[三菱一号館美術館]シャルダン展―静寂の巨匠 Chardin 1699-1779

今年4月で開館3年目を迎えた三菱一号館美術館。記念すべき10本目の展覧会となる「シャルダン展―静寂の巨匠」が開幕しました。シャルダンは、日本人にとってなじみの薄い画家ですが、セザンヌやフェルメールが相次いで来日し、美術展の当たり年といわれた今年、どんなビッグネームにも引けをとらない、最も注目すべき展覧会のひとつとなりました。今月の特集では、シャルダンの魅力を紐解くキーワードと見逃せない作品をご紹介します。

展覧会へ行く前にチェック!シャルダンの魅力を解き明かすキーワード

Keyword 1 Chardin ―シャルダンという名の画家―

▲画家の魅力を表すよう、今回は展覧会ロゴもシンプルで美しい

 今回の展覧会はシャルダン(Jean Siméon Chardin/1699-1779)の作品が世界各国の美術館から集結した日本初の個展となります。フランスをはじめとしたヨーロッパでは、18世紀フランスを代表する静物画・風俗画の巨匠として知られるシャルダンですが、日本ではあまり知られていない画家といえるでしょう。いったいシャルダンとはどんな画家だったのでしょうか。

 シャルダンは、1699年パリの家具職人の息子として生まれました。正式な美術教育を受けず、独学で絵画を学んだシャルダンは、華麗なロココ趣味が花開いた時代にあって、生涯を通じて静けさに満ちた風俗画、静物画を描き続けた画家です。

▲開館3年目を迎えた三菱一号館美術館。中庭の樹も大きくなった

当時、絵画のヒエラルキーでは、神話や聖書の一場面や歴史的情景を描いた「物語画」が最上とされ、風俗画や静物画の序列は下位に属していました。しかしシャルダンは、弱冠29歳で、フランス美術界において圧倒的な権威を誇る「王立絵画彫刻アカデミー」に「動物と果実の画家」として登録され、即日のうちに準会員、さらには正会員へとのぼりつめます。これは風俗画家や静物画家としては異例のことでした。伝統を重んじるアカデミーの重鎮たちのかたくなな心をも一瞬のうちに溶かしたように、シャルダンの作品は頭や知識ではなく、心、そして感情に響く“魔術的な力”を持っているようです。

Keyword 2 Poésie ―詩情―

▲初期の静物画が並ぶ展示室。画家は死んだ野兎の中にも美しさを見出した。

「色彩は用いるけれども、絵は感情で描くのです」

 ある日、ひとりの画家が色彩法について大いに自慢していたところ、シャルダンはぴしゃりとこう言ったと伝えられています。

 感情で描く絵画とは――それは言葉で説明するよりも、何よりシャルダンの作品の前に立つと理解できるはずです。「生きる歓び」をひたすら華やかに描こうとした18世紀のロココ趣味の画家たちの中で、シャルダンは、つつましい日常の道具、日々の仕事を愛し、飽くことなく繰り返し描き続けました。シャルダンは、目の前にある物に真摯に対峙し、その本質と対話し、その中に潜む美しさをただただ描くことだけに専念したのです。

▲風俗画のモデルとなったのは、画家の友人や妻など、身近にいる人々だった。

シャルダンの目を、彼の絵筆を通してわたしたちは、「純粋な美しさ」と向き合うことができます。それがシャルダン作品の最大の魅力のひとつなのでしょう。曇りのない真実の美に出会った時、わたしたちの心が、感情が、どれだけ震えるか。シャルダンがその作品にかけた魔術は、わたしたちに美術作品を愛する原点を思い出させてくれます。

Keyword 3 Silence ―沈黙―

▲2点で一対の作品として描かれた「対作品」も見どころのひとつ。《デッサンの勉強》(写真左/1748-53年 油彩、画布、41×47cm 東京富士美術館蔵)と《良き教育》(写真右/ 1753年頃 油彩、画布、41.5×47.3cm ヒューストン美術館蔵)は、対作品として描かれたが、その後離れ離れとなり、本展で約30年ぶりの再会を果たした。

「シャルダンは何ものをも乱すことのない沈黙を愛した。シャルダンの描く世界は時間の外にある」

 シャルダン研究の世界的な権威で、本展の監修も務めるルーヴル美術館名誉総裁・館長のピエール・ローザンベール(Pierre Rosenberg)氏の言葉です。シャルダンの作品は、使われている色彩にも、描かれている情景にも派手さはみじんもなく、どこまでも寡黙な絵画です。それゆえに作品の前に立つと、ローザンベール氏の言葉の通り、まるで時間が止まった世界に身を置いているような感覚にとらわれます。

 三菱一号館美術館の高橋明也(Akiya Takahashi)館長は、本展についてこう語りました。

▲わずか38点の作品数にかかわらず、その魅力を余すことなく伝える展覧会内容。「絵の前に3分くらいじっくりたたずんで鑑賞してほしい」と、本展担当学芸員の安井裕雄(Hiroo Yasui)氏。

「昨年の3月11日からわたしたち日本人は、根本から物の見方が変わりました。目の前のささいな物が大切に思えてきたのです。本展は、そんな今の気持ちとシンクロするような内容になったと思います」

 おびただしい情報の海の中で、厳しい現実を見せつけられるわたしたち。静けさに満ちたシャルダン作品に向き合った時、自身の中から聞こえてくる心の声に、耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

Update : 2012.10.15
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シャルダン展

  • 会期
    2012年9月8日(土)〜2013年1月6日(日)
  • 会場
    三菱一号館美術館
  • 所在地
    東京都千代田区丸の内2-6-2
  • Tel
    03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • URL
    http://mimt.jp/
  • 展覧会
    http://mimt.jp/chardin/
  • 開館時間
    木曜・金曜・土曜日:10:00-20:00
    火曜・水曜・日曜日・祝日:10:00-18:00
    *入館は閉館の30分前まで
  • 休館日
    月曜日
    *ただし、祝日の場合は開館し、翌火曜日休館、12月25日は開館
    2012年12月29日(土)〜2013年1月1日(火・祝)
  • 観覧料
    一般:1,500円
    高校・大学生:1,000円
    小・中学生:500円

*開催情報は変更となる場合があります。最新の情報は、公式サイト、ハローダイヤルでご確認ください。

MMFよりチケットプレゼントのお知らせ

2012年10月15日以降、銀座MMFにご来館いただいた方先着10名様に「シャルダン展」の無料観覧券を1枚プレゼントします。「MMFウェブサイトを見た」とおっしゃってください。

 

*情報はMMMwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は観光局ホームページ等でご確認いただくか、MMMにご来館の上おたずねください。