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ジャン・コクトーの家 Maison Jean Cocteau, Jean Cocteauマダムの連載の一部(10館)が本になりました。 バックナンバーを読む
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▲ジャン・コクトーの家と庭
©Anne de Montalembert
親愛なる日本の皆さまへ

ジャン・コクトーの家は、パリの南50kmほど、フォンテーヌブローの森の外れの小さな町ミリー=ラ=フォレにあります。ミリー=ラ=フォレといえば、中世の昔から薬草の産地として知られた町。今でも、チャービル、アサツキ、タイムといった料理用のハーブが有用植物栽培園で栽培されており、毎年6月はじめには、ハーブ専門のマルシェ(市)が立ちます。このマルシェが開かれるのは、なんと1479年に造られたという素晴らしい市場。建物はコナラとクリの木造建築で、地面まで届くような大きな屋根が48もの柱で支えられています。


▲ミリー=ラ=フォレの市場
©Anne de Montalembert

ジャン・コクトー(1889-1963)は、1947年、この町に家を買い、亡くなるまでの17年間を過ごしました。詩人コクトーは、ピカソ(1881-1973)やモディリアーニ(1884-1920)、藤田嗣治(1886-1968)、ダリウス・ミヨー(1892-1974)、ストラヴィンスキー(1882-1971)など、20世紀芸術に名を残す面々と交流し、絵画、演劇、映画などさまざまな分野で活躍した、多彩な芸術家でした。


▲猫を抱くジャン・コクトー
"Cocteau et son chat" ©DR. Maison Jean Cocteau à Milly-la-Forêt.

▲ふたつの小塔のあるコクトーの家
©Anne de Montalembert

8歳で父親を亡くしたコクトーは、母親、そして芸術をこよなく愛する美術収集家でもあった母方の祖父に育てられました。最初の詩集『アラジンのランプ』(1909年)を出版したのは、20歳のときのこと。当時のコクトーは正真正銘のダンディで、パリの社交界でも話題の人物でした。バレエ・リュス(ロシア・バレエ団)に魅了されたコクトーは、座長のディアギレフ(1872-1929)に出会い、エリック・サティ(1866-1925)が音楽を、ピカソが舞台美術を担当したバレエ『パレード』(1917年)にも協力します。詩、小説、戯曲を制作した1920年代は、コクトーにとって実り多い時代であると同時に、激動の時代でもありました。
恋人であった作家レイモン・ラディゲ(1903-1923)の死に絶望したコクトーは、多くの仕事をこなし、アヘンに溺れることで、その悲しみを紛らわせたのです。そしてラティゲの死から6年の歳月を経た1929年、コクトーはアヘン中毒の治療を決意し、その解毒治療の最中のわずか17日間で、後に映画化される『恐るべき子供たち』を書き上げます。コクトーに衝撃を与えた美しいクラスメートとの出会いが小説のテーマとなっています。


▲コクトーの家と庭
©Anne de Montalembert

1930年にはシュルレアリスムの短編映画『詩人の血』を制作し、スキャンダルを巻き起こします。その後数年は世界旅行に出かけ、チャールズ・チャップリン(1889-1977)と出会います。そして1946年までに、『恐るべき親たち』(1938年)や『双頭の鷲』(1946年)をはじめとする数多くの戯曲を書きます。『美女と野獣』(1946年)は、映画でも大成功を収めました。この映画にはコクトーの夢幻境への憧憬が表れています。1950年代には、彼の後援者となるフランシーヌ・ウェスウェレルに出会います。コクトーは彼女のサン=ジャン=キャップ=フェラの素晴らしいヴィラにバカンスに招かれ、壁を見事なフレスコ画で装飾します。ここは最近見学できるようになりました。映画界でも有名になったコクトーは、カンヌ映画祭の審査委員長を3度務めました。 1955年には、アカデミー・フランセーズの会員に選出されるという最高の栄誉に浴することになります。そして、1963年10月、友人の歌手エディット・ピアフ(1915-1963)の死を知った後、ミリー=ラ=フォレで心臓発作で亡くなりました。


▲塔とお堀
©Anne de Montalembert

コクトーが1947年、恋人で俳優のジャン・マレー(1913-1998)とともにミリー=ラ=フォレに居を定めたのは、パリの喧噪と社交生活から距離を置くためでした。その後、新しいパートナーのエドゥアール・デルミ(1925-1995)とも頻繁にここに逃げ込んでいます。コクトーが亡くなると、デルミはこの家のいくつかの部屋(居間、寝室、書斎)をはじめ、コクトーがデルミに遺した500点の美しい作品群を保存します。


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