ベートーヴェンの交響曲第9番を絵画化したこの作品には、冒頭から中盤にかけ、幸福への憧れ、人間の苦悩、野望、同情、敵対する力、さらに苦悩を和らげる詩が描かれ、最後の場面では交響曲第9番第4楽章の歓喜の歌で抱擁、接吻する男女がこの世の喜びを体現しています。作品の一部はレリーフ状になっており、女性の身に着けるアクセサリーやギリシャ神話の怪物テューポーンの目などに、金泥や貝殻石、鏡が使用され、作品にアクセントを与えています。音楽、建築、絵画、彫刻の要素が一体となったこの煌びやかな大作から、クリムトの芸術への多大なる敬意と表現の自由に対する熱意が伝わってくるようです。
展覧会のポスターにも使用されている本展一番の目玉作品は、1901年の第10回分離派展出品のために描かれた、クリムトの傑作《ユディトI》です。ユディトとは、自身の町を救うためアッシリアの将、ホロフェルネスを殺した古代ユダヤの女傑。美貌に恵まれ、美しく着飾ったユディトは、中世より多くの画家が好んで選んだ題材でした。
クリムトの描くユディトの作品は金箔で彩られ、宝石細工のような様相を呈しています。網目状の幾何学模様が描かれた平面的な背景とは対照的に、写真を基に描かれたと思われる艶やかな女性のポートレートが陰影のある柔らかいタッチで立体的に描かれ、そのコントラストがクリムト特有の装飾的世界を築き上げています。わずかに顎を上げ、目を半ば閉じた状態で、緩んだ唇から歯をのぞかせるユディトの表情は官能と誘惑に満ち、観る者を謎めいた魅力で包み込んでくれます。
[FIN]
Update : 2015.5.1 文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
*情報はMMMwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は観光局ホームページ等でご確認いただくか、MMMにご来館の上おたずねください。