ブリヂストン美術館「なぜ、これが傑作なの?」

▲バックボードが〈傑作〉を際立てる展示室

「なぜ、これが傑作なの?」という率直なタイトルで話題の展覧会。日本が世界に誇るブリヂストン・コレクションの粋が集う、その展示室の様子をご紹介します。また、今回の展覧会のために〈傑作〉12点をセレクトした学芸員の貝塚氏に、さらにその中から〈ベスト4〉を選び、「なぜ傑作なのか」を解説していただきました。

カラフルなバックボードで 迷わずに〈傑作〉へ!

▲マネの《自画像》(左)と《メリー・ローラン》。パステルで描かれた《メリー・ローラン》は常設はされていないので必見

 「なぜ、これが傑作なの?」展の会場は、基本的にはいつもの常設展の並びとさほど変わりませんが、大きく異なるのは、〈傑作〉の背後につけられたカラフルなバックボードです。ブリヂストン美術館の壁の色の美しさには、いつもながら関心させられますが、今回は、このバックボードの存在によって、来館者は迷うことなく、〈傑作〉を目指すことができる仕掛けになっています。色は貝塚氏自らが、それぞれの作品の印象から決めたそうです。

 最初の展示室には、マネ、モネ、ルノワールなど印象派とその周辺の画家たちの作品が並びます。そのうち〈傑作〉はマネの《自画像》とモネの《黄昏、ヴェネツィア》、そして今回、貝塚氏がMMFwebサイトのためにセレクトした〈ベスト4〉にランクインしたルノワールの《すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢》の3点です。

▲日本が世界に誇るモネの〈傑作〉、《黄昏、ヴェネツィア》
▲モネの《黄昏、ヴェネツィア》につけられた解説パネル。たっぷりのボリュームで、充実の読みごたえ
ルノワール

 1870年代の印象派のグループが必死に取り組んでい〈筆触分割〉という技法が見事に表れている作品です。女の子の髪の毛や膝小僧、肘などは、絵の具をパレットの上では混ぜずに、そのままカンヴァスに載せていって、絵の具の強い、きれいな発色を生かして描かれました。第3回の印象派展に出品された作品ですが、「まさに印象派」という時期のものです。小学生の男の子なんかに聞くとは「にくたらしい」とか「でぶ」とか言うんですけれど(笑)。

充実の解説で馴染みの〈傑作〉の 新たな美を再発見!

▲54歳ぐらいのセザンヌが描いた《帽子をかぶった自画像》。セザンヌが生涯に30点ほど描いた自画像の一枚

 ポスト印象派の部屋にももちろん〈傑作〉は並びます。《帽子をかぶった自画像》と《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》。いずれも、セザンヌの代表作です。

 今回の展覧会のもうひとつの特徴は、その詳細な解説文です。約150点の展示作品のうち、〈傑作〉に選ばれた12点には、通常の展覧会での解説をはるかに上まわる、約2000字の解説が用意されています。2000字と聞くと、一見ものすごいボリュームですが、一読した感想は「とにかく分かりやすい!」ということです。その画家の美術史における位置づけを明確にしたうえで、今回〈傑作〉に選ばれた作品が、彼の画業のどのような時期に描かれたのか、どのように評価されているのかを解説。そしてもちろん、その作品そのものの魅力を、描かれたモチーフ(あるいはモデル)や、用いられた技法、作画法といった観点から丁寧に紐解いていきます。通常の展覧会カタログよりもはるかに平易なトーンに、ユーモアを交えた文章で、「なぜ、傑作なのか」の問いに答えてくれるのです。これなら、今回、初めてブリヂストンのコレクションを見る人はもちろん、リピーターの来館者も納得。馴染みの作品の新たな一面を発見できるに違いありません。

▲モノクロの画面が印象的なロートレックの《サーカスの舞台裏》は、購入したばかりの作品

 その他、ドニやシニャックの作品も並びますが、最近、購入したばかりというロートレックも見逃せない作品です。

セザンヌ

 セザンヌは、サント=ヴィクトワール山を繰り返し描きましたが、これはいちばん最後に描かれたもののひとつなんです。最後まで筆を入れていた作品のひとつで、「山がそこにある」あるいは「建物がそこにある」という存在感をどう出せばいいのか、というセザンヌが追究してきた実験のひとつの結果が出ています。そして色彩が非常にきれいです。セザンヌ好きの人間にとっては、非常によくできたセザンヌで、緑・青・水色・薄緑・濃い緑の色彩のハーモニーが見事です。遠くのものと近くのものが同じリズムで描かれているのに、ぺったんこに扁平にならないで、ちゃんと奥行きがとれている。足掛け3年かけて描かれた、そいういう絵です。

