Dossier special - 海外の特集

  • 1.展示空間紹介
  • 2.マルチメディア、工芸品部門長学芸員ジャニック・デュラン氏からのメッセージ
  • 3.作品紹介

ルーヴル美術館 工芸品部門 18世紀の33の展示室がリニューアルオープンしたルーヴル美術館へ

〈ポンパドゥール夫人の香炉壺〉エヴルー邸(現大統領官邸のエリゼ宮)由来セーヴル王立磁器製作所、1760-61年制作

©Musée du Louvre, dist. RMN-GP / Thierry Ollivier

1750年代にポンパドゥール夫人の庇護の下開業したセーヴル王立磁器製作所。その18世紀のセーヴルを象徴する淡いピンク色で彩色されたこの壺は舟の形をしています。舟の帆に当たる部分には穴があいていて、中に入れたポプリを炊いた香りを楽しむための品です。飾り枠に描かれているのは碁を打つ中国人風の男たち。中国趣味、シノワズリは18世紀、特にルイ15世の時代に大変流行しました。ルイ15世が愛妾ポンパドゥール夫人に買い与えたパリのエヴルー邸で使われていたものですが、その館は現在の大統領官邸(エリゼ宮)になっています。

〈マイィー夫人の青の寝室の箪笥〉ショワズィー城由来マチュー・クリエール(指物職人)、1742年制作

©Musée du Louvre, dist. RMN-GP / Thierry
Ollivier

優美な青と白の2色使いが印象的なこの家具は、ルイ15世様式、いわゆるロカイユ様式を代表する作品です。ショワズィー城は王室が狩猟をする際に使っていた城ですが、ルイ15世の愛妾、マイィー夫人やポンパドゥール夫人の住居としても使われていました。王のお気に入りのこの城のために当世の一級の職人たちが集められ、ヴェルサイユ宮殿をしのぐほどの近代的で豪華な装飾が施されていました。この箪笥は東洋趣味の愛妾マイィー夫人のため、ルイ15世が中国の青磁をイメージして作らせたものです。表面をおおう色彩はマルタン・ニス(Vernis Martin)といって、日本や中国の漆器を真似るためマルタン兄弟が開発したものです(ここでは青と白だが、通常は漆のような黒が多い)。

〈マダム・ヴィクトワールの箪笥〉ムードンのベルヴュ城由来マルタン・カルラン(指物職人)、1785年頃制作

©2012 Musée du Louvre, dist. RMN-GP / Thierry Ollivier

マダム・ヴィクトワール(Marie-Louise-Thérèse-Victoire de France/1733-1799)はルイ15世の四女、ヴェルサイユ生まれの生粋のフランス王女でした。ルイ15世の王女たちは、メダム(Mesdames、「マダム」の複数形)と呼ばれ、王の愛妾たちやマリー=アントワネットとともに、宮廷の流行の最先端を行くご婦人たちでした。ヴェルサイユにも近いムードンにあるベルヴュ城は元々ルイ15世の愛妾、ポンパドゥール夫人のために建てられましたが、王の死後、結婚せずに宮廷に残っていた3人のメダムが城の当主となります。洗練されたメダムの趣味が十分に発揮された豪奢な装飾 は、今回リニューアル・オープンされた、ベルヴュ城の一室を再現した展示室や、マルチメディア・ディスプレイでうかがい知ることができます。
この箪笥はルイ16世様式時代の一級の指物職人の一人、マルタン・カルラン(Martin Carlin/1730頃-1785)の作品です。直線的な線や植物の垂れ飾り(リース)は新古典主義様式に典型的です。印象的な黒で全体が塗られていますが、これは表面に貼られている日本の漆のパネルを引き立たせるためなのです。

〈サン・クルー城のマリー=アントワネットの書物机〉アダム・ヴァイスヴァイラー(指物職人)、1784年

©2014 Musée du Louvre, dist. RMN-GP / Thierry Ollivier

1870年に普仏戦争の際に焼失してしまった、パリ郊外のサン・クルー城のマリー=アントワネットの調度品のひとつ。当時の宮廷では、各地の領地を回って生活するという習慣がありました。そのため、フランス中の王家の城、また、王侯貴族の邸宅には必ず国王夫妻のための居室が用意されていなければなりませんでした。17世紀までの移動を前提にした調度品ではなく、居室の装飾の一部としてトータルで家具を捉えるようになったのはこの17世紀以降のことなのです。つまりフランス中ひいては、ヨーロッパ中に設置式の家具を揃えなければならなくなったということで、18世紀に工芸品産業が栄えたのには、実はこのような背景があります。
ギリシア風の円柱の脚に支えられた机、ここにも日本の漆のパネルが中央に貼られています。当時ヨーロッパではオランダの東インド会社がもたらす日本の漆が最高級品として扱われていました。しかし17世紀に日本で輸出用に作られていたキャビネットは、その形が流行遅れになり、貯蔵庫に眠っていましたが、18世紀の小間物商はそれらを分解し、切り取って一枚一枚はがし、最新型の家具に貼り直す、というアイディアを思いつき、それが大流行します。しかし日本の漆を手にできるのは王族やそれに準ずる大金持ちくらいで、その他の人々は中国や他のアジア諸国の漆器、または漆を真似たフランス製のマルタン・ニスが塗られた家具を購入していました。

