男、それぞれの表情に是非注目してご覧ください。

<首飾り事件の王妃の首飾り(復元)>
ステファン・マラン
1980年 クリスタル、銀めっきされた銅
47×54cm、重さ622g
ステファン・マラン蔵
<コンシェルジュリを出るマリー=アントワネット>
ジョルジュ・カン(1853-1919)
1885年 油彩、カンヴァス
176×212cm
カルナヴァレ博物館

「マリー=アントワネットはなぜこれほどまでに日本人の、特に女性に支持されていると思いますか」と森谷さんにお聞きしたところ、「やはりその人生の華やかさと、最後は断頭台の露と消える、という悲劇性でしょうか。また、後半生は子供を誰よりも愛した人間性に対して、私たち特に女性の心をつかんでいるのではないでしょうか。そして何と言ってもマリー=アントワネットの人気を日本で決定的にしたのは『べルサイユのばら』の影響が何より大きいでしょうね」とのことでした。
マリー=アントワネットの人気がなぜ時代を超えて不動なものであるのか、展覧会を見終わった後にその答えを実感することができる展覧会です。

今年は池田理代子氏の「ベルサイユのばら」が雑誌掲載開始から40年目の記念の年にあたり、再び注目されています。「子供の頃、この漫画でフランス革命を知った」という方も多いのではないでしょうか。本国フランスでも「これほどフランス革命について綿密な調査をして描かれたものはフランスにさえ存在しない」という評価を受けているほどだそうで、この漫画はフランス語にも訳されて出版されています。

 
森谷美保主任学芸員からのコメント
本展の見どころは、マリー・アントワネットの高価な所持品が出品されていることです。ご存じのようにアントワネットはフランス革命により処刑されてしまったため、彼女のドレスや身の回りの品々は、その大半が失われてしましました。本展に出品されている時計などのゆかりの品は、アントワネットが長女マリー・テレーズに贈り、現在まで受け継がれてきたものです。アントワネットの美意識が感じられるこうした作品を、ぜひ会場でご覧下さい。

そごう美術館の詳細はこちら
http://www.sogo-gogo.com/museum/
 

[FIN]

ページトップへ

このページについて

MMMスタッフが注目する日本のアート・イベントをレポート!日本で楽しめるアートスポットやフレッシュな情報をお届けしています!

過去の記事を読む

2016年の記事
2015年の記事
2014年の記事
2013年の記事
2012年の記事
2011年の記事
2010年の記事
トップページへ