6つのセクションからなる本展は、石橋財団のコレクションが形成された背景をクローズアップするかたちで幕開けします。1つ目のセクション(「芸術に魅入られた実業家一族」)で朝倉文夫(Fumio Asakura/1883-1964)による石橋正二郎の胸像とともに存在感を放っているのが、コレクションの黎明期を代表する青木繁の《海の幸》です。美術の教科書で馴染みの深い日本の重要文化財が、パリのオランジュリー美術館の企画展の冒頭を飾っている様子に思わず心が沸き立ちます。
続く2つ目のセクション(「初期の関心―日本近代洋画」)には、石橋正二郎の初期のコレクションである日本の洋画の数々が集められています。興味深いのは日本で評価を得たこれらの近代洋画家が、フランスと間接的、または直接的に関わりを持っていた点です。青木繁はフランス帰りの画家、黒田清輝(Seiki Kuroda/1866-1924)を師に持ち、藤島武二(Takeji Fujishima/1867-1943)、安井曾太郎(Sotaro Yasui/1888-1955)、坂本繁二郎(Hanjiro Sakamoto/1882-1969)、藤田嗣治(Tsuguharu Fujita/1886-1968)に関しては、自らフランスの地へと赴き絵画を学んでいました。当時印象派をはじめ、革新的な絵画の流派が生まれたパリは、世界中からアーティストが集まる、いわば芸術の都だったのです。展示されている日本の洋画からは西洋絵画の伝統的なデッサンの技法のかたわら、構図や色彩、筆触に同時代のフランス絵画の新風が感じられます。
そして本展の見どころでもある3つ目の印象派のセクション(「コレクションの中心―印象派」)は、オランジュリーのコレクションにもひけをとらない圧巻の内容です。マネ(Edouarad Manet/1832-1883)の自画像は、世界で2作しか存在しないうちのひとつとされる貴重な作品。一方でルノワールの描く少女像、モネの睡蓮、シスレー(Alfred Sisley/1839-1899)やピサロ(Camille Pissarro/1830-1903)の描くパリ近郊の風景など、各々の画家の代表的テーマの作品も、観る者をひとときも飽きさせません。4つ目のポスト印象派のセクション(「ポスト印象派コレクション―セザンヌからトゥールーズ=ロートレックまで」)でもセザンヌ、ゴーガン(Paul Gauguin/1848-1903)、ゴッホ(Vincent van Gogh/1853-1890)と、巨匠の作品が続きます。中でもセザンヌの《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》は青と緑とオレンジの調和がたいへん美しく、完成度の高さが際立っています。
美術史の流れを各時代の象徴的なアーティストの作品とともに辿ることができるのは、石橋財団コレクションのたいへん優れた点です。5つ目の20世紀のモダンアートのセクション(「モダン・アートコレクション―マティスやピカソから抽象絵画まで」)も傑出した内容で、ピカソ、マティスの描く古典的なモダンアートにモンドリアン(Piet Mondrian/1872-1944)やクレー(Paul Klee/1879-1940)の抽象絵画など、20世紀の美術界の躍動を感じさせる展示風景が広がっています。
そして本展の最後となる6つ目のセクション(「東洋と西洋の間で―戦後の抽象と具象美術」)では、戦後の芸術を紹介しています。ここでは「東洋と西洋の間」と題されている通り、東洋と西洋の芸術家の作品が混在しているのが特徴です。白髪一雄やポロックの抽象絵画は、大胆なタッチと油彩独特の質感がカンヴァス上で一体となり、力強いインパクトを放っています。時代とともに新しい領域を切り拓いた石橋財団のコレクションが、未来にさらなる可能性を秘めているのを感じさせる締めくくりです。
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Update : 2017.6.1 文・写真 : 増田葉子(Yoko Masuda)
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