2016.10月 取材

「拝啓 ルノワール先生――梅原龍三郎に息づく師の教え」

日本には、「三尺下がって師の影を踏まず」や「親は一世、師は三世」などと、師を敬うことわざが多くあります。10月19日から東京・丸の内の三菱一号館美術館で開催中の「拝啓 ルノワール先生――梅原龍三郎に息づく師の教え」展は、まさにそんな師弟の絆をテーマにした企画展です。印象派の巨匠ルノワールと日本の洋画界を牽引した梅原龍三郎。その国境を越えた師弟愛を感じられる工夫を随所に凝らした本展は、見終わった後、心に灯りがともったような温かな気持ちにさせてくれます。

梅原龍三郎の心揺さぶる言葉

京都に生まれた梅原龍三郎は、1908年7月20日、大志を抱いてパリの地を踏みました。20歳の梅原青年は、翌日には、パリのリュクサンブール美術館を訪れ、早々にルノワールの作品と対面します。この時の感激は、展覧会の冒頭に「梅原の言葉」として掲げられています。このように、本展では作品とともにたくさんのルノワールや梅原の言葉が紹介されています。それらを目にしながら本展を鑑賞していくと、まるで師であるルノワールと梅原との対話をわたしたちも聞いているような、不思議な感覚にとらわれます。そして展覧会終盤、もっとも心揺さぶられるのが、ルノワールの死を知らされたときの梅原の言葉。師を慕う梅原の強い想いが、胸に痛いほど突き刺さります。皆さんもぜひ、展覧会場でご自身の目で、心で感じてみてください。

「梅原の言葉」と「ルノワールの言葉」。作品鑑賞をより豊かなものにしてくれる演出がステキです。
ルノワール直筆の手紙や封筒も展示され、プライベート感が漂います。

バラに託された師の愛情

今回の展覧会では、梅原の私蔵コレクションだった作品も多く出品されています。なかでもぜひご覧いただきたいのが、ルノワールが描いた《バラ》です。バラはルノワールが好んだモティーフですが、梅原にも強い思い入れがありました。
1913年、帰国することになった梅原がルノワールのもとを訪問したときのことです。当時、ルノワールの作品は高騰しており、まだ若い梅原が購入できるものではありませんでした。しかし年老いた師は帰国する梅原に、1枚のバラの絵を手渡します。そのとき贈られた作品とは異なりますが、本展には後年になって梅原が買い求めたルノワールの《バラ》が展示されています。梅原はとりわけこの作品に愛着を寄せ、自らパリで18世紀当時の額を買い求め、さらに直筆のペインティングまで施し、大切にしたといわれています。カンヴァスの中央には花開いたバラが、その周りに描かれているのは蕾でしょうか。まるでその蕾は、のちに故国で大輪の花を咲かせることになる、未来の梅原の姿のようにも見えてきます。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《バラ》
制作年不詳 油彩/カンヴァス
三菱一号館美術館寄託
梅原がバラとミモザを描いた作品も見られます(写真中央)。

さて、展覧会の中盤には、ルノワールと梅原の等身大パネルと一緒に写真を撮れるコーナーがあります。MMMの特集記事でご紹介したこともある南仏カーニュ=シュル=メールの「ルノワールの家」(現・ルノワールの家美術館)を背景に、展覧会の記念に1枚いかがですか?

背景の写真は、MMMが提供いたしました。 ふたりの間にはさまって、ぜひパチリ!

展覧会のタイトルにちなみ、ショップでは「手紙」をテーマとしたグッズも並びます。お洒落な筆記具を眺めていると、お世話になったあの方に、久しぶりにお便りしたくなりました。

MMMライブラリでは、「拝啓 ルノワール先生――梅原龍三郎に息づく師の教え」展の図録をご用意しております。展覧会の予習・復習にも是非お役立てください。

「拝啓 ルノワール先生――梅原龍三郎に息づく師の教え」展の図録。
 

【展覧会情報】
「拝啓 ルノワール先生――梅原龍三郎に息づく師の教え」
三菱一号館美術館 2016年10月19日(水)〜2017年1月9日(月・祝)
http://mimt.jp/renoirumehara/
巡回予定/あべのハルカス美術館:2017年1月24日(火)〜3月26日(日)
http://www.aham.jp/

 

[FIN]

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