『アルベルト・ジャコメッティのアトリエ』 南仏コート・ダジュールのミュゼレポート
  ロダン以後の彫刻の歴史に大きな足跡を残したアルベルト・ジャコメッティのかつてないほどの大規模な回顧展が、今秋よりポンピドー・センターで開催され、フランス国内外で話題になっています。6年前に行われた生誕100年展をはじめ、ジャコメッティの回顧展は世界の都市で度々開催されてきましたが、600点を超える出品作のほとんどが、パリのアルベルト&アネット・ジャコメッティ財団所蔵の未発表作品で構成された今回の展覧会は、まさに初めての試みです。さらに、石膏像を始めとする希少な作品が数多く出品されていることも、本展覧会が注目を集めている理由のひとつといえるでしょう。ジャコメッティの息遣いまでもが伝わってくるかのような特別展のレポートをいち早くお伝えします。
©Yoshiko OKAMURA  
パリに生きた ジャコメッティ ジャコメッティの アトリエから ジャコメッティが こだわった世界観
“パリのスイス人―” 約45年間をパリで過ごした異邦人
 アルベルト・ジャコメッティ(Alberto Giacometti)は、スイスの後期印象主義の画家ジョヴァンニ・ジャコメッティ(Giovanni Giacometti)の長男として1901年、スイスのイタリア語圏の小さな村に生まれました。今日、母国スイスでは、肖像写真と代表作《歩く男》が印刷された紙幣が流通し、国民的な芸術家としてその名が広く知られていますが、ジャコメッティは人生の大半をパリのモンパルナス界隈で過ごしました。それは、20歳のときにアカデミー・ドゥ・ラ・グランド・ショミエールのアントワーヌ・ブールデル(Antoine Bourdelle)のもとで彫刻を学ぶべくパリへ来てから、人生を終えるまでの約45年間という、長きにわたるものでした。彼はそのパリで、戦前はキュビスムに影響を受けた彫刻作品を制作し、その後、シュルレアリスム運動に参加するようになってからは、数々のオブジェに取り組み始めます。1935年以降になると、モデルを前にして「見えるものを見える通りに」表すため、彫刻と絵画の制作に励みました。
 
多くの哲学者や文学者を魅了した ジャコメッティの芸術
 ジャコメッティは、芸術家のみならず数多くの哲学者や文学者との深い親交があったことでも知られています。そのなかには、アンドレ・ブルトン(André Breton)をはじめとするシュルレアリストや、一般にジャコメッティ・スタイルと呼ばれている戦後の細長い彫刻や絵画について最初に論じた作家・哲学者のジャン=ポール・サルトル(Jean-Paul Sartre)、そのパートナーだったシモーヌ・ド・ボーヴォワール(Simone de Beauvoir)、代表作『ゴドーを待ちながら』で舞台美術をジャコメッティに依頼したサミュエル・ベケット(Samuel Beckett)など、枚挙にいとまがありません。また数少ない親密なモデルであった哲学者の矢内原伊作(Isaku Yahaihara)や、フランス文学者、宇佐見英治(Eiji Usami)との篤い友情は日本のみならず世界的にも有名です。さらに現在においても、ジャコメッティ研究の第一人者には、イヴ・ボヌフォワ(Yves Bonnefoy)をはじめとする文学者が含まれています。
 ところで、あまたの友人の中でも小説家ジャン・ジュネ(Jean Genet)との親交は特別なものであったようです。ジュネは、たとえジャコメッティが制作中であっても、自由にアトリエに入室が許されていた、ただ一人の人でした。そのジュネが1957年に発表したエッセイ『アルベルト・ジャコメッティのアトリエ』こそ、本展覧会のいわば礎になっています。
パリに生きた ジャコメッティ ジャコメッティの アトリエから ジャコメッティが こだわった世界観
 
文:岡村嘉子(Yoshiko OKAMURA)
筆者プロフィール:
千葉大学大学院修士課程芸術学専攻修了。メゾン・デ・ミュゼ・ド・フランススタッフ。美術史家。専門はアルベルト・ジャコメッティ。
 
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ポンピドー・センター
所在地
 
75191 Paris Cedex 04
Tel
 
+33(0)1 44 78 12 33
URL
 
http://www.cnac-gp.fr/
開館時間
 
11:00-22:00
美術館および展示室:11:00-21:00
(カウンターは20:00まで)
休館日
 
火曜日、5月1日
入館料
 
受付、カウンター、および当日プログラムにて案内。美術館は18歳未満および毎月第一日曜日は無料。
アクセス
 
メトロ ランビュトー(Rambuteau)、オテル・ドゥ・ヴィル(Hotel de Ville)、シャトレ・レ・アル(Châtelet-les Halles)各駅下車。
入館料
 
「アルベルト・ジャコメッティのアトリエ」
2007.10.17-2008.2.11 10€
MMFで出会えるジャコメッティ
MMFインフォメーション・センターでは、今回ご紹介した展覧会「アルベルト・ジャコメッティのアトリエ」展のカタログをはじめ、ジャコメッティに関する書籍や図版を閲覧いただけます。
 

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