Dossier special - 海外の特集

  • 1.ウィーン美術史美術館とは
  • 2.主要展示室の紹介

ウィーン美術史美術館

クリムトの壁

 美術館入り口の正面にある豪華な中央階段を上がるとその天井は高くひらけており、その壁にはグスタフ・クリムトの壁画があることで有名です。美術館が一般公開される1年前(1890年)にグスタフ・クリムトが弟のエルンストや友人のアーティストと描いたものです。美術館の特徴である古代エジプトから18世紀後期に至る多種多様なコレクション内容を象徴的に描写しています。まだ若かったクリムトが独自のスタイルを確立する様子がうかがえる作品になっています。

 広いホールの向こう側に壁画があるため、以前は遠くに感じられましたが、いまはスワロフスキー社提供による専用の望遠鏡が備え付けられましたので、ぜひのぞき込んでみましょう。

▲グスタフ・クリムトらによる壁画
▲壁画鑑賞のために据え付けられている望遠鏡

絵画ギャラリー

 中央階段を上がってヨーロッパ式でいう1階(日本では2階)には、つねに約800点の絵画が展示されている絵画ギャラリーがあります。ハプスブルグ家の帝国コレクションを中心に、建物の右と左でオランダ、フラマンおよびドイツ絵画とイタリア、スペインおよびフランス絵画に分けられて展示されています。大きな展示室がいくつも連なっており、壁一面に所狭しと絵画が展示されている様子は、とても贅沢な気持ちにしてくれます。

 絵画ギャラリーの中で注目すべきはこの美術館が世界最大の作品数を誇るピーテル・ブリューゲル。《子供の遊戯》(1560年頃)、《バベルの塔》(1563年)、《雪中の狩人》(1565年)、《農民の踊り》(1568年頃)など美術の教科書で見るような大作がすべて一緒の部屋に展示されている様子は感動的でさえあります。すべての展示室にはソファが設置されているので、気に入った作品の前に座ってゆっくり鑑賞できるのもこの絵画ギャラリーのよいところ。
 そしてお見合い用にオーストリアに送られたというディエゴ・ベラスケスのスペイン・ハプスブルグ家王女マルガリータ・テレサなどの肖像画の数々。ヨーロッパ名門家系との婚姻政策によって繁栄したハプスブルグ家ならではのストーリーが描かれています。マリー=アントワネットなど歴史上のそうそうたる有名人に会うことができる美術館です。

▲カフェ
▲カフェの天井を見上げる

 絵画ギャラリーのフロアには美術館併設のとてもウィーンらしい雰囲気のカフェもあります。見上げるとエントランスホールから吹き抜けでつづいている立派な装飾のドームがあり、美術館全体に見られるコラージュのような装飾を楽しみながら貴族気分でコーヒーで一息つくことができます。開館時間が長い木曜日にはディナーも楽しめ、日曜日にはブランチもできます。

A Passion for Art

 現在、絵画ギャラリーと同じフロアではハプスブルグ家のひとり、フェルディナント2世の息子であり、目利きの美術収集家として有名なオーストリア帝国大公、レオポルド・ヴィルヘルムの誕生400年を祝して企画された「レオポルド・ヴィルヘルム・コレクション」が特別展示されています。レオポルド・ヴィルヘルムは500以上の大理石やブロンズの彫刻やタペストリー作品の他に、1400枚ほどの絵画、約350枚の素描を買い集めたといわれています。収集作品の多さもそうですが、ヤン・ファン・エイクやティツィアーノ・ヴェチェッリオ、ジョルジョーネ、ラファエルやルーベンスなどの数えきれないほどの名作の数々からも分かるように、そのクオリティの高さも見どころです。レオポルド・ヴィルヘルム・コレクションはこの特別展示だけではなく絵画ギャラリーや美術収集室(Kunstkammer Wien)などの常設展示にも含まれており、通常も観ることができます。

400年の時を経て再発見

 現在、美術史美術館のいちばんの目玉となっているのは、個人所有だったために400年にわたって一般公開されることがなかった2つの花の肖像画《フローラ》(1589年)を含むアルチンボルドの特別展示です。植物や動物、魚などいろいろなオブジェクトを組み合わせることによって人物を構成する作品で有名なジュゼッペ・アルチンボルド。彼は神聖ローマ皇帝、ルドルフ2世のお気に入りであったことでも有名なイタリア出身の宮廷画家です。2つのフローラは、基本的に植物、特に顔や上半身を花で構成された男(Flora, 1589)と女(Flora meretrix, ca 1590)の肖像画です。男のほうに比べ、女のほうには虫やタコなどの要素も描かれており、老いや時間の経過などが表現されています。美術史美術館所蔵の《地》《水》《火》《風》の連作「四大元素」とともに展示されています。2015年2月まで展示予定。

クンストカンマー(ウィーン美術収集室)

▲クンストカンマーの展示作品

 2013年に11年ぶりに再オープンしたウィーン美術収集室(Kunstkammer Wien)は、黄金の塩入れ《サリエラ》などが有名な美術装飾品や彫刻のコレクションで、美術史美術館の特徴を示すコレクションのひとつです。黄金の装飾が施されたクリスタルの水差しや、貝やダチョウの卵などに繊細な金の装飾を施したもの、いまでいうアイデアグッズ的な思わず微笑んでしまうようなものなど、とてもユニークな展示になっています。その中でも特に機能的で繊細な当時の科学計器の展示の美しさは必見です。

▲クンストカンマーの科学計器
▲クンストカンマーの科学計器

テーセウス神殿

▲美術史美術館の中央階段に移設されたアントニオ・カノーヴァの彫刻《テーセウス》

 美術史美術館を出てリング通りを国会議事堂のほうに少し歩くと、フォルクルガルテンという市民庭園があります。その庭園のほぼ中央にあるテーセウス神殿では現在、コンテンポラリーアートの企画展が開催されています。ちなみに美術史美術館の中央階段の踊り場中央に展示されているアントニオ・カノーヴァの彫刻《テーセウス》はこのテーセウス神殿から1890年に移設されたものだそうです。美術史美術館の入場券で入場できるので、時間に余裕のある方は散歩がてらちょっと寄ってみるのもよいかもしれません。6月から10月までは毎日11時から夕方6時まで開館しています。

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Update : 2014.10.1
文・写真 : 野々垣綾(Aya Nonogaki)
オーストリア・ウィーン在住。ファッションデザイナー
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ウィーン美術史美術館

所在地
Maria-Theresien-Platz 1010 Wien,Austria
Tel
+43 1-525-240
URL
http://www.khm.at/
開館時間
〈6月〜8月〉
木曜日以外 10:00-18:00
木曜日 10:00-21:00
〈9月〜5月〉
火曜日〜日曜日 10:00-18:00
木曜日 10:00-21:00
閉館30分前までに入館
入館料
年間チケット 34ユーロ
大人 14ユーロ
19歳以下 無料(年齢の分かる身分証の提示が必要)
そのほかは以下を参照
http://www.khm.at/en/visit/besucherinformation/hours-admission/
アクセス
地下鉄U3線フォルクスシアター(Volkstheater)駅下車、または地下鉄U2線ミュージアムクォーター駅下車。
路面電車(トラム)の場合は(1、2、46、49、D線)ドクターカールレナーリング(Dr.Karl Renner Ring)駅下車、または(1、2、D線) ブルグリング(Burgring)駅下車。どの駅からでも徒歩約3分。

MMMで出会えるウィーン美術史美術館

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※この情報は2014年10月更新時のものです。

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