2016.11月 取材
上野の森美術館「デトロイト美術館展〜大西洋を渡ったヨーロッパの名画たち〜」
古代エジプト美術から現代美術まで6万5,000点以上を所蔵するアメリカの工業都市に建つデトロイト美術館。フランス絵画のコレクションにいたっては、ルーヴル美術館やオルセー美術館にも引けを取らないともいわれています。今回、東京・上野の森美術館に、印象派から20世紀絵画までの名画52点が来日しています。

アメリカの公共美術館で初購入した名画
アメリカを代表する同館ですが、実は3年前、市の財政破たんがきっかけで、美術品が流出する危機に陥りました。しかし、国内外からの支援や市民の声もあり、存続することが決定。今回の展覧会では、そんな市民の熱い思いが込められた名画を一堂に見ることができます。
今回のテーマである「大西洋を渡ったヨーロッパの名画たち」の目玉のひとつが、アメリカの公共美術館に初めて収められたゴッホの《自画像》です。ゴッホの価値が分からない時代だった1922年、同館ではいち早くこの作品を入手。縦35センチと決して大きい作品ではありませんが、何かを語り掛けるように見つめてくるゴッホの目力の強さに圧倒されます。また展覧会では、ゴッホと南アルルで共同生活を送ったゴーギャンの《自画像》と向き合うようにして作品が配置されているのも見逃せないポイントです。同じくマティスの《窓》もアメリカの公共美術館では初めて購入された作品です。この作品が描かれた当時、ヨーロッパは第一次世界大戦中という混乱期。平和を願ってマティスはこの作品を仕上げたのでしょうか。テーブルや絨毯など、マティスらしい赤色をアクセントにした本作は、見ているわたしたちを穏やかな気持ちにさせてくれます。


感情を色彩に託した20世紀ドイツ絵画
今回の展覧会では、20世紀のドイツ絵画、とくに前半期のドイツ表現主義の珠玉の作品も多く展示されています。ドイツ絵画は難解というイメージがありますが、本展の監修者である千足伸行氏は、「ルノワールやモネのような親しみやすさはありませんが、画家の思いを色彩に託したような部分があります。近代の画家は“色で語る”という傾向が強いので、そういう部分を意識しながら見ていただきたい」と解説。その言葉を受けて、カンディンスキーの《白いフォルムのある習作》やキルヒナーの《月下の冬景色》などを見てみると、何が描かれているのかというよりも、美しい色づかいに心を奪われました。
「名画は常に新しい」と千足氏が語ったように、見るたびにいろいろな発見ができそうな展覧会だと実感することができました。


さて、ミュージアムショップでは、作品をモチーフにしたたくさんのグッズが販売されていました。中でも、老舗、榮太樓總本鋪とコラボレーションしたひとくち羊羹や箱から絵が飛び出すキャンディ、ゴッホ《自画像》クッキーなど、工夫を凝らしたお菓子はちょっとしたお土産にもぴったりです。


また、プリンターなどを取り扱うメーカーのRICOHのコーナーでは、ゴッホやモネの作品の立体複製画製作技術を用いた複製画を展示。ゴッホの荒々しい筆のタッチやカンヴァスの質感まで、本物さながらで、触れながら鑑賞するという新しい絵画の楽しみ方が体験できます。

MMMライブラリでは、「デトロイト美術館展」の図録をご用意しております。展覧会の予習・復習にもぜひお役立てください。

【展覧会情報】
「デトロイト美術館展」
上野の森美術館 2016年10月7日(金)〜2017年1月21日(土)
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