マリー=アントワネットの画家 ヴィジェ・ルブラン

▲本展の監修者、グザヴィエ・サルモン氏。

今季注目の展覧会として3月1日に三菱一号館美術館で幕を開けた、「マリー=アントワネットの画家 ヴィジェ・ルブラン―華麗なる宮廷を描いた女性画家たち―展」。
18世紀、王妃お気に入りの画家として名声をほしいままにした美貌の女性画家、ヴィジェ・ルブラン(Élisabeth Louise Vigée Le Brun)を軸に、同時代の女性画家たちの活躍にフォーカスした華やかな展覧会です。展覧会の監修を務めたフォンテーヌブロー宮殿美術館館長のグザヴィエ・サルモン(Xavier Salmon)氏と三菱一号館美術館館長の高橋明也(Akiya Takahashi)氏、さらに本展担当学芸員である安井裕雄(Hiroo Yasui)氏が、本展の見どころや見逃せない作品について語ってくださいました。

絵画の技術を身につけることは 良家の女性のたしなみでもありました

▲ヴィジェ・ルブランの筆がとらえた美しき女性たちが大集合! 暖炉の上には、王妃マリー=アントワネットの肖像が、その左には王妃の取り巻きだったポリニャック夫人の肖像が見られる

 今回の展覧会では、18世紀に活躍した34名の女性画家による83点の作品が出品されています。そのうちの32点は初公開作品であり、その中にはヴィジェ・ルブランの未公開作品2点も含まれています。実はヴィジェ・ルブランの回顧展は本国フランスでもこれまで一度も開催されたことはありません。マリー=アントワネット(Marie-Antoinette)の画家として、存命中から名を馳せていたヴィジェ・ルブランの作品23点が一堂に会するのは、世界的に見ても非常に稀な機会といえるでしょう。

▲フランス王妃、マリー・レクジンスカ≪ヴェルサイユ宮殿、中国風居室の彩色パネル≫ 個人蔵。王妃のアパルトマンの一室に飾られていた様子をイメージした展示がなされている

 フランスで女性画家の才能が評価されるようになったのは、17世紀半ばからのことでした。本展最初の展示室を飾るエリザベト=ソフィー・シェロン(Élisabeth-Sophie Chéron)や、ド・ブーローニュ姉妹(Madeleine et Geneviève de Boulogne)といった男性にも劣らない技量を持つ女性画家たちが王立絵画彫刻アカデミーへの入会を許され、彼女たちはその才能で、女性画家のスポークスマン的存在となっていきます。

▲エリザベト=ソフィー・シェロン≪自画像≫ パリ、ルーヴル美術館

 こうした女性画家たちの多くは、芸術家の家系にありました。もともとデッサンやタブロー、ミニアチュールの技術を身につけることは、良家の女性のたしなみでもあり、教養とされた時代だったのです。そこから本格的に制作する者が出始めました。その代表的なひとりが、フランス王妃でもあったマリー・レクジンスカ(Marie Leszczyńska)です。ルイ15世(Louis XV)の妃であったレクジンスカは、やはり絵を描くことを好んだ父を手本にしながら、絵画の基礎を数人の画家から学びました。本展に出品されている≪ヴェルサイユ宮殿、中国風居室の彩色パネル≫は、王の肖像画工房の画家たちの手を借りながら、王妃自らが描いた8枚に及ぶ装飾パネルです。この異国情緒溢れる作品は、ヴェルサイユの王妃の居住の一室を飾るために制作されたもので、修復作業を終えて、今回初めて一般に公開される貴重なものです。

ヴィジェの作品を男性画家たちが 模写する時代の到来です

▲エリザベト・ルイーズ・ヴィジェ・ルブラン≪自画像≫(1800年) サンクトペテルブルク、エルミタージュ美術館

 そしてヴィジェ・ルブランもまた、有能なパステル画家を父に持つ家に生まれました。ヴィジェは若くして父を亡くしましたが、その抜きん出た才能によって、見事マリー=アントワネットの画家という栄誉ある地位を獲得します。通常、王族は画家の前で直接ポーズを取ることはほとんどありませんでした。しかし、ヴィジェはマリー=アントワネットに目の前で直接ポーズを取ってもらえる幸運に恵まれたのです。ヴィジェが描いたマリー=アントワネットの肖像は、王妃に実際に会えない男性画家たちによって模写されることも多く、彼女は男性画家にとっても成功のモデルとなりました。またヴィジェは、次々と舞い込む肖像画の注文をさばくため、自らは顔だけを描き、ほかの部分は女性の弟子たちに描かせることもありました。このように、ヴィジェら名声を博した女性画家は、次代につながる女性の弟子の育成にも努めました。

 私たちは今回、18世紀を「女性の世紀」としてとらえ、光を当てることを試みました。ヴィジェやその最大のライバルと目されたラビーユ=ギアール(Adélaïde Labille-Guiard)などは才能を認められ、王家の人々から肖像画を依頼されるまでの画家になります。絵筆1本で、自らの地位を向上させていった女性たち。彼女たちは、19世紀に続く「男女平等への道」を切り拓いていったのです。

 

▲三菱一号館美術館で本展が開催される意義を語る高橋明也氏

高橋明也館長からも一言!

 三菱一号館美術館の重要なミッションには、「近代都市」と並んで「女性」というキーワードも含まれています。今回の展覧会は3年の準備期間を経て実現しましたが、実はその最初のアイデアは10年も前、私がまだ国立西洋美術館に在籍していた頃に思い付いたものです。本展にも出品されているカペ(Marie-Gabrielle Capet)の≪自画像≫が国立西洋美術館のコレクションに入った時、「女性画家」という存在にはっきりと気づいたことがきっかけでした。それから時は過ぎ、今回サルモン氏と大野芳材氏という心強い協力者と出会い、こうして本展の開催にこぎつけることができました。「女性芸術家」というカテゴリーを設けること自体が、躊躇されるほど自由な現代において、あえて彼女たちの作品を取り上げることは、美術という枠組みを超え、社会学的な関心でもあります。ヴィジェをはじめとした激動の時代を生き抜いた女性画家を扱うことは、近代を考える上でも非常に重要なテーマです。ダイレクトに「今」という時代につながる展覧会だと思っています。

▲国立西洋美術館所蔵のカペ≪自画像≫
▲三菱一号館美術館3階から見下ろす丸の内ブリックスクエアの中庭
 
Update : 2011.4.1
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マリー=アントワネットの画家 ヴィジェ・ルブラン ―華麗なる宮廷を描いた女性画家たち―展

  • 会期
    2011年3月1日(火)〜5月8日(日)
  • 会場
    三菱一号館美術館
  • URL
    http://mimt.jp/
  • 開館時間
    水曜・木曜・金曜:10:00-20:00
    火曜・土曜・日曜・祝日:
    10:00〜18:00
    *入館は閉館の30分前まで
  • 休館日
    月曜日
    *ただし祝日の場合は翌火曜日休館。
    5月2日(月)は開館
  • 入館料
    一般:1,500円
    高校・大学生:1,000円
    小・中学生:500円
 

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