2011.8.1(月)
新たにオープンした郡山市立美術館。
リサとガスパールが、まさにそれをお祝いしているかのようです。
福島県郡山市。東北新幹線に乗り東京駅から1時間と少しで、緑豊かな阿武隈の景色が広がる郡山に到着します。東日本大震災で郡山も多大な被害を受けました。この郡山市立美術館も震災による地盤沈下で美術館の前庭部分が破損したために閉館していましたが、7月15日に無事に再オープンしました。
その再オープンを飾るのが「リサとガスパール&ペネロペ展」(8月28日まで)。リサとガスパールシリーズ日本語版刊行10周年を記念した展覧会です。リサとガスパールはフランス国内では勿論のこと、世界中で愛されている絵本シリーズで、日本でも既に35タイトルもの作品が刊行されるほどの人気。今回は学芸員の菅野洋人(かんのようと)さんに展覧会をご案内いただきました。



白い身体に赤いマフラーのリサ。そして黒い身体に青いマフラーのガスパール。会場でも「リサとガスパールはうさぎかしら?それとも犬?」と話し合っている来館者の会話が聞こえましたが、正解は「どちらでもない」のです。転校してきた行動的な女の子リサと、優しくておっとりしたガスパールは大の仲良しになり、絵本の中でさまざまな冒険をしたりいたずらをしたり、時々困った場面にも出くわしますが、お互いに助け合ってそれを乗り越えていく姿を見ていると、それは私たちの日常生活を切り取ったような場面もあり、二人が「人間」にさえ見えてきます。
「リサとガスパール」はドイツ人のゲオルグ・ハレンスレーベンとフランス人のアン・グッドマン夫妻の手によって生み出されました。アンがテキストを書き、ゲオルグが絵を添える、というまさに二人三脚の共同作業。「アンや子供たちの存在を感じながら仕事をするのが好き」という優しい表情のゲオルグさんは、美術史家だった父親の影響で、小さい頃から父親から話を聞きながら美術の本を見るのが好きだったそうです。そのためか、ゲオルグさんの作品はどれも「絵画」として楽しめるものばかり。学芸員の菅野さんも「ゲオルグさんの絵は、印象派の絵画などから明らかに影響を受けたと思われる作品も多い。彼のデッサン力と見事な色遣いには驚かされます。」とおっしゃっていました。確かにそのゆるぎない画面の構成力と色彩力によって、観る人をここまで引き込む作品を描き続けていくことができるのでしょう。




会場内に展示されている作品はどのシリーズも思わず微笑んでしまうような本当に愛らしいものばかりで、来館者のみなさんが絵に近づいて1点1点じっくりとご覧になり、隣の方と会話しながら本当に楽しんでいらっしゃって、会場内の雰囲気がとても温かいことが印象的でした。
今回の出展作品は200点。国内の「リサとガスパール」の展覧会では最大の点数だそうです。「リサとガスパール」のお好きな方はこの展覧会は見逃せません。
私ごとですが、実はこの展覧会を訪れるまであまり「リサとガスパール」について詳細に知りませんでした。しかし今回じっくりと作品に触れることができて瞬時にファンになりました。中でも一番好きな作品を挙げるのであれば<ガスパール こいぬをかう Gaspard veut un petit chien 2002>です。このストーリーは「子犬を飼いたいガスパールにおばあちゃんが子犬をプレゼントしてくれたのですが、子犬は家の中でいたずらしてばかり。やっぱりおばあちゃんの家の広い庭で飼ってもらうことにして、ガスパールは日曜ごとに子犬たちに会いに行くことにしました」というもの。ガスパールが子犬を抱いている絵が何とも言えずおかしくて愛らしい作品です。


また会場内には、展示されている作品のスケッチや試作、実際にゲオルグが使用している画材なども多数展示してあるため、いろいろな角度から自分なりに想像して作品を楽しむことができる内容になっています。



リサとガスパールの展示が終わると、最後のコーナーは新しいキャラクター、コアラのぺネロペの登場です。
中でも目を引くのは<ペネロペ ルーヴルびじゅつかんにいく Pénélope au Louvre 2007>。
ルーヴル美術館所蔵の名作たちの中に見事にペネロペが入り込んでいます!そう言えばリサのお家は「とても有名な建物の中の青いパイプの中」と<リサのおうち La maison de Lisa 1999>の中で表現されていますが、これはどう見てもパリのポンピドゥー・センター・・・。「リサとガスパール」にはこういったパリの世界的な美術館や、エッフェル塔、そしてパリについてご存知の方なら誰でもその名を知る老舗デパートや有名カフェなど、「あ、これ、あそこよね」という会話が弾むパリの景色も描かれているため、それを見つける楽しみもあるのです。





「本当はこの展覧会さえ中止にしようという案もあったのですが、外で遊ぶことができない子供たちに、是非ともこの夏休みに来てもらいたい、と思ってこの展覧会の開催を決めました。」と菅野さん。



ここは椅子に座ってゆっくり読むことができるスペースになっています。
会場にはリサが飛び出す仕掛けの小さな箱や、アニメーションで楽しめる番組の上映など、お子様連れでも楽しめる工夫が随所に見られます。


美術館の再開までには職員のみなさんも相当いろいろな苦労がおありだったと思いますが、リサとガスパール、そしてペネロペの魅力で、とても幸せな温かい気分になれる展覧会です。夏休みに是非訪れてみませんか。
フランス生まれの絵本シリーズ「リサとガスパール」と「ぺネロぺ」。ウサギでもイヌでもないリサとガスパール、そして青いコアラの女の子ぺネロぺの、日常の大冒険を描いたほのぼのとした世界を、原画でお楽しみください。
[FIN]

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