今回の展覧会は、ル・シダネルの作品70点が集う、日本で初の回顧展です。「『この展覧会で初めてル・シダネルを知りましたが、静謐さと温かさを併せ持つ独特の世界観にすっかり魅了されました』とお話しくださる方がとても多いんですよ」と語るのは本展の担当学芸員、吉岡知子(よしおかともこ)さん。吉岡さんに本展で人気を集める作品をご紹介いただきながら、ル・シダネルの魅力を探ってみましょう。
パリの南西、ロワール地方にある小さな町、モントルイユ=ベレーで描かれたとても美しい作品です。静かな川面に浮かぶ一隻の舟とベールを被った女性を、朝の柔らかな光が優しく包み込んでいます。この作品を描いた頃、ル・シダネルはエタプルを離れ、再びパリにアトリエを構えていました。この頃パリ画壇では、人間の内面や夢の世界を象徴的に表現しようとする「象徴主義」の流れが起こっていました。一見、目に見える風景を描きとめたかのようなこの作品も、象徴主義特有の幻想的な雰囲気に満ちた1枚です。それまでのル・シダネルは、パリで描いた作品の多くを自らの手で破棄していましたが、この頃から多くの作品が残されるようになります。ようやく納得のいく作品が描けるようになったからかもしれません。女性はどこに向かうのか? 何を考えているのか?
画面を見ているとついそんなことを夢想してしまう、イマジネーションを掻きたてられる作品です。
この作品の前にはソファを置いてあるのですが、まるで絵と対話するかのように、ソファに座りながら長い間、鑑賞されている方が多くいらっしゃいます。ジェルブロワの住まいに画家自らが建てた離れ屋を描いた作品です。月光に浮かび上がる薔薇に覆われた簡素な離れ屋。人影は見当たりませんが、離れ屋の窓から漏れる明かりが、人の気配を感じさせます。人の温かさ、月夜の光、薔薇の花と、ル・シダネル作品の重要な要素、そして魅力のすべてが詰まった作品といえるでしょう。そんなところも大きな魅力のひとつだと思います。決して明るい絵ではないけれど、幸せな気持ちにしてくれる、そんな心和む1枚です。
ジェルブロワ時代には「食卓」をモティーフにした作品が多く描かれました。この作品もその中の1枚です。テーブルの上には瑞々しい果物と白ワイン。右側の椅子には白いショールが掛けられ、手折られた薔薇がひそやかに置かれています。女性がいたのでしょうか? それともこれから誰かが来るのでしょうか? この1枚もまたさまざまなイマジネーションをふくらますことのできる作品です。カンヴァスに人物は描かれていないのに、人の気配を濃厚に感じさせる食卓シリーズは、とても人気の高い作品群です。作品の中に人々の笑顔と美しい薔薇に囲まれたル・シダネルの穏やかな暮らしを想像させるからなのかもしれません。
[FIN]
- 会期
2011年11月12日(土) 〜
2012年2月5日(日) - 会場
埼玉県立近代美術館 - 所在地
埼玉県さいたま市浦和区常盤9-30-1 - Tel
048-824-0111 - URL
http://www.momas.jp/ - 開館時間
10:00-17:30
*入館は閉館の30分前まで - 休館日
月曜日、
12月27日(火)〜1月6日(金)
*ただし1月9日(月・祝)は開館 - 観覧料
一般:1,100円
高校・大学生:880円
中学生以下と65歳以上:無料
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