2011年6月25日、世界初のボナール美術館が南仏、ル・カネ(Le Cannet)にオープンしました。映画祭で有名なカンヌ(Cannes)からほど近いこの地は、モネ(Claude Monet/1840-1926)のジヴェルニー、セザンヌ(Paul Cézanne/1839-1906)のエクス、マティス(Henri Matisse/1869-1954)のニースと同様、ナビ派を代表する画家ボナール(Pierre Bonnard/1867-1947)にとって特別な場所です。今月は、そのオープンを長い間、待ち望まれていたボナール美術館をご紹介いたします。
官吏の息子が歩いた芸術家への道
南仏は19世紀末からシニャック(Paul Signac/1863-1935)、ルノワール(Auguste Renoir/1841-1919)、マティスなど多くの芸術家を惹き付けてきました。旅を愛し、ヨーロッパのみならず北アフリカや北米にまで旅したボナールが、その終焉の地として選んだのもまた南仏でした。
パリ郊外で官吏の息子として育ったボナールは、大学で法律を専攻し弁護士資格を得ますが、同時に美術学校で絵画を学び始めると、芸術の世界に情熱を注ぐようになります。そして若い画家たちのグループ「ナビ派」に参加、1891年「フランス・シャンパーニュ」のポスターデザインで成功したのをきっかけに、プロの画家となる道を選択します。
以降、絵画のみならず舞台装置のデザインや挿絵、写真、装飾美術など、幅広い分野に挑戦、成果を上げました。しかしその後、フォーヴィスムやキュビスムなど同時代の新しい美術の動向からは距離を置き、むしろ印象派を受け継ぐような、光と色彩溢れる独特の世界を開花させることになります。その舞台となったのがル・カネでした。
色彩画家としての才能を
開花させた理想郷ル・カネ
あちこちと旅をするボナールはフランス北部のノルマンディーやアルカションといった土地にも惹かれていました。その一方で、1922年頃からル・カネを頻繁に訪れるようになります。だいだい色の屋根の向こう側に開ける地中海。ヤシや松といった木立の間にのぞく海と空、そして光――。ル・カネには画家をそこに長く逗留させてやまない魅力がありました。1926年2月、58歳のボナールは地元の庭師から質素な山小屋風の家を買い取ります。
すでに有名画家であった当時の経済状況からすれば、カンヌの海岸沿いに立派な邸宅を買えたはずですが、彼はむしろ海から少し離れた静かな環境と庭、とくに段々に続く瓦屋根の波を前景として広がるパノラマを気に入ったようです。ボナールはこの自宅兼アトリエを、地区名からとって「ル・ボスケ(木立)荘」と名付けました。翌年に引っ越してくる際、妻マルトの強い希望で、バスタブのある浴室をしつらえます。そして、ここで多くの裸婦シリーズが生まれました。
若い頃から実験精神に溢れ、常に新しい美術の可能性を探ってきたボナールですが、この理想郷に至って画家の関心はひとつの方向に集約していきます。自然から得たイメージを独特のスタイルで形象化し始めるのです。いわゆる「ル・カネ時代(1922-1947年)」はボナールの色彩画家としての才能が十二分に開花した時期で、約300点(風景画103点、室内153点、庭24点)の作品が制作されました。その大部分がル・ボスケ荘とその周辺で描かれています。
- 所在地
16 boulevard Sadi Carnot 06110 Le Cannet - Tel
+33(0) 4 93 94 06 06 - URL
http://www.museebonnard.fr/ - 開館時間
10月中旬〜4月中旬:10:00-18:00
4月中旬〜10月中旬:10:00-20:00
毎週木曜日は21:00まで - 休館日
月曜日、1月1日、5月1日、11月1日、
12月25日 - 入館料
<コレクション展示期間>
一般:5ユーロ
割引料金:3.5ユーロ
<企画展>
一般:7ユーロ
割引料金:5ユーロ
※ボナール美術館は、1年のうち数カ月を「企画展」、それ以外の期間を「コレクション展示期間」として所蔵作品を展示しています。 - アクセス
パリのLyon駅からCannes駅までTGVで約5〜6時間。空路ならパリのシャルル=ド=ゴール(Charles-de-Gaulle)空港、またはオルリー(Orly)空港からニース(Nice Côte d’Azur)空港まで約1時間半。ニース空港からカンヌ市内まで約25km、車で約30〜40分。Cannes駅から1番系統バスでMairie du Cannet下車(所要時間約20分)。タクシーでは駅前から約10分。
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