薔薇と月夜を愛した画家 アンリ・ル・シダネル展 Henri Le Sidaner

皆さんはアンリ・ル・シダネル(Henri Le Sidaner/1862-1939)という画家をご存じですか?
日本ではなじみが薄いですが、ル・シダネルは20世紀初頭に活躍したフランス人画家で、「遅れてきた印象派」といわれています。彼の描き出す独特の静けさと温もりをたたえた作品は、多くの人々の心を震わせる魅力に満ちています。
新年の特集は、埼玉県立近代美術館で開催中の「アンリ・ル・シダネル展」(会期:2月5日まで)をご紹介します。寒風に身を震わせるこの時期、心に小さな明かりがともるような、ル・シダネルの世界に触れに、是非美術館を訪れてみてください。

アンリ・ル・シダネルってどんな画家?

19世紀末から20世紀初頭というフランス画壇が大きく変化する時代を生きたル・シダネル。彼の印象的な言葉とともに、その前半生をたどります。

“楽園”で過ごした幸せな子ども時代

「私の子ども時代の心は、依然としてモーリシャス島にある。モーリシャス島の川、山の輪郭、空は、私にとって魅力に溢れた思い出なのである」

「アンリ・ル・シダネル」展(2011-2012)図録より(以下すべて同様)

▲展覧会場には、ル・シダネルの略年譜が写真入りで展示されている

 ル・シダネルが生まれたのは、インド洋に浮かぶイギリス領のモーリシャス島でした。両親はともにフランス北西部、ブルターニュのサン=マロ生まれでしたが、ル・シダネルが誕生する2年前、モーリシャス島*に移住します。この島でル・シダネルは入植者の子として快適な生活を享受して育ちます。ピアノが得意だった母は、家を訪れる客人を温かい雰囲気でもてなしました。そしてフランス遠洋航路船の船長だった父は、粘土細工や素描に親しんだ人物で、幼いル・シダネルもその姿を見て育ったのでしょう。彼がモーリシャス島で暮らしたのは10歳まででしたが、島での幸福な生活は、生涯を通じて消えることがありませんでした。ル・シダネルの作品に溢れる温かな雰囲気は、こうした子ども時代の記憶に強く結びついているのかもしれません。


*モーリシャスについて
外務省ホームページ:モーリシャス共和国
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/mauritius/
モーリシャス観光局

パリでの修業時代

「パリでは檻に入れられているようなものだった。私は自分が、鼻面を壁の隅にこすりつけている閉じ込められたライオンのように思えた」

▲展覧会場では、ル・シダネルの生涯を追った映像も見られる。このフィルムはル・シダネル存命中に撮影されたものを曾孫で美術史家のヤン・ファリノー=ル・シダネル(Yann Farinaux-Le Sidaner)自身が編集した貴重なもの

 10歳で家族とともにフランスのダンケルクに戻ったル・シダネルは、この地で中学校、そしてデッサンのための公立高等専門学校へ進みます。そして1880年の秋、18歳になった彼は本格的に絵を勉強するため、パリへ向かいました。19世紀末のパリは、絵画の伝統を守る「アカデミスム」と、「印象主義」や「象徴主義」などの新たな美の潮流が激しくぶつかり合う刺激的な街でした。初めて過ごす都会の日々に心躍らせながら、ル・シダネルはアカデミスムの重鎮カバネル(Alexandre Cabanel/1823-1889)のアトリエの門を叩きます。しかし“大先生”カバネルは週に一度だけアトリエに姿を見せると、声高に作品を手直しするだけ。師からは何も得るものがないと判断したル・シダネルは、数シーズンをカバネルのアトリエで過ごした後、合格した国立美術学校を離れ、パリを去ります。とはいえ、ル・シダネルにとって、新旧の美が混在するこの時代のパリで過ごした数年間は、決して無駄にはなりませんでした。モネ(Claude Monet/1840-1926)やルノワール(Pierre-Auguste Renoir/1841-1919)、ピサロ(Camille Pissarro/1830-1903)といった印象主義の先輩画家たちとの出会いが、ル・シダネルの未来の道を照らす一条の光となったのです。

Update : 2012.1.1
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薔薇と月夜を愛した画家 アンリ・ル・シダネル展 Henri Le Sidaner

  • 会期
    2011年11月12日(土) 〜
    2012年2月5日(日)
  • 会場
    埼玉県立近代美術館
  • 所在地
    埼玉県さいたま市浦和区常盤9-30-1
  • Tel
    048-824-0111
  • URL
    http://www.momas.jp/
  • 開館時間
    10:00-17:30
    *入館は閉館の30分前まで
  • 休館日
    月曜日、
    12月27日(火)〜1月6日(金)
    *ただし1月9日(月・祝)は開館
  • 観覧料
    一般:1,100円
    高校・大学生:880円
    中学生以下と65歳以上:無料
 

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