ブリヂストン美術館「なぜ、これが傑作なの?」

▲展覧会を企画した学芸員の
貝塚健氏

「これはピカソの傑作です」──「でも、どうして??」
そんな、シンプルな問いに答えてくれる、ありそうでなかった展覧会が、現在、東京のブリヂストン美術館で開催中です。約150点の絵画が展示された展覧会のタイトルはずばり、「なぜ、これが傑作なの?」。 国内随一の西洋絵画のコレクションを誇るブリヂストン美術館だからこそできた、このユニークな展覧会の見どころを、展覧会を企画した学芸員の貝塚健(かいづか つよし)氏にお伺いしました。

ベストのコレクションを ゆっくり見てもらう展覧会

MMF:シンプルで力強い展覧会タイトルです。なぜ、この展覧会を開催しようと思われたのですか?

貝塚健氏(以下、貝塚氏):ブリヂストン美術館はもともとコレクション展示が中心ですが、今年は珍しく、外から作品をお借りしてきて開催する特別展が3つあります。これはブリヂストンとしては例外的に多いんです。全館を使ったコレクション展示の期間が1月から4月と、9月の1カ月、計4カ月だけで、それ以外は特別展の会期中です。コレクションを見せる期間が通常と比べると限られているので、せっかくコレクション展を開催するのであれば、できるだけ丁寧に、じっくりと見ていただけるような内容にしたい、と思ったんです。そこで、貸し出し中の作品を除けば、ベストのものを揃えることになりました。

▲展覧会のエントランス

MMF:それでこの、インパクトのある展覧会が誕生したのですね。

貝塚氏:インパクトがあるかどうかは分かりませんが「じっくり見ていただこう」という趣旨で考え、こういう展覧会名をつけました。それで、〈傑作〉12点を選びました。

MMF:〈傑作〉12点は、どうやって選ばれたのですか?

貝塚氏:私が選びました。といっても、誰が選んでも10点ぐらいは同じになるかと思いますよ。そして、その12点に「なぜ、傑作か」がわかるような、2000字の作品解説をつけました。通常、美術館の展示室にある作品解説は400〜500字が普通なんです。その4〜5倍の分量というのは、ちょっと冒険ではありましたが、「読まない人はどんなに短くても読まない、読む人は長くても読む」という経験則から、多少長くても、内容が読みやすければ、読んでもらえるだろう、と考えました。そして、傑作だと分かりやすいように、12点中10点に作品の印象的な色を配したバックボードをつけて、じっくり見てもらえるように展示しました。

▲セザンヌの《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》のある展示室

MMF:長い解説は、来館者の流れを遮るということで、嫌がる美術館もあるようですが。

貝塚氏:限定3カ月なので、そういう期間があってもいいのではないか、と思います。また、現在の来館者数は1日380人ぐらいですが、それぐらいですと、解説の前に人がたまって見にくくなるとか、絵が見えにくいといったことはありません。

MMF:毎週水曜と金曜日の15時から、ギャラリー・トークを開催なさっていますね。今回の反応はいかがですか?

貝塚氏:今回は、参加者がとても多いです。通常は一日の入館者数の20分の1ぐらいなんですが、今回はそれ以上です。今日も30名ほどが参加なさいました。

充実した所蔵品を誇る ブリヂストンならではの企画

▲来館者の期待感を誘うエントランス。彫刻の名品が並ぶ

MMF:欧米の美術館とは異なり、日本では企画展で集客するというスタイルが一般的です。コレクション展示を原則とされている貴館では、どのような工夫をなさっていますか?

貝塚氏:こちらが頭をひねっていろいろと工夫すれば、その分だけ返ってくるのでやりがいがあります。私は展覧会の会期中は、1日に2回は必ず展示室を見て回り、見に来てくださる方がどういう顔をしているかとか、どのくらい美術館の中で過ごしてくれているかを見るようにしています。だから分かることですが、直接、来館者数には反映されなくとも、打てば響くというところがあるのです。定点観測に近いですね。

MMF:大規模な企画展の開催が難しくなってきている今日、そうしたキュレーションの工夫は、多くの美術館にとっても参考になるものでは?

貝塚氏:ただし、コレクションありきです。ブリヂストン美術館はコレクションがあってスタートした美術館ですので、美術館がつくられた経緯といったものを良くも悪くも背負っています。ですから、どの美術館でもブリヂストンと同じことができるわけではないのです。

▲ライティングや壁紙の色などに配慮が行き届いた美しい展示室

MMF:貴館は「都会型の美術館」の草分け的存在です。都会のオアシスとして、どのような空間づくりを心がけていますか?

貝塚氏:基本的に、ブリヂストン美術館は「絵が主役」「作品が主役」という考え方ですから、丁寧に絵を見せるよう心がけています。照明にも気を配っていますし、絵画作品には、映り込みの少ない低反射ガラスを使っています。壁紙の色などにもいろいろと試行錯誤をしています。
都会の美術館としては、来館者数は伸びなくとも、火曜から土曜までは20時まで開館しています。夜間の来館者数は伸びませんが、集中している方が多いですよ。夜は静かに作品を観られる〈穴場〉だとご存知なのかもしれません。今日も15分ぐらいずっと椅子に座って、作品と対峙なさっている方がいらっしゃいました。

MMF:MMFwebサイトをご覧の方々は、フランス美術のファンが多いのですが、今後も、フランス美術に関連のある展覧会は予定されていますか?

貝塚氏:「なぜ、これが傑作なの?」の後は、4月29日から「アンフォルメルとは何か?―20世紀フランス絵画の挑戦」(仮称)を予定しています。第二次世界大戦後のパリで起った前衛的な絵画運動「アンフォルメル」を担った、フォートリエやヴォルス、デュビュッフェ、ミショー、スーラージュといった作家たちの作品、約100点を紹介します。
まだ発表できませんが、来年以降もラインナップとしてはフランス関連の展覧会は挙がっているので、どうぞ、楽しみになさっていてください。

MMF:最後に、このwebサイトを見て、今回の「なぜ、これが傑作なの?」にいらしゃる方に向けて、ひと言いただけますか?

貝塚氏:傑作というのは、美術館が「これが傑作だ」と押し付けるものではありません。今回、いちおう傑作を絞り込んでみたらこういうラインナップになりました。ただ、来館者ひとりひとりが自分にとっての傑作を選んでもらえれば大歓迎です。

Update :2011.2.15
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「なぜ、これが傑作なの?」展

  • 会期
    2011年1月4日(火)〜4月16日(土)
  • 会場
    ブリヂストン美術館
  • URL
    http://www.bridgestone-museum.gr.jp/
  • 開館時間
    火曜〜土曜日:10:00-20:00
    日曜・祝日:10:00-18:00
    *入館は閉館の30分前まで

  • 休館日
    月曜日
  • 入館料
    一般:800円
    シニア(65歳以上):600円
    高校・大学生:500円
    中学生以下:無料

「なぜ、これが傑作なの?」展

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