展覧会場に入ると、まずわたしたちが目にするのは、9つの大スクリーンに分けて上映されている『木を植えた男』。弧を描く展示室では、たくさんの人々がその美しい映像にくぎ付けになっています。このスペースを抜けると、いよいよバックの人生の旅の始まりです。まずは展覧会前半、フランス時代からカナダに渡ってイラストレーションの仕事に携わるまでの前半生を駆け足で見ていきましょう。
バックはその人生のうちで、幾つもの転機を経験しています。そして最初の転機といえるのが、1941年、美術学校でのマチュラン・メウ(Mathurin Méheut/1882-1958)との出会いでした。絵を描くことが大好きだったフレデリック坊やは、17歳の立派な青年に成長していました。当時は第二次世界大戦の真っただ中。バックも家族とともにパリからブルターニュに疎開していました。
しかし暗い時代にあって、このメウとの出会いは、バックの将来を明るく照らす一条の光となったのです。
「日々姿を変えていく世界をよく観察し、すべてのものを描きとめ、記録しなさい」
師のこの言葉に忠実に従い、バックはブルターニュの自然や風土、そこで働く職人の姿など生きとし生けるものをひたすら描き続けていました。
展覧会では、メウのもとで学んだ学生時代の課題から、塩田などのブルターニュ独特の風景、造船所で働く人々の姿などを描いた十代の頃からの作品を見ることができます。それらの作品からは、まるで点景のように描かれた人でさえも、強い意思を持っているように感じられます。バックの人間に対する温かいまなざしは、すでにこの頃から培われていたのです。
第二次世界大戦が終焉に向かおうとしていた頃、バックは師メウの紹介で本の挿絵を描く仕事を始めました。子どもの頃から大好きだった絵を仕事にするというひとつの夢をかなえたバック。しかし彼の心には、またひとつ新しい夢が生まれていました。雄大な自然に抱かれたカナダという土地で、新しい芸術の道を拓きたい――。そんな思いにとらわれたバックは、1948年24歳で、絵を入れた鞄と自転車だけを持ち、単身カナダへと旅立ちます。
実はカナダには文通を通して知り合ったギレーヌ・パカン(Ghylaine Paquin)というひとりの女性が住んでいました。バックのカナダへの思いは、小学校の先生をしていたギレーヌとの手紙のやりとりで、よりいっそう膨らんでいったのです。そしてカナダに渡ったバックは、なんと出会って3日後にギレーヌにプロポーズ。こうしてバックのカナダでの暮らしは始まりました。
結婚して4年後、再びバックに転機が訪れます。1952年、ラジオ・カナダの社員募集に応募した彼は、レタリング担当者として採用されることになりました。当時レタリングは、文字だけで描かれるのが常でしたが、バックはそこに絵を添えてみたのです。するとそれが評判となり、大きな仕事が次々と舞い込むようになりました。これらは、未来のアニメーション作品へと通じる「動くイラスト」の仕事の第一歩でした。
© Societe Radio-Canada
In partnership with the Atelier Frederic Back, Montreal.
- 会期
2011年7月2日(土)〜10月2日(日) - 会場
東京都現代美術館 企画展示室1F、3F - 所在地
東京都江東区三好4-1-1 - Tel
03-5777-8600(ハローダイヤル) - URL
美術館
http://www.mot-art-museum.jp/
展覧会
http://www.ntv.co.jp/fredericback/ - 開館時間
10:00-18:00
*入場は閉館の30分前まで - 休館日
月曜日
*ただし9月19日・26日は開館 - 観覧料
一般、大学生:1,200円
中高生:900円
小学生:600円
小学生未満:無料
ワークショップ
「ファミリー・トーテム・ポール
〜自分たちだけのトーテム・ポールをつくろう!」
バックが暮らすカナダには、先住民族の人々が紡いできた文化がいまだ残っている地域があります。そのひとつがトーテム・ポール。彼らは身近に生きる動物や神話の中の精霊などをシンボル化し、「トーテム(紋章)」としてネイティブアートとして刻んできました。そんな彼らの伝統にならい、わたしたちも紙コップに大切な家族や友人、大好きな動物の絵を描いて、自分たちだけのトーテム・ポールを作ってみませんか? このコーナーは写真撮影が可能! 大人から子どもまで楽しめるワークショップです。
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