▲《縞ジャケット》(左)など、マティスの作品が揃う展示室

 ポスト印象主義の部屋を出ると、次はマティスの部屋です。〈傑作〉に選ばれた《縞ジャケット》をはじめ9点のマティスが並ぶ様は壮観です。

 そして、次はピカソと20世紀美術の部屋です。ピカソの他、ブラックやデュフィの作品がありますが、なんと言っても、今回の展覧会のポスターにも使われているピカソの〈傑作〉、《腕を組んですわるサルタンバンク》の存在感は圧倒的です。

ピカソ
▲本展覧会のポスターにもなっているピカソ《腕を組んですわるサルタンバンク》

 ピカソはとにかく絵が上手い。ピカソは革新的な実験を繰り返し、それを展開させてきた絵描きですが、一時期、「新古典主義の時代」という写実的な、彫刻的な絵画を描いていた時代があります。これは、その代表作です。筆とカンヴァスだけのシンプルな絵に戻ったとき、やっぱりピカソが上手い。この間、山田五郎さんが「ベラスケスの時代に生まれれば、ベラスケスになっていた」と言っていましたが、そういう人だな、と改めて感じさせます。線に力があって、ぐいぐいと見る人を引っ張っていくような力強さがある。派手な色だけれども、全体のバランスがきちんととれている。余白のバランスもすごくいいですね。

抽象絵画、そして日本の 近代洋画の〈傑作〉も堪能!

▲ポロックの《Number2,1951》。ジェームス・ディーンとポロックの奇妙な偶然から始まる解説が面白い

 印象派コレクションのイメージが強いブリヂストン美術館ですが、実は、抽象絵画の優れたコレクションも所蔵されています。今回は、クレーの《島》とポロックの《Number2,1951》が〈傑作〉に選ばれています。

 作品解説については、個人の自由な鑑賞の妨げになる、と考える人もいるようですが、クレーやポロックのような作品を前にすると、やっぱりありがたい。とりわけ、今回の展覧会の懇切丁寧な解説は、馴染みのない者には敷居の高い抽象絵画への理解を深めるのに、一役も二役も買ってくれそうです。

▲クレーの《島》。砂を混ぜた石膏に描かれたこの作品は、間近で見ると、なんとも変わったマチエール

 最後の見どころは、日本の近代洋画です。藤島武二の《黒扇》、小出楢重の《帽子をかぶった自画像》、岡鹿之助の《雪の発電所》が〈傑作〉にラインナップされています。

▲近代洋画の傑作が並ぶ部屋。緑のバックボードに掛けられているのは、小出楢重の《帽子をかぶった自画像》   ▲点描で描かれた岡鹿之助の《雪の発電所》。ギリシア以来の黄金比が構図づくりに利用されているとは驚き
藤島武二

筆の動きにスピード感があって、すごくきれいな作品で、女性の生き生きとした感じが出ています。こういう描き方というのは、悩んだりするとできないんです。藤島はイタリアに2年間滞在しましたが、そのときに描かれた作品で、この女性は、その間に雇われたモデルです。ヨーロッパの人が観ると「スペイン人じゃないか」と言いますが、スペイン風の格好をさせて描いているんです。19世紀末のヨーロッパではスペイン趣味が流行して、それのヴァリエーションのひとつです。右肩を出して左肩を引いて、微妙に首をかしげているのが心地いい。陰のところには青、頬のハイライトにはピンクが使われていて、モデルの美しさが際立っています。アトリエにしまっていて、家族にも見せなかった作品です。なぜ、誰にも見せなかったのか、それは、想像するしかありません(笑)。

 こうして見てみると、ブリヂストン美術館には、「これ一枚あれば特別展ができる」というほどの、まさに〈傑作〉が揃うことに改めて驚かされました。ブリヂストン美術館は、所蔵作品を展示する〈コレクション展示〉が目玉となりうる、日本では希有な美術館なのです。海外から運ばれてきた作品を見に行くのもいいですが、今回の展覧会を機に、日本が世界に誇る〈傑作〉の数々を再発見してみませんか?

Update :2011.2.15
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「なぜ、これが傑作なの?」展

  • 会期
    2011年1月4日(火)〜4月16日(土)
  • 会場
    ブリヂストン美術館
  • URL
    http://www.bridgestone-museum.gr.jp/
  • 開館時間
    火曜〜土曜日:10:00-20:00
    日曜・祝日:10:00-18:00
    *入館は閉館の30分前まで

  • 休館日
    月曜日
  • 入館料
    一般:800円
    シニア(65歳以上):600円
    高校・大学生:500円
    中学生以下:無料

「なぜ、これが傑作なの?」展

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