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ヴィラ・カヴロワマダムの連載の一部(10館)は書籍でもお楽しみいただけます。バックナンバーを読む
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さて、お次はニスを塗ったクルミ材の引き戸を通って、カヴロワ夫妻の食堂へと参りましょう。壁は灰緑色のスウェーデン産の大理石で、家具のほとんどない、冷たい印象の内装の広い部屋です。黒く着色したナシ材の長い配膳台は復元ですが、建築に完全に溶け込み、マルテル兄弟の彫刻《レルミン》だけが置かれています。そして大きな鏡には光が反射し、庭園の眺めが映し出されています。

対照的に、子どもたちの食堂はシンプルですがとても心地のよい空間です。当時の家具、ゼブラウッドのテーブルと椅子6脚が置かれ、当時と同じように復元された楽しげな壁面装飾はさまざまな遊び(ボーリングのピン、トランプ、ボール、ラケットなど)を連想させます。

配膳室と台所の壁は、近代的な家の衛生観念に基づき、白いセラミックが採用されています。とりわけ明るいこれらの部屋は、手入れもしやすいのです。エナメルをひいた鋼の家具のほとんどが当時のものです。

ホール=サロンをこえて、エントランスホールへと戻り、ポール・カヴロワの簡素な書斎へと参りましょう。壁と家具はニスを塗ったナシ材です。書斎の向かいの扉には金庫が隠されていて、書斎の隣には趣のある喫煙室があります。キューバ産のマホガニーで内装が施された小さな温かみのある部屋で、居心地のよい赤い革張りのベンチが置かれています。

複数ある「若者の部屋」は、全体として統一感があり、当時の雰囲気を宿しています。極彩色の装飾がほかの部屋とコントラストをなしています。角の部屋の天井はエナメルを塗った黒、壁は青と茶色が用いられ、青、赤、茶とさまざまな色の家具がしつらえてあります。浴室にさえ黄色が用いられているのですが、マレ=ステヴァンスはオランダの前衛運動デ・ステイルのアーティストたちへのオマージュとしてこの部屋をデザインしたのです。

2階へ行くには、ジャン・プルーヴェ(1901-1984)が扉を制作したエレベーターもありますが、黒と白の大理石でできた素晴らしい大階段を上ってゆきましょう。そして途中で少し足を止め、大窓からの眺めもお楽しみになってください。

右手は夫妻のための翼です。60uある贅沢で明るいバスルームには、巨大なシャワー、バスタブ、夫妻それぞれの洗面台が設置されています。この快適なバスルームはこの家の象徴でもあります。なぜなら、スポーツと衛生を重視していることの反映だからです。夫妻の寝室はとりわけ洗練されていて、白のカーペット、ベージュの壁に、当時の家具が置かれています。その延長部分には、ルシー夫人のための魅力的なブドワール(私室)があり、シカモア材の明るい色の幾何学的な形態の家具と緑のビロードの肘掛け椅子がマリンブルーのカーペットに置かれており、極めてモダンな空間になっています。踊り場の反対側は子どもたちの翼。浴室がふたつと大きなテラスに面した寝室が3つ、それぞれの部屋に固有の色があります。いずれも修復されていますが、角の一室だけは邸宅の修復前の状態の記録としてそのままの状態になっています。

3階の子どもたちの寝室の上には、巨大な遊戯室があり、一段高くなった部分は舞台として使えるようになっていました。

アメリカのフランク・ロイド・ライト、ドイツのバウハウス、オランダのデ・ステイルと同様に、フランスのル・コルビュジエとマレ=ステヴァンスは近代建築に革命を起こしました。そして、このカヴロワ邸はおそらくマレ=ステヴァンスの作品の中でももっとも完成度の高い作品で、彼の芸術のすべてがここに展開されていると言っても過言ではないでしょう。光に満ちた明るく風通しのよい環境で、当時としては並外れた快適さを求めた居住者の新しいライフスタイルを尊重しながらも、マレ=ステヴァンスは簡素な量感、厳密に幾何学的な形態、空間の機能性を追求したのです。

友情を込めて。

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Update : 2017.6.1

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