グラン・パレとグラン・パレ・ナショナルギャラリー
グラン・パレ・ナショナル・ギャラリー(GPNG) GPNG担当部長インタビュー グラン・パレについて
グラン・パレについて
1900年万博のために建設工事が行われるグラン・パレ
© Photo RMN / Thierry Le Mage /
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19世紀を通じて定期的に万博を開催したパリには、万博の際に作られた建造物が現在もいくつか残っている。グラン・パレもその一つで、1900年の万博の際に建設された。
 1855年以来、ほぼ10年おきに万博を開催してきたパリでは、1900年という世紀の変わり目の年、19世紀を総括するにふさわしい大規模な博覧会を開くことを決定した。そのため、これまで主会場となっていたシャン・ド・マルス〜トロカデロ地区に加え、アンヴァリッド〜シャンゼリゼを新たな会場として整備し、オルセー駅(今日では美術館に姿を変えている)、アレクサンドル3世橋、そしてグラン・パレとプチ・パレを新設した。いずれも19世紀の終わりを飾るにふさわしい壮麗な建造物だ。

万博の際に作られた建造物といえば、水晶宮(1851年ロンドン万博)やエッフェル塔(1889年パリ万博)など、鉄やガラスという新素材を用いたものが有名だ。万博とは何よりもまず新たなテクノロジーを見せる場であり、その意味で、新しい建築資材に挑戦したこれらの建造物は万博を飾るにふさわしい。
グラン・パレ入口の柱頭彫刻
© Photo RMN / R.G.Ojéda
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それに対し、イオニア式の列柱に彫刻をあしらった古典的石造建築グラン・パレは、万博建築としてはあまり面白みがないように感じられるかもしれない。それは、実際のところ、両者の建設目的の違いによるようだ。もともと万博のための仮設物として作られた水晶宮やエッフェル塔に対し、グラン・パレは万博後も美術作品展示施設として使用されることがあらかじめ想定されていた。そのため、人々を驚かせる新奇なものよりも、誰にでも納得のいく格調高い建築が望まれたのだった。

しかし、だからといって、単なる正統派古典建築には終始しない。グラン・パレにもエッフェル塔と同じ、時代の刻印が押されている。それは、鉄骨とガラス張りの丸い屋根だ。建物全体としては古典的でありながら、この一点に凝縮して、鉄とガラスという時代の風味が加えられている。エッフェル塔同様、周囲の景観を損ねると問題になったそうだが、現在ではこのガラス張りの丸い屋根こそグラン・パレの独自性となっている。

正面部にはいくつもの彫刻がある。正面入り口の大理石彫刻は、向かって右手が「技の実現」、左手が「美への感動」と題されており、グラン・パレが作品と観客との出会いの場であることを表している。二重円柱の間におかれた4体の立像は、それぞれ「建築」「絵画」「彫刻」「音楽」の四大芸術を表している。入り口門の上方に「フランス芸術の栄光のために共和国政府はこの記念宮殿を建てた」と書いてあるとおり、グラン・パレはまさにフランス芸術にささげられた神殿というにふさわしい。

さて、当時の万博の観客になったつもりで、3年がかりで完成したグラン・パレの中を観覧してみよう。グラン・パレではフランス美術の100年(1800-1889)を回顧する美術展が開催され、29の展示室に3000点を越す作品が展示されていた。考えただけで気が遠くなりそうな数である。プルードン、ダヴィッド、グロ、ジェリコーに始まり、アングル、ドラクロワ、そして、クールベ、コロー、ミレーへ。私たちに馴染み深い画家から現代では忘れられてしまった画家まで、大量の作品が時代や傾向ごとに並べられ、まさにフランス美術史を概観する一大絵巻が展開されていた。印象派も正式にフランス美術史の一部と認められ、モネ、ルノワール、ドガ、シスレー、セザンヌらの作品が一室にまとめて展示された。1889年の万博で既に大成功を収めていたエミール・ガレの作品は、この年の万博でもステンドグラス・家具部門でグランプリを受賞した。
サロン出展のためにグラン・パレに絵画を持ち込む人々
© Photo RMN / Arnaudet / distributed by DNPAC
「産業」の博覧会であった万博に「美術」を付け加えたのはフランスだが、美術はまさにフランスにとって重要な一大産業であったともいえる。威風堂々としたグラン・パレで壮大なるフランス美術の歴史を概観し、他国に対してその圧倒的な豊かさと優位性を見せつけたのである。

万博終了後、グラン・パレは、フランス芸術家協会のサロンや独立派美術協会の定期展覧会(アンデパンダン展)をはじめ、数々の展覧会を受け入れた。なかでも1905年のサロン・ドートンヌは特筆すべきだろう。ここに展示されたマチスらの強烈な色彩と激しいタッチを見て、批評家が「野獣(フォーヴ)の檻の中にいるようだ」と評したことから、彼らは「野獣派(フォーヴィスム)」と呼ばれることになる。グラン・パレは野獣派誕生の目撃者ともなった。

今日でもグラン・パレでは毎年のように大規模な美術展が開催され、数多くの人々が訪れる。美術作品を見るという行為は当時も今もそれほど変わってはいない。「芸術の国フランス」の地位を守ろうとする姿勢も連綿と受け継がれている。グラン・パレの賑わいのなかで、20世紀初頭の、真新しいグラン・パレの喧騒に思いを馳せてみるのもいいかも知れない。

文・阿部明日香

筆者プロフィール:
東京大学およびパリ第一(パンテオン・ソルボンヌ)大学博士課程。専門はフランス近代美術、特にその「受容」について研究中。
所在地
3, avenue du Général Eisenhower 75008 Paris
URL
http://www.grandpalais.fr/
開館時間
10:00-20:00、
水曜日のみ10:00-22:00
(受付は閉館時間の40分前)
※図書室…展覧会期間中10:00-19:15、水曜日は10:00-21:15
休館日
火曜日、1月1日、12月25日
入場料
・事前予約のある方
  一般:11.3ユーロ
  割引:9.3ユーロ(13−25歳)
・事前予約のない方
  一般:10ユーロ
  割引:8ユーロ(13−25歳)
 ※13歳未満は無料
事前予約による優先入場について
鑑賞の48時間以上前に予約すると、予約なしの場合よりも、少ない待ち時間で入場することができます。

オンライン予約が可能なサイト(人数制限で売切れとなる場合もございます):RMNFNAC(英語への切り替え:画面右上のイギリス国旗のアイコンを選択 )

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万が一チケットがご予約出来なかった場合、開館直後もしくは夕方以降の時間帯は会場が比較的空いています。

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グラン・パレ・ナショナル・ギャラリーの展覧会カタログ
MMFインフォメーションセンターでは、グラン・パレ・ナショナル・ギャラリーで行なわれた1997年以来の主な展覧会のカタログが閲覧可能です。
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<展覧会情報>
2011年1/24まで開催中のモネの回顧展「クロード・モネ(1840-1926)」の図録をインフォメーション・センターでご覧いただけます!
数字で見るグラン・パレ・ナショナル・ギャラリー
○開催された展覧会の数
 245回
 ※近年では年4回のペースで開催。
○開館以来の来館者総数
 3,700万人
○年間平均来館者数
 約100万人
○年10ヶ月開館