

メゾン・デ・ミュゼ・ド・フランス(MMF)のある銀座界隈には 企業が運営する美術館やギャラリーなどが、数多く点在しています。銀座のMMFにお越しの際、併せて訪問いただきたい、こうしたアートスポットをご紹介してまいります。

Vol.1 パナソニック電工 汐留ミュージアム ルオーの繊細な色調と次世代照明
Vol.2 シャネル・ネクサス・ホール 伝説のフォトスタジオ「スタジオ アルクール」が記録したフレンチシネマのスターたち
Vol.3 ポーラ ミュージアム アネックス 〜涼を呼ぶ〈ガラス〉と〈香り〉の共演〜 華麗なる香水瓶の世界へ
Vol.4 資生堂ギャラリー 〜現代アーティスト、辰野登恵子の新作展〜 パリの老舗工房で生まれた石版画

- 所在地
東京都港区東新橋
1-8-2カレッタ汐留
- Tel
03-6218-2500
- 入場料
無料
- 開館時間
平日 11:00-18:30
土曜・日曜・祝日・振替休日 11:00-16:30
*最終入館は閉館の30分前まで
*広告図書館はミュージアムより30分早く閉館
- 休館日
月曜日(祝日・振替休日の場合は火曜日休館)
*広告図書館は日曜・月曜日休館

- アクセス
JR新橋駅・東京メトロ銀座線「新橋駅」より徒歩5分。都営地下鉄浅草線「新橋駅」より徒歩4分。都営地下鉄大江戸線「汐留駅」・ゆりかもめ「汐留駅」より徒歩1分。
- 運営
公益財団法人 吉田秀雄記念事業財団
- 開設年
2002年

▲企画展「D&AD賞2011展」。海外の受賞CMは字幕付きで観ることができる。
2002年にオープンした「アド・ミュージアム東京」は、マーケティングと広告に関する日本で唯一の本格的な博物館です。常設展示スペースと企画展示スペースからなり、訪問した際には、英国の非営利団体が顕彰する「D&AD賞2011展」(2011年11月20日まで)を開催中でした。
世界で最も厳しいと定評のある審査を勝ち抜いたユニークな作品が揃う企画展を通り、お目当ての常設展へ。「電通」の第四代社長で、「広告の鬼」とも称された吉田秀雄の遺志を受け継ぎ、広告の普及と発展に貢献する目的で創設された公益財団法人 吉田秀雄記念事業財団が運営するこのミュージアムの収蔵品数は、

▲商品名を入れ込んだ歌舞伎の役者絵などが並ぶ。
実に約20万点。江戸時代から現在に至るまでの日本広告史を文字通り、網羅するコレクションです。常設展では、その中から選りすぐりの作品が紹介されています。
展示の始まりは江戸時代です。商品をかたどった木製看板や錦絵、引き札などが並びます。「今日ある広告のかたちは、江戸時代にはひととおり行われていました」と語るのは学芸員の坂口由之(さかぐち よしゆき)さん。「『店先現金掛け値なし』で知られる越後屋は、江戸市中に50万枚もの引札をばら巻きました。これは、今でいうポスティングです。ドラッカーもその著書で、マーケティングのルーツは越後屋の商法にあると言っているんですよ」(坂口さん)。なるほど、他の展示品を見て行くと、錦絵にさりげなく店名や商品名を刷り込んだり、歌舞伎のせりふに商品名を入れたり、草双紙に広告を挟んだり──。商魂たくましい江戸っ子は、世界に先んじて「クロスメディア展開」をしていたというから驚きです。
新聞・雑誌の登場によって、広告メディアの世界が激変した明治時代、生活の西欧化が進み、モダニズムが花開いた大正時代の広告、そして、敗戦後の復興と急成長の中で躍進を遂げていく昭和の広告──。展示は、折々の世相を反映したポスターなどの広告を中心に、20世紀の広告史をたどっていきます。
そして、その合わせ鏡として、向かい側の壁一面に飾られているのが、このミュージアムで最もユニークな「20世紀の社会・風俗・文化」の展示。20世紀を10年単位で区切り、その時代を象徴する新聞紙面や雑誌、映画、ヒット商品などをコラージュした展示です。『鉄腕アトム』やビートルズ、『スターウォーズ』、ルービックキューブ、ファミコン……。ある時代に一世を風靡した品々がずらりと並びます。「どこで立ち止まるかによって、年齢が分かってしまいます」と坂口さんは笑いますが、確かに、誰もが知らず知らずのうちに、"懐かしい品"を探してしまうようです。

▲テレビCMの試聴コーナー。
最後のお楽しみは、テレビCMの視聴コーナー。ここでは約1万本の話題のCMが選択して見ることが出来ます。ほんの少しのつもりで椅子に座りましたが、あまりの懐かしさに、時間を忘れて次から次へと見入ってしまいました。それぞれの時代に話題となった広告の持つインパクトは、私たちの脳裏に深く刻まれているのだと実感しました。皆さまも、是非、「アド・ミュージアム東京」を訪ねてみてください。きっと、思い出のCMや広告が見つかるはずです。
広告はその時の役割を終えると消えていく宿命にあります。そんな広告を収集・保存し、また文化的資産として展示・研究する場が求められていました。当公益財団は業界の協力を得て、吉田秀雄生誕100年記念事業の一環としてとして、2002年アド・ミュージアム東京を開設いたしました。
広告は半歩先の時代を先取りするともいわれますが、そのコミュニケーションの知恵は江戸時代の娯楽や出版物の中に数多く見られます。広告は「時代の合わせ鏡」であることが実感できるミュージアム(入場無料)です。あなたの懐かしい広告を見つけにいらっしゃいませんか?
アド・ミュージアム東京 学芸員 坂口由之