〈フランソワ・ブーシェ(François Boucher/1703-1770)の
壁布4連作の一枚〉パリのラッセー邸のブルボン公爵夫人(Duchesse de Bourbon/1750-1822)の寝室に由来 1775年頃、フランソワ・ブーシェの絵を元に、王立ゴブラン製作所で織られた

©RMN-GP
(musée du Louvre) / Daniel Arnaudet

この色鮮やかなタピスリーは、18世紀を代表する画家ブーシェの絵を元に、王立のゴブラン製作所で織られた作品です。王族のブルボン家女主人の閨房を飾るにふさわしい、絢爛豪華さを示しています。壁一面を覆う大きさのこのタピスリーは、中央に絵があり、その周りを金の額縁や花のリースが囲っているかのように見せかけています。その「絵」に描かれているのはアモルとプシュケの恋の物語。よく知られた古代ローマの神話からの主題で、新古典主義の時代の趣味をよく表していますが、これは宮廷女性が愛を育む閨房の壁を飾るのに、非常にふさわしい主題と言えるでしょう。
西洋では、ローマ時代から続く習慣で、各部屋の活動に合わせた装飾、つまり肉を食べる食堂では狩猟、寝室では愛の物語、音楽を奏でるサロンでは楽器や音楽などが表現されることがよくあります。

〈日本の磁器に金具を付け、香炉入れにアレンジした作品〉ポール・ランドン=ドゥ=ボワセ、続いてオーモン公爵コレクション由来日本製磁器(柿右衛門)、1670-1690年制作 ブロンズ製土台:パリ、1770年頃制作

©2011 Musée du
Louvre, dist. RMN-GP /
Thierry Ollivier

漆だけではなく、中国や日本の磁器は近代ヨーロッパでは大変もてはやされ、どの貴族の屋敷にも見られるものでした。ドイツのマイセンやオランダのデルフトの陶磁器製作の原動力となっていたのも、東洋の磁器への憧れだったのです。その中でも日本の磁器は最高級品として扱われていました。西洋の生活様式に合わせ、それらの器を金メッキを貼ったブロンズ製の台に取り付けて、このように香炉入れにするなどして使われていました。

▲マリー=アントワネットの筆・硯入れの蓋に描かれた小野小町の姿。百人一首の「花の色は……」の歌も書かれている

これはあまり知られていないことですが、王妃マリー=アントワネットは素晴らしい日本の漆器のコレクションを所有していました。その核となっていたのは、マリー=アントワネットの母、オーストリアのマリア・テレジア女帝が、鎖国中の日本で唯一商売を許されていた、オランダの東インド会社を通して手に入れた作品の数々です。

▲17世紀、日本から輸出された漆のキャビネットの対。原型を残す同類の作品は少ない

このコレクションは、他の漆パネルと違い、輸出用ではなく(輸出用の漆器は比較的質が低く、大型のものが多かった)日本の国内向けに制作された作品、それも将軍・諸国大名クラスの顧客向けに作られたと見られる、最高級品が揃っているのです(写真中央に見られるお香入れには、16枚の花弁を持つ菊花紋章が入っており、これは皇室の紋章だと考えられます)。

©M.S.

70点以上にも及ぶこの唯一無二のコレクションが今残っているのは、フランス革命が勃発し、ヴェルサイユを追われる直前に、危機を感じたマリー=アントワネットが信頼のおける小間物商に預け、彼が隠し持っていたために略奪を逃れたからです。これらの作品群は、そのひとつひとつが丁寧に箱にしまってあり、いかに王妃が大事にしていたかを物語っています。

[FIN]

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Update : 2014.8.1 文・写真 : 中澤理奈(Lina Nakazawa)ページトップへ

ルーヴル美術館

所在地
Musée du Louvre, 75001,Paris, France
Tel
+33(0)1-4020-5050
URL
http://www.louvre.fr/jp
E-Mail
question-internet@louvre.fr
開館時間
月・木・土・日:9:00-18:00
水・金:9:00-21:45(夜間開館)
休館日
毎週火曜日、1月1日、5月1日、12月25日
入場料
常設展のチケット:12ユーロ
ナポレオン・ホールでの企画展のチケット:13ユーロ
共通チケット:16ユーロ
(詳しくは:http://www.louvre.fr/jp/開館情報と観覧料/観覧料#tabs)
アクセス
地下鉄1・7番線、「Palais-Royal-Musée du Louvre」駅下りてすぐ
※この情報は2014年8月更新時のものです。
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