[三菱一号館美術館]シャルダン展―静寂の巨匠 Chardin 1699-1779

キュレーターのお墨付き!必ず見たいこの3作品+α

シャルダンの画業は60年近くに及びますが、残された作品数はそれほど多くありません。その希少性と作品の重要度から、シャルダンは所蔵美術館や個人所有者が作品を出品することをよしとしない画家のひとりです。今回展示されている作品38点は、いずれも特別な取り計らいによって出品されたものばかり。大型の展覧会に慣れたわたしたちにとっては、少ない点数に映るかもしれませんが、じっくりと1点1点の作品と対話できる、またとない機会です。

1.《銀のゴブレットとリンゴ》

▲1768年頃 油彩、画布、33×41cm
パリ、ルーヴル美術館蔵
© RMN-GP (Musée du Louvre) / Stéphane
Maréchalle / distributed by AMF- DNPartcom

 シャルダンの最も有名な静物画の1枚です。シャルダンは画業の初期は静物画を多く描いていましたが、やがて1733年頃から風俗画を描き始めます。そして1750年代の半ば、50代の頃になると、再び静物画に回帰し、完全に風俗画を放棄しました。この作品は晩年に描かれた静物画です。足付きの酒杯であるゴブレットは、初期の静物画にもひんぱんに登場するモティーフ。その磨き上げられた肌には、リンゴが映り込んでいます。晩年のシャルダンは薄明りの中に、モティーフを絶妙な構図で配置し、巧みな明暗表現でモティーフに潜む感動的な美しさを抽出しました。シャルダンの手にかかると、どこにでもある平凡なゴブレットやリンゴ、栗までもが神々しく輝き始めるから不思議です。

Curator's Voice 内覧会の席上で、世界的なシャルダン研究の第一人者ローザンベール氏がその美しさを称えた作品!

「わたしたちはシャルダン作品のささやかな道具の中にも美を見つけざるを得ません。シャルダンは、ゴブレットを突然モニュメントにしてしまっているのですから」

ルーヴル美術館名誉総裁・館長 ピエール・ローザンベール氏

2.《カーネーションの花瓶》

▲1755年頃 油彩、画布、
44×36cm
エジンバラ、スコットランド国立美術館蔵
Scottish National Gallery, Purchased with the aid of the Cowan Smith Bequest Fund 1937

 デルフト製のファイアンス陶器の花瓶に、カーネーションやスイートピー、クロッカスなどの春を告げる花がたわわに生けられています。画面右、石のテーブルの上に描かれた真紅のカーネーションの美しさには見とれてしまうばかり。本作も最も名高い作品のひとつで、多くの複製がつくられました。花びらを見ると、ひと筆で描いたようなとても大胆な筆致が残っています。この作品に魅せられたフランスの作家で文化相も務めたアンドレ・マルロー(André Malraux/1901-1976)は、「これはおそらく、彼の唯一の花の絵だろう。花の青と花瓶の青の関係が見事だ。別の画家なら青色の背景の上に花瓶を描くだろうね。しかしシャルダンは褐色の背景の上に置いた。青と栗色というのは画家にとって最も難しい色だが、どれほど見事に成功しているか、見てごらん」と、称賛の言葉を残しています。

Curator's Voice 音声ガイドで館長のスペシャル解説が聞ける!

「絵画の伝統では、花瓶の横に落ちた花は、はかなさの象徴として描かれてきました。しかしシャルダンはそうした象徴としてではなく、真紅のカーネーションを傍らに添えることで、見事な構図の安定感を生み出しています」

三菱一号館美術館 高橋明也館長

3.《木いちごの籠》

▲1761年頃 油彩、画布、38×46cm
個人蔵
© RMN-GP / René-Gabriel Ojéda / distributed
by AMF- DNPartcom

 籠にピラミッド状に盛られた木いちご、水の入ったコップ、2本のカーネーション、さくらんぼがふたつと桃がひとつ。わたしたちにとって、なんら珍しくもない簡素なモティーフが褐色の背景に描かれています。しかしカーネーションの白と木いちごの赤の対比、グラスと水の透明感、つややかなさくらんぼの質感など、視線を動かす度に、はっとさせられる不思議な魅力に満ちています。フランスの哲学者で作家、そしてシャルダンの崇拝者であったディドロ(Denis Diderot/1713-1784)は、シャルダン作品の素晴らしさを「この魔術についてはまったく分からない」と称しました。そんな“魔術”を実感できる作品です。

Curator's Voice 本展担当学芸員がひと目で恋した木いちご!

「この作品と初めて出会ったのは、1999年にパリで開かれた大規模なシャルダン展でのことでした。こんもりと盛られた木いちごの瑞々しさにくぎ付けになったことを覚えています」

三菱一号館美術館学芸員 安井裕雄氏

Special 《羽根を持つ少女》

▲1733年 油彩、画布、
81×65cm
個人蔵

 乳白色の胸当てのあるエプロンを身に着けた少女が、右手にラケットを、左手に羽根を持ち、遊ぼうとしている情景を描いた《羽根を持つ少女》は、シャルダンの代表作であり、18世紀フランス絵画における最高傑作のひとつに位置づけられています。しかし、本展のポスターやチラシ、公式サイトなどにもその画像は掲載されていません。つまり頬を染めた愛らしい少女に出会えるのは、三菱一号館美術館の展覧会場だけなのです。本作は、イメージがひとり歩きすることを恐れた現在の個人所蔵家の希望で、唯一展覧会カタログだけに画像掲載が許された、まさに“箱入り娘”なのです。

[FIN]

Update : 2012.10.15
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シャルダン展

  • 会期
    2012年9月8日(土)〜2013年1月6日(日)
  • 会場
    三菱一号館美術館
  • 所在地
    東京都千代田区丸の内2-6-2
  • Tel
    03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • URL
    http://mimt.jp/
  • 展覧会
    http://mimt.jp/chardin/
  • 開館時間
    木曜・金曜・土曜日:10:00-20:00
    火曜・水曜・日曜日・祝日:10:00-18:00
    *入館は閉館の30分前まで
  • 休館日
    月曜日
    *ただし、祝日の場合は開館し、翌火曜日休館、12月25日は開館
    2012年12月29日(土)〜2013年1月1日(火・祝)
  • 観覧料
    一般:1,500円
    高校・大学生:1,000円
    小・中学生:500円

*開催情報は変更となる場合があります。最新の情報は、公式サイト、ハローダイヤルでご確認ください。

MMFよりチケットプレゼントのお知らせ

2012年10月15日以降、銀座MMFにご来館いただいた方先着10名様に「シャルダン展」の無料観覧券を1枚プレゼントします。「MMFウェブサイトを見た」とおっしゃってください。

 

*情報はMMMwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は観光局ホームページ等でご確認いただくか、MMMにご来館の上おたずねください。